空きっ腹に酒、「粋」を掲げる10年目
――新作『粋る』を語る(2)
型に嵌めると、急に何もできなくなる。水を失った魚のように(西田)
――今までは、受け入れてもらえなくても、自分らが楽しいことをやれていればいい、っていう気持ちで突き進んできたというか。
田中 それもあるし、人と違うことしたいっていうのが大前提であって。でも、そのうちに、何やっても人と一緒になれへんっていう苦悩が出てきたんですよ。うわ、何やっても空きっ腹に酒になる!って。それは、いいことでもありますけどネックでもあって。癖の強いものばっかり作るつもりでもなかったはずなんです、最初は。みんなでワイワイ騒げる音楽も嫌いじゃないし。でも、何やっても変になるから、もっとストレートになりたいなって。まともになる練習をしたっていうか。
――ある種ぜいたくな悩みですよ。バンドって、オリジナリティを模索して苦悩するものだと思いますけど、逆っていう。
田中 そうですね(笑)。
シンディ 作曲はみんな別々なので、それぞれ個人的なテーマもあって。僕は、途中で入ったのもあって、まだ空きっ腹に酒で見ていない要素を出したいっていうテーマでやってましたね。
西田 多分、みんなバラバラなんです(笑)。
田中 それは詰めて話さないよな。
西田 いや、詰めて話したはずなのに、いつの間にかバラバラになってるんです。そういう10年でしたね(笑)。気がつけば、みんな違うことを考えてるっていう。
――でも、だからストレスなく10年続けていられるんじゃないですか? こうしなきゃいけない、って無理やり同じ方向を見させられたら、辛いでしょう。
西田 確かに、枠を決めたり、型に嵌めようとすると、急に何もできなくなるバンドですね。水を失った魚のように。
田中 泳ぎたい~!って。
シンディ っていうか、死ぬけどな(笑)。
――(笑)。今作は、聴きやすさを追求した結果、元々のコアな部分も際立って、振り幅が出ましたよね。バランスがいいっていうか。
田中 バランスは、みんな取りたがりなのかもしれないですね。この曲があるから、こういう曲も入れたほうがいいんちゃう?とか。激しいだけじゃないものを作りたかったし。
シンディ その枠は決めてたかな。同じような曲は入れない、っていう。
――あと、全体の共通点としては、どんなテンポでもどんな曲調でも踊れる曲になっていますよね。
田中 そこは大事にしてるかな。一回言われて、めっちゃ面白いと思ったことがあって。僕、楽器できないから、作曲の時は(3人を)ほったらかしにしているんですよ。でも、おらんと曲ができんって言われて。おまえが踊ったり、ノリで反応してたら、それがきっかけになるからおってくれ、って。僕、何もしてないんですけど。
西田 大事なんですよね。踊ってると作ろうかな、って気になるんです。
田中 僕、そこから自分が踊れるかどうかが気になって、ほんまに楽しくないと踊らんとこか!って(笑)。
西田 ひとりでやってると迷子になるんですよね。いいやんとも誰も言わへんし。
(田中は)楽器できないですけど、一番反応してくれる(シンディ)
――体って、いいリフやビートだと勝手に動きますよね。
田中 うん。僕、3人が勝手にセッションしてる状態のファンですし。ほんまお客さんの気分ですよね。この人たちは、僕のことを盛り上げるためにやってるわけじゃないだろうけど、なるべくフラットな状態でいても、つまらんかったら動かんし、引っ掛かったら体は勝手に動きますね。
――幸輝さんを踊らせてやろう、っていう気持ちはないんですか?
シンディ 楽器できないですけど、一番反応してくれるんで、煮詰まった時の指針になります。
西田 メーターや(笑)。
田中 使われてる(笑)。
西田 幸輝メーター(笑)。
いのまた 航海士やね。
西田 踊らせてやろう、とは思わないけど、ビートが効いた音楽しか好きじゃない節があるので。だからどんな曲調でもいいビートを、ってなります。
――どんな曲調でも踊れるのは、幸輝メーターのおかげですね(笑)。フロントマンでバンドの顔でもありながら、お客さん第一号っていうのが面白いです。
田中 僕、正直オケで聴きたいんです。僕の音が入ってないほうがいい(笑)。僕は、うちのギターとドラムを見てバンドを始めたんで、憧れも強くて。高校の先輩なんですけど。だから、ライブ中も、3人はカッコいいやろ、見て!っていう気持ちが強いんです。
――何となく、フロントマンだと、俺を見ろ!って思いそうですけど。
田中 その気持ちもありますけど、4人の塊として見てほしいし、僕が下がった状態でもカッコいい演奏を見てほしいから。
――そういう中で、歌詞やメロディをのせるのって、悩みません? このカッコいい3人の音に、どう俺の歌をのせよう、って。
田中 悩みますけど、そのへんの考え方は複雑で。昔は、曲とは別で歌詞を書いていたんです。だから、曲ができたら、それに無理やり歌詞を当ててたんです。言葉に干渉されるのもイヤやったし。でも最近は、曲ができてから歌詞を書くことが増えて、メンバーの意見も聞くようになりました。ラップやし、メンバーが喜びそうなリズムのとり方とか考えて、こんなんよくない?ってプレゼンの気持ちでやっています。
――言いたいことを重視しているのかと思いきや、曲も重視しているんですね。
田中 最近はそうですね。一個テーマが生まれたら、そこから言葉を選んでいくんですけど、あとで意味に気づくこともあって。“グル”とかそうなんです。何のことを俺は歌ってるんだ?って不思議に思いながら書き殴ってたのに、書き終わったら、こういうことを歌いたかったのか、って気づいて。人間って、究極無意味な言葉は発さないじゃないですか。無意識に言葉を選んでても、何らかの意識は入ってしまう。そういうのも楽しかったですね。
――“グル”は不思議な歌詞ですけど、“グル”っていう謎の言葉に集約されて、全て繋がっているっていう。その一方で、シリアスな“生きるについて”も映えていますね。
田中 めっちゃ追い込まれて書いた歌詞なんです。それで、一回音楽制作をしてることを忘れよう、現状や将来への不安を書いてみようと思って書いたんです。6枚アルバム出してる中で、一番素直な歌詞だと思います。スタジオに缶詰め状態で書いて、ほんまに生きるについて考えて書いた歌詞(笑)。このままやったら死んでまう!って。
――その状況で《ただ生きているだけが難しい》って言葉が出てきたんですね! 曲調は聴きやすいですけど、こういう歌詞がのってることによって深みが増してて、これからバンドを引っ張っていく曲になりそうな気がします。空きっ腹に酒の曲は、無心になって踊れるだけじゃない、っていう。
田中 確かに。
――歌詞などでしっかり考えさせる頭脳的な部分と、絶対的に踊れる感覚的な部分、どちらも磨かれてきた感じがしますね。
田中 最強みたいやな!
西田 ハイブリッド!
――両極を磨いたらロックバンドとして最強ですよね。
田中 そこは、さっき言ったバランスを取れるところが生きているのかもしれないですね。どっちかだけっていうのが、あまり好きじゃないのかもしれない。
――磨かれてきた今があって、且つ、この10周年のタイミングだからこそ、『粋る』っていう印象的なタイトルが付けられているのかなと。これ、読み方と漢字の組み合わせがまさに粋というか、発見ですね。
田中 最初は“生きるについて”から『生きる』にしてて、ちょっと捻ったほうがいいかなって思って『粋る』にしたんです。結構みんなに面白いって言われるんですけど、最初はね、微妙やと思ったんです。でも結果として、粋な作品になったかなって思ったし、粋って言われるのって、カッコいいって言われるより深いっていうか。タイトルを付けてから粋っていう言葉が好きになりました。
――でも、最初はピンときてなかったんですね。
田中 うん、読みにくいし。『粘る』に見えません?
西田 乱視入ると『粘る』になる(笑)。
――でも、おっしゃっていたように、粋って深みがあるし、それも結成10周年の今作に相応しいですよね。結成1、2年目のバンドがいくらカッコよくても、粋とは言わないじゃないですか。
田中 うわあ、嬉しい。まあ、10年粘ってきたしな(笑)。