吉澤嘉代子×曽我部恵一 「東京」と「歌」をめぐる、シンガーソングライター対談(2)
曽我部 モロ出しより、隠そうとしてるけど出ちゃってるくらいが、魅力的な表現だと思う。吉澤さんの歌もそうなってる
――曽我部さん、変身願望は持ってたりしますか?
曽我部 変身願望――って言うのかわかんないけど、舞台を設定して、たとえば女性が主役の曲を作ってみることはありますね。もう疲れた初老の女性歌手とかね。そんな気持ちも、自分の中のどこかにきっとあるじゃないですか。そういうところに光を当てて、主役にして歌を作ることはありますね。
――その舞台設定とキャラ設定をきっちり決めて、そのキャラに「変身」する、っていうのが吉澤さんの歌の特徴でもあるんですよ。
曽我部 ああ、なるほど。
吉澤 基本的には、自分の等身大ではなくて、物語の主人公に向けて曲を書くことを芸風にしてきましたね。“東京絶景”も、自分ではなくて、友達の目から見た――しかも、人ってたくさんの側面があるんで、「この人!」って思って決めてかかっちゃうと書けなくて。この人の色濃い部分を抽出して、新しい主人公を設定して書く、みたいな感じですね。
曽我部 へえー。作家的な感じなんだね。
吉澤 今回は「日常」をテーマにアルバムを作りたいと思ったんですけど。「日常を舞台にした物語」っていうことで、そんなにこれまでと作り方は変わらないかなあって。
――だから、舞台設定とか人物像とかはフィクションかもしれないけど、そういう作家的な手法の中に、吉澤さんのリアルな皮膚感覚は出てるかもしれないですね。“東京絶景”は特にそうですけど。
吉澤 ああ、確かにそうですね。この物語とか出来事はフィクションだとしても、その芯にある感情の部分は本物じゃないと、曲が輝かないと思うんで。そこだけは自分の気持ちではありますね。そうしたら、フィクションの中にノンフィクションを入れることができるかなあって。
曽我部 歌詞を先に書くんですか?
吉澤 そうですね。いつもタイトルが一番最初なんですけど。タイトルがあって、「このタイトルの曲を歌いたい!」っていうところから詞を書いて、メロディはあとから、っていう感じですね。
――詞からメロディとサウンドが生まれて、最後マーティ・フリードマンになるのは面白いですね。
曽我部 なんでマーティ・フリードマンなんですか?
吉澤 “化粧落とし”っていう曲なんですけど、サビで化粧を落として女性が豹変するっていう、裸になる時みたいな部分を描いていて。それで平歌からサビへの豹変の部分で、メタルっぽいアレンジにしよう!ってなって、マーティ・フリードマンさんっていう(笑)。
――吉澤さんは曲を先に作ることってあります?
吉澤 すごく苦手なんですけど、たまにありますね。
――曽我部さんはどうですか?
曽我部 僕はいろいろですね。詞が先にあるのもあるし……でも、詞が先にあると、詞がすごく重要になってくるから、ある時からそれがすごく面倒臭く思えて。詞先にすると、「言いたいこと」がすごい出ちゃうなあと思って。伝えたくないのに、「言いたいこと」がボロッと出ちゃうから。だから、曲を作って、どうでもいい言葉を乗っけて――でも、そこにあるものって実は結構、「ああ、自分ってこういうものなのかな」って思わされるようなところもあるからね。昔、「カットアップ」っていう文学の手法があって。新聞とかを持ってきて、文章を適当に切るのね、何も見ずに。それをバラバラにして並べ替えて、そのまま小説にする、みたいな。「作為性も恣意性もない部分に何かがあるんだ」って。そういう作り方もあるのかなあって思うんだよね、俺はね……でも、もともと吉澤さんの場合は、架空の設定があるから、それが一個「言いたいこと」のフィルターになってるのかもね。それがないと嫌じゃない?
吉澤 そうなんですよね、嫌なんですよ。気持ち悪いんですよ(笑)。
曽我部 そこに本質的なものとか真実があることは大事なんだけど、「俺のハートを全部ここにぶちまけました」って言われてもさ、「いや、それはちょっと」っていうのはあるじゃん? 主人公を作って、架空の物語を歌ってるからって、そこに自分が出てない、っていうことはないもんね。
吉澤 そうですね。どこかに必ず滲み出てますよね。
曽我部 そこがいいんだよね。それが好き! モロ出しよりも、隠そうとしてるけど出ちゃってるくらいが好きなの。魅力的な表現って、そういうところにあるよね。「伝えたい! 伝えたい!」だと、熱意はわかるけど、僕らが欲しいものとか、ハッとさせられるものって、そこじゃなかったりすることもあるよね。でも、今は歌を歌う人って、わりと「伝えたい!」「私のことをわかってください!」っていう人が多いから、そういう中では吉澤さんの世界は、「えっ? この人どんな人だろう?」って歩み寄っちゃうような歌にはなってるよね。
吉澤 私は「伝えたいこと」って、ほとんど今までないんですよね。でも、「この言葉とこの言葉の組み合わせで新しいイメージが浮かぶ」とか、語尾だったり表記だったり、「ここで漢字を選びます」みたいな――たぶん、自分が気持ちよくなるためだけのやり方で書いてるから(笑)。基本的には「この主人公をこのあとどう動かすか」っていうことと、言葉の面白さ、おかしみを自分で楽しむっていうことだけで作っていて。でも、必ず自分はどこかに出てると思うんですよね。それを物語として書くことによって、曲との距離を保っていると思うんですけど。だから、「吉澤嘉代子ってこういう人なんだ!」って思われる時が、一番不快になりますね(笑)。
曽我部 空想って大事だよね。今は空想より現実が覆いかぶさってきちゃって。浸りたいなあ(笑)
吉澤 むしろしっかりしたいって思います(笑)。地に足をつけたいって
曽我部 なんか、空想って大事だよね? それがあるよね、吉澤さんの歌には。
吉澤 そうですね。ほぼ空想で作ってます。曽我部さんも空想しますか?
曽我部 もうないね。子供の頃はすごくしてたよ。今はもう、空想よりも現実が覆いかぶさってきちゃって。全然ダメ、アーティストとして。子供の頃とかさ、空想だけだったよね。吉澤さんはたぶんもっと、小3とか小5の頃とか、おまけに学校も休みがちとかだったら、空想が相当支配するよね?
吉澤 もう、現実と空想と、頭の中がごっちゃになってましたね。
曽我部 ほぼそっちが現実になってくるよね。で、それがまだ残ってるよね。
吉澤 まだ残ってますね(笑)。
曽我部 それをどれだけ残せるかが勝負だよね。俺なんか、もうないもん。超リアル。浸りたいなあ(笑)。だから、逆に言うと吉澤さんはまだ「浸りたい」っていうのはないと思う。まだ空想の中に片足入ってるかもしれない。
吉澤 私はむしろ、しっかりしたいって思いますね(笑)。地に足をつけたいって。
曽我部 地に足ついちゃうとね、大変だよ?
吉澤 ほんとですか?(笑)。たぶんその、学校に行ってなかった時間が、社会性とかを育む時期だったと思うし、そこがすっぽり抜けてるんで。今でもちょっと「浮世離れしてる」って言われたりして、それがコンプレックスでもあるんですけど。
曽我部 いいんですよ、そんなのは。歌手なんだから。しっかりしてても困るし(笑)。

ミュージックビデオ
リリース情報

2nd ALBUM『東京絶景』
発売中
初回限定盤(CD+DVD)CRCP-40446 ¥3,241+税
通常盤(CD)CRCP-40447 ¥2,778+税
1.movie
2.ひゅー
3.胃
4.ガリ
5.ひょうひょう
6.ジャイアンみたい
7.手品
8.化粧落とし ※リテイク
9.綺麗
10.野暮
11.ユキカ
12.東京絶景
DVD ※初回限定盤のみ
「綺麗」MUSIC VIDEO
「ユキカ」MUSIC VIDEO
「東京絶景」MUSIC VIDEO
ジャケット撮影メイキング映像
ライヴ情報
絶景ツアー「夢をみているのよ」
2016年4月9日(土) 札幌cube garden
2016年4月16日(土) 岡山CRAZYMAMA KINGDOM
2016年4月17日(日) 福岡スカラエスパシオ
2016年4月23日(土) 仙台Rensa
2016年4月27日(水) 名古屋市芸術創造センター
2016年4月29日(金・祝) 大阪ビジネスパーク円形ホール
2016年4月30日(土) 東京国際フォーラム ホールC
提供:日本クラウン
企画・制作:RO69編集部