私は宅録が楽しいことに気づけてよかった

――宅録を始めてSoundCloudに音源を公開したのもバンドメンバーを探すことが目的だったんですよね？

「そうなんです。バンドがやりたくて」

――未だにバンドに対する憧れはありますか？

「今はTHEラブリーサマーズというめっちゃ憧れの人たちが参加してくれる最高のバックバンドがいるので」

――じゃあ、SoundCloud時代にメンバーが見つからなくてよかったですよね。

「そうかもしれないですね。あのときメンバーが見つかってたらこんなに大好きな人たちがバックを務めてくれることもなかっただろうし」

――ラブリーサマーちゃんの音楽像は、不完全なままでそこに存在していることが最大の魅力だと思うんですね。完璧な不完全というか。もうこれ以上いじらないほうがいいデモ音源を聴いてるような感覚があって。この絶妙なバランスは宅録を通して得たものだろうし。

「なるほど、ありますよね、そういう感覚。だから私は宅録が楽しいことに気づけてよかったです。ラブリーサマーちゃんを始めたばかりのころはいろんな気持ちが混在していたんです。『早くバンドを組みたいのになんで私が自分でベースを弾いて録音しなきゃいけないんだクソ！』って思ったときもありますし、これしか方法がないからやってるみたいな気持ちもあって。やっぱり最初はできないことが多いじゃないですか？ それが悔しくて『次の曲では絶対MIDIの打ち込みをスルスルできるようになってやるぜ、コノヤロー！』って気持ちもあって。でも、SoundCloudに曲をアップするとけっこうリアルタイムで反応がくるんですよね。Twitterにも。そうしているうちに楽しくなっちゃって、もっともっと曲を作ってアップしなきゃという気持ちも出てきて。でも、感情としては悔しいが多かったと思います」

――ラブリーサマーちゃんの曲にある独特のヨレ具合などのニュアンスをバンドメンバーに伝えるのは難儀じゃないですか？

「やっぱりちゃんと言わないと伝わらないことが多いですよね。“青い瞬きの途中で”という曲のレコーディングのときもデモの段階ではシューゲイザーっぽい要素が強かったんですよ。でも、いざレコーディングしてみたら、ギターのハシダ（カズマ／箱庭の室内楽）さんがけっこうコブシの利いたギターを弾く方なので、ハシダさんのちょっとブリットポップっぽいフレーズを聴いて『あれ？ 私、これは予期してなかった』と思ってすごく動揺してしまって。スタジオですごい泣いちゃったんですよ。でも、あとになってちゃんと落ち着いて聴いてみたらシューゲイザーな感じよりもブリットポップっぽく転がってるほうがポップに聴こえるなと思って。それで納得してこっちにしようって決めたんですけど。でも、なんとなくデモを投げるだけでは伝わらないということを学びましたね。それからスタジオにデモを持っていくときはメモを作ったり、参考になっている曲のURLを貼ってGoogle Driveにアップしたりしてるんです。今はバンドのみなさんが上手く汲み取ってくださってホントに助かってます。やっぱり理解度がすごいんですよ」

――この『LSC』というアルバムはこれまでの集大成と新しい一歩が共存した、まさに名刺代わりとしての作品だと思うんですけど。

「そうですね。ホントに名刺代わりみたいなアルバムですね。今の私はまだ『こういう音楽をやってます！』みたいな固定したイメージを背負いたくなくて。いずれ私がジャズにめっちゃ傾倒したら『ジャズ以外のことは考えられない！』ってなる日がきてもいいと思うんですけど、今の私はあれもこれも好きみたいな状態なので。そういうモードが存分に発揮されてる……『開けてビックリ玉手箱！ いろんなタイプのサウンドが出てきた〜！』みたいな感じのアルバムになったなと思います。パワーポップが好きな人は“PART-TIME ROBOT”から入ってくれるし、ブリットポップが好きな人は“青い瞬きの途中で”とか“僕らなら”から入ってくれるし、シューゲイザーが好きな人は“天国はまだ遠い”から入ってくれるし、アーバンなテイストが好きな人は“202”から入ってくれるし、みたいな感じでいろんな入口から私の音楽を知ってくれたらメジャーデビュー盤として勝ったなと思っていて。個人的にリスナーとしてはコンセプチュアルなアルバムが好きだし、いつかはコンセプトをしっかり立てたアルバムを作りたいとは思ってるんですけど」

何をしているときもひとつに限定できる感情はない。私の音楽はいろんな色が混ざっていると思う

――ラブリーサマーちゃんの音楽って、音からも歌詞の筆致からも、人間ってすごく曖昧な生き物だということを理解している表現だと感じるんです。愛おしい行間だらけだなって。

「うれしい！ ありがとうございます。私がけっこう最近気にしていることを言ってくださったので、伝わる人には伝わるんだなって思いました」

――気にしていることというのは？

「『もし私が音楽ではなく絵を描くとしたらとか、詩を書くとしたら、どんなことを描くんだろう？』と思って。そこで思うのは、100か0みたいな気持ちって嘘くさいなということで。私、さっき『ラブリーサマーちゃんを始めたときにいろんな感情があった』と言ってたと思うんですけど、曲を作っているときも何をしているときも楽しいとかうれしいとか悲しいとか切ないとかひとつに限定できる感情はなくて。私の音楽はいろんな色が混ざってちょっと濁っていると思うんですよね」

――マーブル模様というかね。

「そうですそうです。その曖昧で細かい心の機微みたいなものをピックアップした歌を歌いたいんです。最近そういうことをすごく思ってたので、言われてビビリました」

――最後に、ラブリーサマーちゃんが近い将来に実現させたいことってありますか？

「う〜ん、そうですね……まだメジャーデビューすることに対する実感が全然湧いてなくて。しかも、私は顔出ししてないし、他のアーティストさんよりも露出が少ないほうだと思ってるんですね。なので、余計にメジャーデビューする実感が湧いてないと思うんです。だから、具体的にこういうことを実現させたいとはまだ言えないんですけど、とにかく自分がいいなあと思える音楽を作り続けて、それを世に出し続けて、それを聴いてくれる人がいるということをおばあちゃんになるまで続けていけたらなと思います」