夏フェスへの出演は抑えてレコーディングをしていたというGRAPEVINEは、秋風とともに配信限定シングル『EVIL EYE』を発表。女王様風の女性との色っぽいMVが話題になったと思ったら、高野寛をプロデューサーに迎えた新シングル『EAST OF THE SUN/UNOMI』をリリースする。高野との初顔合わせを楽しみながら、持ち前のシニシズムや密かな攻撃性を詰め込んだ新曲に、田中和将はたっぷりの自信とわずかな躊躇を感じているらしい。相変わらず忌憚なく自然体で答えてくれた。
インタヴュー=今井智子 撮影=若田悠希
一応ね、次のアルバムはほぼできてるんですよ。その中で高野さんとやったのは、4、5曲ぐらいなので、アルバム全部というわけではなく。基本的にはセルフプロデュースの部分は変わらないですね
――シングル『EAST OF THE SUN/UNOMI』がリリースされますが、その前に公開された配信シングル『EVIL EYE』のMVが大注目になってるんですけど。
「そうですねえ、おかげさまでざわついてくれましたね(笑)」
――セクシーな女性との絡みは、役得かと(笑)。
「(笑)まさしく」
――撮影はどうだったんですか?
「撮影はあっという間に終わったんです。練習テイク1回と本番2テイクの全部で3テイクで。編集作業なしの2本取っていいほうを選ぶ。僕としてはもっと失敗して何回もやりたかったんですが(笑)」
――(笑)監督さんから、「こういう風にやってください」とかあるんでしょ?
「基本的にはアドリブですけど、小道具があったりとかして。どこかのタイミングでタバコを吸わせて、ワインを飲ませるだとか、そういうようなこともありだよと監督さんが仰ってる中で、特に流れが決まってるわけじゃなく」
――お相手の女王様的な方とのノリで進んでいったと。ああいう話が来て、どうだったんですか?
「基本的に僕、移籍してから(GRAPEVINEは昨年5月にビクターに移籍)言われればなんでもやりますとは言ってるんです。ただし、期待に応えられるかどうかはわかりませんと」
――どっちの「なんでもやりますよ」なんですか? なんでもやります(ニンマリ)なのか、引きつりつつなのか(笑)。
「どっちでもいいですけど(笑)、今回はどっちかといえばニンマリですかね。無理やりやらされてるわけじゃないですから」
――あの女王様的な方はどういう方なんですか?
「それが、行く前から素性は明かされてなくて、詳しいことは聞かないでねと言われてたので、わからないんです。けど、おそらく本物の方ですね。先にホテルの1室でセッティングしてくれてるわけですけど、おはようございますって入って行ったら、もうあの衣装でいらっしゃって。自分の体のラインだとか、美しく見える感じをよくわかってらっしゃって。1テイク撮ってチェックする時のポーズから、すごいんですよ」
――立ち姿から決まってると(笑)。
「監督が、『カット、はい、(映像の)チェックしまーす』っていう間、僕はずっとこっち(女王様)をチェックしてました」
――そういう話を聞くとMVの味が深まりますが(笑)、歌詞はそういうことでもないですよね。
「歌詞は、監督さんいわく、自堕落なというか、わりとそういうクズ野郎の歌詞なんで、こういうビデオはどうですかと考えられたわけです」
――『EVIL EYE』も含め今回のシングル曲はいつ頃レコーディングを行ったんですか?
「一応ね、発表うんぬんはあれですけど、次のアルバムはほぼできてるんですよ。今年ほぼそれのために夏フェス出てなかったので。なので、夏の間に作業はやってましたね」
――今回のシングルは、“EAST OF THE SUN”も“UNOMI”も、高野寛さんプロデュースですね。
「前作ができたあとに、次回はどうしましょうかという話をするんですけど、その時から今度はプロデューサーをつけようよと話をしてました。誰がいいか、いろんな方が候補にあがったんですけど、制作を始めるちょっと前にたまたま高野寛さんとの出会いがあったものですから。そういうタイミングでお願いしてみるのはいいんじゃないかなと」
――そういえば6月の豊洲PIT(ツアー「GRAPEVINE tour2015」のファイナル公演)でやった時に高野さんを見かけた気がします。
「ああ、見に来てくれていましたね」
――あの頃から今回の話は始まっていたんですか?
「そのちょっと前ですかね。去年だったと思うんですけど、山口洋さんがやってらっしゃる『MY LIFE IS MY MESSAGE』というイベントにお呼ばれしたんです。その時に高野寛と名前が連ねられているのを見て、『お、これは』と思いまして。初対面だったんですけれども、ぜひ1曲ギターを弾いてくださいと頼んだんですよ。そのイベント自体がいろんな人のひとりのコーナーがあって、山口さんと絡みがあって、というのが決まりなんですけど、僕の時間にゲスト参加してくださいと話したんです。それで1曲弾いてもらって、それがなかなか面白くてですね、『今後もまた機会があれば、ぜひこんな感じで。かつ、今プロデューサーを探しているので、お声がけするかもしれません』みたいなことをこっそり言っておいて。それが去年の年末とかですかね」
――プロデューサーが入るのは長田(進/Dr.StrangeLove)さんの『真昼のストレンジランド』以来でしたよね?
「そのあとに、ミニアルバム『MISOGI(EP)』でマイケル河合さんがありましたけど、ここしばらくはセルフで。今回も高野さんとやったのは、4、5曲ぐらいでアルバム全部というわけではないので、基本的にはセルフプロデュースの部分は変わらないですね」
随分長いことほぼ5人バンドとしてやっておりますから(笑)、まあ出方も見えるわけですよ。それももちろん楽しんでやるわけですけど、また違った視点でもいいんじゃないかと
――高野さんといえばポップ職人的なイメージがありますけど。
「基本的には高野寛のポップ職人感を求めてたというよりは、きっとよくわかってらっしゃる方だからという。基本僕らがプロデューサーに求めることは、自分らが見えていないであろう第3者の目線というか、そういうものを求めてるので、高野寛の視点はどうだろう、というようなことを求めていましたね」
――高野さんから得た新発見はありましたか?
「あの人はすごく気を遣ってくれる方なので、最初のうちは遠慮もしてくださったんですけど、結果的にいろいろ、自らギターを――弾くというよりはノイズを鳴らしてくれたり(笑)。自ら音を入れてくれたりシーケンスを作ってくれたり、というようなことはいろいろやってくれて面白かったですね」
――例えばアレンジのアドバイスみたいなことではなくて?
「アドバイスもくれるわけですけど、アドバイスというよりは、アイディアマンのひとりとして、一緒に楽しんでやってくれたという感じでしょうか。やっぱりテイクのジャッジメントとか音質のジャッジメントとかは、あの人の得意分野だと思います。非常に楽しんでやってくれていましたね」
――他のメンバーの皆さんとはどうでしたか
「どうでしょうねえ、打ち解けたかなあ(笑)。わりとみんな大人なもんで(笑)、高野さんもクールな方なので」
――(笑)。音そのものに新たなニュアンスを求めるとかはあったんですか?
「そこまで考えてないですけど、先ほども言いましたけど、第3者が入ることで空気が全然変わるので。そういうところを我々はモチベーションにしているといいますか。そういうところで飽きないようにしているというか。刺激として必要なんですよ、定期的に。自分らでやってできるかできないかという問題ではなくて。おそらく違う視点が欲しいと」
――それは、裸の王様にならないためでもある?
「そこまで考えてないですけど、そういうニュアンスはあると思いますね。自分らでも極力客観視したいと思いますし」
――バンドだけで全部作ってると、手癖で固まっちゃうみたいな感じでしょうか。
「そうなんですよ。けっこう自分らでやってても想像できちゃいますし。我々の中でも、なるべくそれを避けようとするんですけど、それでも暗礁に乗り上げてしまうようなアレンジの場合もありますし。そういうところでもうひとり違う視点の方がいると、そこを楽しんでやれるといいますか」
――今は金戸(覚/B)さんとか高野(勲/Key)さんはほぼメンバーとして入ってますよね。彼らの目線もメンバー3人とは違うもの?
「そうですね。入ってもらったばかりの頃はそういう感じがありましたし。でも、随分長いことほぼ5人バンドとしてやっておりますから(笑)、まあ出方も見えるわけですよ、それももちろん楽しんでやるわけですけど。ライヴではもっと発展させてやるわけですし、レコードはまた違った視点でもいいんじゃないかと思いますし。仮にそれがうまくいかなかったとしても、それはそれでいいんじゃないかと思うんですよ。どうせライヴでまた変わっていくし」
――どうせって(笑)。
「(笑)どうせという言い方はあれですけど、いずれにせよライヴでまた曲がどんどん変わっていくわけですし、解釈が変わって当然だと思いますから。仮に、今回変なものできちゃったなと思ったとしてもそれはそれでいいんじゃないかなと」