R&Bの新たな地平へ踏み出すメアリー・J.ブライジの新境地を徹底検証!

ディスクロージャーのほかイギリスのアーティストとのコラボレーションを重ねて制作されたメアリー・J.ブライジの新作『ザ・ロンドン・セッションズ』。これがまた渾身の作品で、メアリーとしては2005年の『ザ・ブレイクスルー』以来かと思える傑作に仕上がっている。まず、楽曲が一つ残らず完璧だし、そもそも、ここまで果敢に自分のサウンドを刷新するという試みを、20年以上のキャリアを経て行っていること自体がすごいとしか言いようがない。間違いなくきっかけはディスクロージャーのシングル“F For You”への参加で、このシングルのメアリーの歌唱もとんでもない内容だったので、その後今回の試みが模索されたのもごく必然の成り行きだったはずだ。ディスクロージャーとの作品となれば当たり前だが、いくつものハウス・トラックをメアリーが歌い上げていること自体も、アメリカのR&Bアーティストではほとんどありえないことなので嬉しい。一度こういうメアリーを聴いてみたかったし、聴いてみたら実に素晴らしいからだ。その一方でイギリス的でクラシックなアプローチやイギリスのアーバン・サウンドを施した楽曲も揃っていて、どれもメアリーの楽曲と歌の物語をどこまでも際立たせているのだ。

(文=高見展)

『ザ・ロンドン・セッションズ』でメアリーとインスパイアし合う6組の気鋭アーティスト

ディスクロージャー

参加楽曲:“Right Now”、“Follow”

今回のアルバムが実現するためのキー・パーソンとなったと言っても過言ではないのがディスクロージャーだ。彼らのファースト『セトル』からのシングル“F For You”のリミックスでヴォーカルを提供することになったメアリーは、その手応えがあまりにもよかったため今回のプロジェクトを思い立ち、当初はディスクロージャーとのEPという形で進めていたというが、それが最終的にロンドンでフル・アルバムを作ってしまうというプロジェクトに発展したのが今回のアルバムなのだ。特にディスクロージャーについてはその90年代ハウスを思わせるサウンドがメアリーには大きな魅力となったようで、彼女はハウスの源流となっている80年代末のニューヨークやシカゴのクラブ・サウンドを自身が好んでラジオで聴いていたことに触れ、ディスクロージャーにその響きがあるのが好きだと発言している。今度の作品でのサウンドも、“Right Now”のようにソウルの形も残したニューヨークのディープ・ハウス風のものがあれば、“Follow”のようにシカゴ・ハウス風な作りで仕上げてきたトラックもあり、ディスクロージャーなりのサービスが見え隠れしてとても楽しい。

Disclosure “F For You feat. Mary J. Blige”

エミリー・サンデー

参加楽曲:“Whole Damn Year”、“Pick Me Up”

今回のアルバムで際立ってサウンドが斬新な“Whole Damn Year”、“Pick Me Up”の2曲にはエミリー・サンデーが参加していて、いずれもトラックとしても歌としても抜群な出来。エミリーは“Pick Me Up”のプロデューサーで共作者の一人でもあるノーティ・ボーイと作曲ユニットを組んでおり、彼らはチームとして楽曲をほかのアーティストに提供し続けることでそれぞれのブレイクをものにしてきた。その最初のヒット曲となったのが、客演したエミリーにとっても初のヒットとなったチップマンクの2009年のシングル“Diamond Rings”で、二人はその後も作曲チームとして活躍を続け、一方でエミリーは12年にファースト『エミリー・サンデー』を完成させチャート1位に輝くことになった。ノーティ・ボーイとエミリーの作曲チームでは明らかにエミリーが「歌」を担当しているのだろうが、それにしても“Whole Damn Year”と“Pick Me Up”の節回しはどちらも秀逸過ぎるのだ。

ジミー・ネイプス

参加楽曲:“Not Loving You”、“When You're Gone”、“Nobody But You”、“Follow”、“Worth My Time”etc.

今回のアルバムで誰よりも数多く楽曲に参加しているのはソングライターやプロデューサーとして活躍しているジミー・ネイプスことジェイムス・ネイピアで、7曲の制作に関わっている。2012年のディスクロージャーの『セトル』にコラボレーターとして参加して注目されたジェイムスは、その後サム・スミスのファースト『イン・ザ・ロンリー・アワー』でも大半の曲に携わっており、今回のアルバムではディスクロージャー・チームとサム・スミス・チームの両方に関わることになっている。ディスクロージャーの“Follow”やサム参加の“Nobody But You”といったかなりモダンなトラックから序盤の“Not Loving You”や“When You're Gone”などの極めてクラシックなトラックまで、そのオールラウンドぶりが印象的だ。『イン・ザ・ロンリー・アワー』でも手を組んだスティーヴン・フィッツモーリスとの“Worth My Time”などは、その静謐でいながら力強い曲調でアルバムを締め括る珠玉の名曲。

ノーティ・ボーイ

参加楽曲:“Pick Me Up”

今回のアルバムが一体どういう経緯から、ディスクロージャーとのEPから『ザ・ロンドン・セッションズ』というアルバムへと変わったのかはわからないが、ノーティ・ボーイやエミリー・サンデーの参加によってプロジェクトの性格が大きく飛躍したのは間違いない。特にノーティ・ボーイが作り上げるサウンドはイギリスのシーンの中でもヒップホップ寄りの、イギリスやロンドンに特異なものとなっているからだ。ノーティ・ボーイはエミリー・サンデーを無名の新人からブレイクさせたことで知られていて、その後エミリーの活動を軌道に乗せつつ、自身もヒット・プロデューサーとしてさまざまなアーティストの作品を手がけてきている。また、エミリーやサム・スミス、あるいはエド・シーランやバスティルらが客演する自身のプロデューサー・アルバム『ホテル・カバーナ』も2013年にリリースしている。硬質で複雑なリズム・パターンと醒めた感じのサウンドを身上とするノーティ・ボーイだが、自身が手がけた“Pick Me Up”はこのアルバムでも最もエッジの立った英国らしいサウンドになっている。

サム・ローマンズ

参加楽曲:“Doubt”、“My Loving”、“Long Hard Look”

今回のアルバムでも最もオーソドックスなバラードのひとつ“Doubt”や、ハウス・ナンバーの“My Loving”、エッジーなアレンジでメアリーの曲を極力引き立てていくバラードの“Long Hard Look”の3曲に参加しているサム・ローマンズだが、落ち着いた伸びのあるヴォーカルを聴かせるノーティ・ボーイのシングル“Home”がこれまでの唯一のリリースとなっている。なお、“Home”はダウンロード・リリースされたほかは『ホテル・カバーナ』のアメリカ盤のみの収録となっている。

サム・スミス

参加楽曲:“Therapy”、“Not Loving You”、“Right Now”、“Nobody But You”

今回のプロジェクトに着手した際、おそらくメアリーがディスクロージャー以外で最も注目していたのが当時すでに大ブレイクを果たしていたサム・スミスであるはずだ。もともとサムは2012年のディスクロージャーのシングル“Latch”に参加して初めて頭角を現すようになったというディスクロージャー繋がりもあるし、ディスクロージャー自身からのお勧めでもあったのかもしれない。いずれにしても、メアリーとしてはサムのファースト『イン・ザ・ロンリー・アワー』のクラシック感が重要だと感じていたはずだ。今回のアルバムではハウスやイギリスのクラブ・サウンドに近い音を探りつつも、それを補完するようにイギリス特有のクラシックなR&Bサウンドも備えておきたかったからこそ、サムをはじめ、彼のファーストに参加したエグ・ホワイトやジミー・ネイプスことジェイムス・ネイピア、スティーヴン・フィッツモーリスらにも声をかけたのだ。こうした狙いを見事に形にしたのが、エグ・ホワイトがプロデューサーを務めサムも参加しているオープナーの“Therapy”で、ブルース感もゴスペル感も同時に濃厚に感じさせ、このアルバムが腰の据わった試みであることを告げる名曲となっている。

Disclosure “Latch feat. Sam Smith”

Sam Smith “Stay With Me (Live) feat. Mary J. Blige”

『ザ・ロンドン・セッションズ』ミュージック・ビデオ/オーディオ集

アルバム・トレーラー映像

“Therapy”(リリック・ビデオ)

“Not Loving You”(オーディオ)

“When You're Gone”(オーディオ)

“Right Now”(ミュージック・ビデオ)

“Whole Damn Year”(リリック・ビデオ)

“Nobody But You”(オーディオ)

提供:ユニバーサル ミュージック

企画・制作:RO69編集部

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