名古屋発の4ピースバンド、バンドハラスメント。結成から1年で大型フェスに出演するなど早い段階から抜群の存在感を示していたが、レーベル立ち上げ、ミニアルバム&シングルのリリース、初ワンマン&主催フェスの開催――と盛りだくさんだった2017年は、メンバー自身にとって決して華やかなものではなかった。そんな彼らが2月7日にリリースした1st EP『鯉、鳴く』は、バンドの足掻いた跡も、自分たちのどういうところに光を見出したのかという点も思いっきり曝け出してみせるような生々しい作品。なぜこのような作品が生まれたのか、制作の過程を改めて振り返ってもらった。
インタビュー=蜂須賀ちなみ
苦しい時といい時の落差で成長できた(井深)
――2017年はバンド的にかなりトピックの多い年でしたが、みなさんの体感としてはどんな一年でした?
井深(Vo) 僕にとって2017年っていうのはバンドとしていろいろな経験ができたなって思う年で。苦しい時期もあって、自分たちで「これを乗り越えるためにはどうしたらいいか」っていうのも考えたし、逆にいい時もあったんですけど。そういう落差があったからこそ、その分自分たちも成長できたのかなって思ってますね。
はっこー(Ba) 僕は思っていたよりは結果が出てないなっていうふうにずっと思っていて。でも年末にCOUNTDOWN JAPAN(17/18)に出させていただいて、そこで思ったより人が来てくれたので、やっぱり知名度が広がってきてるんだなっていうことを実感できたのは嬉しかったです。
ワタさん(G) 去年一年間でサーキットとかフェスにもたくさん出て、たくさん対バンもしたんですよ。それによって自分らのバンドの性格も試されたりして、寄り道をしていた感覚もあって。それを踏まえて今年はもう一回原点に戻るというか、またまっさらな状態から始めたいなと思っています。
――というか、傍から見たらそんなに苦しい時期があったように見えなかったんですけど。
斉本佳朗(Dr) 自分としてはやっぱりこの一年は一歩出れてないなっていう感覚があって。同い年のバンドがどんどん活躍していっている中、そこに追いついてないなっていうのを身に染みて実感したんですよね。
――それはどういうところで?
斉本 主にライブの熱量ですね。去年はいろいろなライブハウスで演奏する機会が多くて、ツアーも、2016年にかかっていたものを入れると日本を3周分ぐらいしたんですよ。そんな中で、他のバンドのライブを観たり(メンバーと)話したりすると、やっぱり自分たちは劣っているな~っていう実感があって、課題が何個も出てきて、それを改善してもそのバンドはすでにその先へ行っていて……っていう繰り返しでした。
――去年のシングルは、ライブを意識した音作りを目指して、同期を入れずに仕上げていたじゃないですか。
斉本 それも実は他のバンドの影響だったんですよ。僕らの曲って大きなステージでも映えるっていうメリットはあるんですけど、ライブハウスでは映えにくくて。最近は同期を使わずバンドサウンドで勝負しているバンドの人気が出てきているっていう実感があるし、僕らの世界ではライブハウスで表現できるものを作っているバンドが輝いて見えるんですよ。それで同期をなくしてみたりしたんですけど、やっぱり周りに引っ張られていた感が結構あって。
はっこー ライブも音源制作もそうなんですけど、僕らなりにいいものができたと思って自信を持って出しても、やっぱり同じタイミングで出した同世代のバンドの方が売れてたりする現状があって。そういうのを見て「どこがダメだったんだろう」「なんであのバンドより伸びてないんだろう」って、どんどんマイナスの方に考えていました。
斉本 でもそうじゃないんですよね。主人公バンドと脇役バンドがいるとするならば、自分たちは劣っているっていう感覚に陥っている時点でもう脇役じゃないですか。でも、僕ら元々スクールカースト低めのメンバーが集まっていて、憧れの存在の人がバンドをやっていたから――っていう理由でバンド始めたりしているので。これじゃあ自分たちが最終的に目指している部分には行けないな、と。去年の末にみんなで結構真剣に話し合ったんですよ。それで、二番煎じでいてもしょうがないから、やっぱり今まで通り、自分たちがやりたいことをやってそれが求められるようなバンドになろう、っていうふうになりました。それがCOUNTDOWN JAPANの前々々日ぐらいのことだったので、COUNTDOWN JAPANでも「自分たちが何でその日に出ているのか」「何でこのステージに出ているのか」っていう意味をしっかり考えながらライブをしましたね。マイナス思考じゃなくてプラス思考に持っていく。年末からはそういうライブにしていきました。
“Sally”や“モノ”がきっかけで自信が持てた(斉本)
――今回の収録曲の制作時期はいつ頃ですか?
斉本 10~11月ぐらいですね。
――ということは、わりと悩んでいた時期ですよね。でも今回のEPは同期なしのサウンドにこだわっている様子もないので、その時期に出来たっていうのはちょっと意外でした。
斉本 時系列的には“鯉、鳴く”は10月から2ヶ月ぐらいかけて作って、“Sally”と“モノ”はそのあとの時期に1週間ぐらいで作った曲なんですよ。で、“Sally”や“モノ”がきっかけで前向きになれた、自分たちに自信が持てたっていうのはありますね。2曲とも「これ、他のバンドにはできないじゃん」「じゃあやってみよう」っていうことで作った曲なので。そこから他と違うというか――というかその、他と違うことが今までやってきたことでもあったりするんですけど。
――それはつまり?
斉本 プラスでバンド以外の音が何か入っているっていうことですね。それは前々作の『エンドロール』からやっていたことではあるんですけど。
――そのプラスっていうのは、『エンドロール』の時期から自分たちの特色として認識していたんですか?
斉本:楽曲制作に関してはバンドの枠に囚われないようにしようっていうふうには昔から決めていましたね。何でかっていうと、僕らはあくまで聴いてもらう側で、例えばドラマーの腕が2本しかないっていうのはこっちの都合じゃないですか。
――演者のエゴっていうことですよね。
斉本 そうですね。だから俺らの勝手でドラマーの腕を2本にしたり、ギターを1本にするのはおかしいかな、みたいな。腕がもう1本増えたらもっとカッコいいフレーズが出せるじゃん、っていうのを実現できるのが今の時代だと思うので。それに僕らは結構そこも楽しくできるというか。「これ無理じゃん」「どうやってやる?」みたいなことを何とかしてくれるのが趣味の男がいるんですよ、ギターに。「機材を中古にする男」とも言われているんですけど――。
ワタさん (笑)。1回試して、ああダメだって言って、すぐに売っちゃうからね。僕はいい感じに同期を作るのが楽しくて。ライブを実際にするよりも「どうやってライブをする?」っていうことを考えていく方が楽しいんですよ。
斉本 過程の方が楽しいっていうことだよね。恋愛には向いてないぞ。
“Sally”は幅を広げるという意味で今後に繋がる(斉本)
――恋愛といえば、ここのところ恋愛ソングが続いていましたが、1曲目の「鯉、鳴く」はそうではないですよね。
斉本 そうですね。前作の“解剖傑作”がある女性との終わりの歌だったので、自分の中では節目を迎えていて。それで「さあ何を書こう」って思った時にこの曲を書こうと思ったっていう感じですね。きっかけはふたつあるんですけど。ひとつが、僕自身小学校の時にいじめに遭っていたということ。もうひとつが、中学時代に地元の高校生が公園で自殺をしたことで。全然知らない人なんですけど、その高校生が何で死んだんだろうって考えた時に「変なヤツはいなくならなきゃいけないんだ」って自分なりに解釈したというか。中学生にとっての社会って小っちゃいので、「いじめられていた僕は次に死なないといけないのか」みたいなことを考えちゃったんですよね。
――例えば昨今におけるSNSとワイドショーの関係とか、もっと広い意味での社会問題の曲にも聞こえますけど。
斉本 そうなんですよ。いじめに限定しているわけではないです。よくあることっていうか、人が10人いたら起こるであろうことを書きました。
――重いなテーマですけど、これを受け取った時にみなさんはどう感じたんですか?
はっこー (斉本は)普段ツアーの車の中でも、今まで感じたすべてのことを話してくれるんですよ。それで今回も恋愛じゃない曲になるっていう話や「こういうフレーズを使いたい」みたいなことは聞いていたので、それをどこから拾ってくるかっていうだけの作業だった感じですね。
井深 僕はこの歌詞を貰った時に、自分の思っているところと重なる歌詞だなと思って。僕自身も別にいじめられっ子ではなかったですし、友達と楽しくワイワイやっていたんですけど、一時期、一瞬のミスで、ポツンとひとりになったことがあったんですよ。それから客観的に人を見るようになって。その時に感じたことがこの歌詞に詰まっているなあっていう感じがしたので。そういう意味で「この歌を歌うの楽しみだな」っていう気持ちが大きかったです。
――で、すでにMVが公開されているのは2曲目“Sally”の方で、この曲はリード曲にはなりませんでした。
斉本 2曲できあがって「どっちにする?」ってなった時に、自分たちとしては結構究極の選択だったんですけど、僕らの思う「今お客さんが聴きたい」っていう曲が“鯉、鳴く”で、この曲に救われる人も世の中にひとりかふたりはいるかもしれないと思ったんですけど、今後に繋がっていくのが“Sally”だなと思ったんですよ。
――どういうところに対してそう思いました?
斉本 「幅を広げる」っていう意味で、ですかね。今までのリード曲にはないメロディラインだし、クラップとかバンドサウンドじゃない音が分かりやすく入っていたり、いつもだったら普通にエイトビートを叩いちゃうところを違うリズムにしたり……。
ワタさん “鯉、鳴く”は結構今まで通りのメロディだったので、コードも素直につけたんですけど、そのままアレンジしちゃうとこれまでと同じになっちゃうなって思って、引っかかるようなポイントをつけていくようなイメージだったんですね。でも“Sally”はまずメロディラインをもらった時に今までと違うコード進行の方が合うなと思って。「このコード進行でどういうアレンジをしたらバンドハラスメントらしくなるか」っていう部分を考えながら作ったので、そこが面白かったです。だから2曲で逆のことをしたんですよ。年末に話し合いをしてバンドの向いている方向が変わっていったことが、そこに反映されているんじゃないかと。
――“Sally”で迷いが晴れたことが影響しているのか、“モノ”がかなり踏み切ったアプローチで。物語調の歌詞展開も、エレピが引っ張るループミュージック的なサウンドも、今までのどの曲にもなかったものなので、ボーカルもかなり苦労したんじゃないですか。
井深 そうですね。こういう曲は僕らにとっても初めてで。僕のイメージとしては、画面画面で切り取って時系列で進んでいく感じがしたので、なるべく感情をこめないようにして。物語が淡々と進む中で「ここは感情こめたいな」って思ったところにちょくちょく入れていく、ぐらいの歌い方をしました。
斉本 実はボーカルをRECしたうえに楽器の音をつけていくっていうやり方を初めてした曲なんですけど、結構スムーズに進みましたね。「ここはこういうふうにしていきたい」みたいなイメージは頭の中にあったので、それをみんなで固めていく作業でした。
――どういう経緯でこういうサウンドに固まっていったんですか?
斉本 曲の構成上どうしてもループになるしかなかったので、そうしようっていうことは最初に話し合って決めていたんですけど、そうやって音をつけていく作業の中でワタくんがエレピを持ってきて。
ワタさん これ、ボーカルをRECした時はエレキのクリーンで、ほぼアコギみたいな感じでやっていたんですよ。エレピの音はそれにわりと感覚が近いものがあって。音も結構いじったんですけど、この音でやるのが一番馴染んだので、じゃあこれでいこうかっていうふうになりました。
統一感はないが、いい緊張感を持てている(井深)
――4曲目のライブ音源(“サヨナラをした僕等は2度と逢えないから”)含め、バンドの足掻いてきた跡やその果てで掴み取った光が分かりやすく反映されていて。
はっこー このEPを作る時、実は最初はシングルにしようかっていう話もあったんですよ。でもEPという選択をしたことによって新しい挑戦もできて、トゲができたというか、それによって全体がまとまったのかなって僕は思っていて。
井深 全体としていい感じの緊張感を持てているので、統一感はないっちゃないんですけど、EPとしてまとまって聞こえてくる感じはしていて。なので、このEPを2018年一発目に出せることは自分たちとしてもいいことかなと。これからの作品にも繋がっていきそうだなと思っています。
――「周りのバンドと比べて俺らは……」とか「お客さんからこういう需要がありそうだから」とか、そういうことを度外視したうえでバンド自身を見つめることができたからこそ、こういう作品を生み出せたのかなと思いました。
斉本 あんまり外には見せないんですけど、自分たち、結構毎日のように考えていたんですよ、そういうことを。
――まあバンドハラスメントっていうバンド名の時点で戦略めいたものがチラ見えしてますけどね。
斉本 ははは。でもあんまり気にしすぎもよくないんだろうなって思うようになったというか。これからは、周りと比べるんじゃなくて、自分たちがいいなって思ったものを聴いてもらう方法を考えていきたいです。まあ自分たちで考えながら動くっていうことはずっと変わりないんですけどね。
MV
リリース情報
発売中
¥1,512 (税込) / SANPA-0003
収録曲:
1.鯉、鳴く
2.Sally
3.モノ
4.サヨナラをした僕等は2度と逢えないから(LIVE ver.)
ライブ情報
「鳴けば少女は鯉となるツアー」2018年2月9日(金) 東京 Shibuya Milkyway
2018年2月13日(火) 広島 Hiroshima CAVE-BE
2018年2月16日(金) 名古屋 ell.FITSALL
2018年2月18日(日) 奈良 生駒RHEBGATE
2018年3月9日(金) 福岡 小倉FUSE
2018年4月5日(木) 東京 Shibuya O-Crest
提供:SANTA IS PAPA
企画・制作:ROCKIN’ON JAPAN編集部