VINTAGE TROUBLE
新譜『1 Hopeful Rd.』リリース!ロックンロール、その本物の魅力がすべてつまったヴィンテージ・トラブルを徹底分析

2011年の『ボム・シェルター・セッションズ』で60年代のソウルやR&B、ビート・ロックのエッジを蘇らせるサウンドを衝撃のパフォーマンス力とともに叩きつけたヴィンテージ・トラブルが、なんとあのジャズの名門ブルーノートと契約し、新作を引っ提げて帰って来た! 近年のブルーノートといえば、特にノラ・ジョーンズなどオーセンティックな素養の確かさを感じさせながらもジャンルやスタイルにこだわらない活動で知られるアーティストを抱えるレーベルともなっているので、今後のヴィンテージ・トラブルの躍進もまた期待されるところだ。新作『華麗なるトラブル』は基本的には前作と地続きなものになっていて、自分たちの強みをあらためて確認し、それをさらに徹底的に磨き上げて提示する作品となっている。つまり、ブルース、ソウル、R&B、ロックをいかにも60年代的なサウンドとして捉えてみせるわけだが、それは一見するとただのレトロ的模倣のように思えて、実はオーティス・レディングやジェイムス・ブラウン、あるいはザ・ローリング・ストーンズやザ・フーなどが同じ次元で広く聴かれていた時代のサウンドを、想像的に作り直してみる試みなのだ。

(文=高見展)

アルバム『華麗なるトラブル』の聴きどころを一挙解説

冒頭を飾るのは"Run Like The River"で、前作の"Blues Hand Me Down"同様、オープナーとして思いっきりアドレナリンを噴出させるようなナンバーとなっている。内容は逃避行を歌う曲となっているが、なんといっても特徴的なのはスライド・ギターを弾きまくっているところで、ある意味ではこれが新作のサウンドの最大の新機軸となっている。これまでのヴィンテージ・トラブルのサウンドは非常にタイトなR&Bやソウル、あるいはビート・ロック的な音が軸となっていたので、このたたみかけるようなリズムと拡がりを持つギター・サウンドはとても刺激的で新鮮だ。かつてレッド・ツェッペリンがサード・アルバムの『Ⅲ』で南部のブルースをインスピレーションとして取り組み、スライド・ギターを多用したことも彷彿とさせ、妙にそそられる魅力を持っているのだ。

"Run Like The River"

この曲に次いで印象的なのはより70年代的なブギ・ロック・リフを聴かせる"Angel City, California"。ひたすらブギで煽っていく必殺ナンバーとなっているが、さらに特徴的なのは、このバンドがこれまで男女のやりとりの機微などをごく普遍的な形で歌う歌詞が多かったのに対してこの曲はロサンゼルスについて歌ったアンセムになっていることだ。もともとこのバンドはそれまで別々のユニットで活動していたヴォーカルのタイ・テイラーとギターのナル・コルトがロサンゼルスで始めたプロジェクトだったわけだが、要するに、それまでロスで活動しながらもあまりうまくいかなかったミュージシャンたちが、これを機に思いっきり好きなことだけやってみようと臨んだユニットなのだ。その後ライヴも高い評価を受けてブルーノートとの契約も掴んだわけだが、この曲はそれもLAというシーンがあればこそ可能だったのだというオマージュになっていて、珍しくバンドの趣味性よりもメンバーの顔の方がよく見えてくる曲になっている。

本作も前作同様に素晴らしいバラードやミディアム曲がいくつも収録されているが、このバンドの趣味と美学をよりよく体現しているのがオーティス・レディングの持ち歌としか思えないM5"Shows What You Know"。タイのヴォーカルの節回しも本格的で聴き応え満点だが、なによりもスタックス・レコードのハウス・バンドだったブッカー・T・アンド・ザ・MGズとしか思えないようなバンド・アンサンブルもお見事。続く"My Heart Won't Fall Again"は逆にタイのヴォーカルのこぶし回しが最高に気持ちのいい楽曲となっていて、こちらはむしろウィルソン・ピケット風の骨っぽさと軽快さが同居したかっこよさがたまらないし、バンドもまたそういう音として演奏していて、素晴らしい息の合い方だ。

GlastonburyTrouble

前作と地続きという意味で最もヴィンテージ・トラブルらしい楽曲といえばまず間違いなくこの"Strike Your Light"となる。冒頭からたたみかけるドラムとハンドクラップといい、かなりアゲアゲな内容となっているが、本編に入ってからのクラシック感があまりあるほど溢れ出すようなメロディとギターのアレンジはまさにこのバンドならではの魅力だと痛感させてくれる。この異常に盛り上がるコーラスといい、これはもはやVT節としか形容のしようがないオリジナリティとなっているのだ。

また、これまでバンドはブルース・リフを無数にモチーフにしてきたわけだが、M9"Before The Tear Drops"のような最初から最後まで完璧なモダン・ブルース演奏というのも初めてで、これがまたかなり聴かせる内容となっているだけでなく、やはり"Strike Your Light"などと同じようなオリジナリティや個性を感じてしまうのだ。それはほかの数々のソウル・バラード曲にもいえることで、さすがにセカンドでこれだけのクオリティの楽曲がオリジナル曲として揃ってしまうと、もうこの音自体がある時代についての言及というよりは、このバンド自体の個性だと思えてくるのだ。

それ以外にも、いかにもこのバンド的な実験や試みとなっていて心憎いのは、60年代R&Bサウンドへの異常な執着と70年代のハード・ロック的なギターワークを融合させたM11"Another Baby"で、結果的に生まれて来たこの曲のサウンドがとてもブリティッシュ・ロック的な硬質なものとなっているのがかっこいい。タイのヴォーカルを聴いているととてもソウルっぽくてジェイムス・ブラウン的なこぶしも利いているのだが、なにやら聴いているうちにザ・フーやザ・スモール・フェイセズなどを感じさせるところがとてもスリルに満ちているのだ。こうしたロックのダイナミズムや歴史までひとつの曲に落とし込んでいくような芸当はなかなかできるものではない。メンバー全員の素質の高さを見せつけるものだし、ますますこの先の活動が楽しみでしようがなくなるというものだ。たとえば、このバンドがいずれファンクという要素を打ち出してくることはあるのか。あるいはこのスタイルでさらにクオリティの高い楽曲を作り続けていくのか。その行方はどっちに転んだとしても必ず見届けたいというものだ。

数々のフェスをはじめ、エネルギッシュなパフォーマンスでオーディエンスを鷲掴みにしてきたヴィンテージ・トラブル。過去~最新の必見ライヴ映像

"Run Like The River"

"Strike Your Light"

"Run Outta You"(『ボム・シェルター・セッションズ』より)

"Still and Always Will"(『ボム・シェルター・セッションズ』より)

提供:ユニバーサル ミュージック

企画・制作:RO69編集部

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