出し尽くしてしまった分、生まれたてな感覚になってしまったので、何をするにも怖くて(YUKA)
――この作品は、言ってしまえばセルフタイトルみたいな作品だと思うんですよ。なので、そこに至る経緯はしっかり訊きたいなあと。
YUKA(Vo)動き出しは、去年の冬くらいですね。合宿行って、曲作ろうって。
――その合宿の段階では、どういう作品にしようという話だったんですか?
YUKAうーん、結構闇雲で。面白いものを作ってみようとか、こういうテーマにしたいからこういう曲をっていうより、とにかくかけらを作っていこうっていう、吐き出す作業だったような気がして。その時が一番しんどかった気もするね(笑)。
KOUSUKE MASAKI(G・Syn)なんにもなかったもんね。
YUKAmoumoonとして1年後にどういうふうになってるのかっていうことを今一度考える時期だったので、何かをイメージしたアルバムっていうよりも、何か新しくて、自分たちもハッとしたりドキドキするようなものがないとね、って模索する時間で。逆に、とにかくそういうことをしたかった時期だったんですよね。
――なるほど。
YUKA合宿で作業するとか、曲を新しく作るとか、全部のことが初めてやるように感じたような時期でしたね。前作の『LOVE before we DIE』の時にワーッと出し尽くしてしまった分、生まれたてな感覚になってしまったので、何をするにもちょっと怖くて。また初めて楽曲を世に出すような感覚になってしまって。でも、すごく怖かった反面、できた時の高揚感といったらまた今までと全然違ったり。そういうものを今度はツアーに持って行って。たとえば、“It’s Our Time”“Never look back”“cocoon”を披露してお客さんのダイレクトな反応を浴びて、どんどんブラッシュアップしていったんですけれど。
MASAKIレコーディングをちゃんとする前から、ずーっとツアーをやるっていうことも初めてで。そうすると、「あそこはもうちょっとこうしたら良かったな」みたいなことがわかってくるんですよ。だから、“It’s Our Time”には、最初はなかったアウトロをつけたりとか、英語で歌ってたのをAメロだけ日本語にしてみたり。そういうことも初めてでしたね。
――断片から作っていったというのは大きなヒントで。合宿でその断片を作ったというのは、まず自分たちのために作ろうという、言ってしまえば初期衝動的な部分だった気もするんですよね。
MASAKI自分たちがいいなこれっていうものがまずできないと次に進めない感じはありましたね。
YUKAこの時期はいろんなことがまだあやふやだったんですけど。でもきっと将来的にでき上がってるものは、ちゃんとぐっとくるものになってるはずだって励ましながら、何が出てくるんだ?って待ってて。で、その時に――。
MASAKIじゃあ、何も出てこなかったらどうしようってなるけどね(笑)。
YUKAなったね。ゆるい感じでしたけど、同時にすごく張り詰めたものがあったなと思う(笑)。今となってはとてもいい時間だったなと思ってるし、この半年間が3年ぐらいに感じる。
できたものを聴いてなんかドキドキしないというか。自分たちが楽しいって思うもの、ふたりがすげえ「これ何だ?」ってならないとダメだなと思って(MASAKI)
――その張り詰めは、やはり『LOVE before we DIE』が関係していると思うんですよね。あの作品は、今思えばまるで遺作みたいな作品で、要は、言いたいこと、やりたいことを全部やるっていう作品で。で、それがやれた作品だと思うんですよね。
YUKAうん。
――そもそも「死ぬ前に聴きたい音楽」というコンセプトで、これまでのmoumoonに向き合って結果的にすごくヘヴィなアルバムになったんですけども。
YUKA(笑)そうですね。考え方とか作り方、歌詞の書き方、全体の音の置き方とか捉え方とか、もう全部が変わった気がしていて。歌に関して言えば、『LOVE before we DIE』の時に意識してたエゴも、一回バラバラになって。moumoonとして調和するためには何が一番いいのかを日々考えるようになっていって。そういうことばっかり考えてました。
MASAKI作ってもなんにも感じなかったらどうしようっていうのはありましたね。いろんな音楽を「まあこれはちょっと面白いな」とか、分析的に聴いて。でもやっぱり、のめり込む感じはなくて。「これ超最高だわ」って言えるものって何だろうなって、ずーっと考えてましたね。で、自分が作って、ちょっとできたものを聴いても、「うーん、まあまあだな」みたいな感じで(笑)。ほんとにこう、ドキドキしないというか。たとえば、タイアップっていうテーマがあって、それにぴったり合わせて、かつ、自分たちもみんなもいいなと思ってくれたら最高ですよね。“I’m Scarlet”っていう曲が入ってますよね。これはそういうテーマがあって作ったんですけど、自分たちっぽいなって思える曲で。だからね、そういうやり方の時はいいんですよ。でも、さあ自由にやっていいよ、何やってもいいよ、全部英語でもいいし日本語でもいいし、シンセだけの音でもいいよ、バンドサウンドでもいいよ、ってなった時に――何やったらいいんだろうなって。じゃあ、ふたりが「これ何だ?」「今のリフみたいの良くない?」ってなるような曲じゃないとダメだなと思ったんですよ。
YUKAうん。
MASAKIそれが一回の合宿で何度か起きた。それにすごく救われてますね。そういうマジックがいくつか起きて、やっと曲にしていい状態というかね。ずっとそんなことをモヤモヤ考えてましたね。
――なるほど。
MASAKIそういう意味では、“It’s Our Time”なんかはイントロが始まって、「ああ、最高じゃん」っていう感じはちょっとするんですよね。
YUKABメロができた時に、あ、この曲はイケる気がする、みたいな可能性を感じて。その場で歌いながら、符割りもこうして、歌詞の細かさもこれぐらいにすればきっとバランスがとれる、みたいな。
――ふたりはその実感が欲しかったんだと思うんです。それは言うなれば、フィジカルな実感だと思うんですよ。躍動できているかどうかという実感があるかないか。それで、良い/悪いのジャッジが行われていた感じがするんですよね。
YUKAああ、そうかもしれない。