ドラマ『未成年~未熟な俺たちは不器用に進行中~』エンディング主題歌として制作された“花瓶”は、「本当に大切なもの」をテーマにしたバラードナンバー。ピアノ、ドラム、ベースによる有機的なアンサンブル、言葉を届けることに心を砕いた歌唱を含め、メンバー3人のリアルな思いと高い演奏スキルが発揮された楽曲になっている。
作詞・作曲を手がけているのはこうき(Vo・Key)だが、らな(B)、こた(D)も歌詞やアレンジについて積極的に意見やアイデアを提示。さらにそれぞれの人生観や価値観に引き付けることで「自分たちの曲」として成立させていることも、“花瓶”の強い説得力につながっている。そう、ココラシカはメンバー全員がクリエイティブに深く関わる音楽家集団になりつつあるのだと思う。
2025年3月20日(木・祝)に渋谷Spotify O-Crestで初のワンマン・ライブ「三原色」の開催も決定。バンドとしての歩みを着実に進めている “花瓶”の制作についてじっくりと語ってもらった。
インタビュー=森朋之 撮影=sueyoshiryouta
──“花瓶”の話の前に、「東京国際ミュージック・マーケット」(TIMM/日本音楽の海外進出を主目的に国内外の音楽業界関係者が一堂に会するイベント)に出演したときの手応えから聞かせてもらえますか?ジャンルとして確立したいという気持ちもありますね。そのうえでポップシーンでもしっかり存在を示していきたい。それが今の目標のひとつです(こうき)
こうき 新鮮でしたね。ライブの前は「僕らのことを知らない方もたくさんいるだろうし、もしかしたら全然期待されてないかもしれないな」と思っていて。そこはあまり気にせず、自分たちのやることをやろうと話し合っていたんですけど、思いのほかお客さんがあたたかくて、逆にちょっと動揺してしまって(笑)。
こた SEが鳴って、ステージに登場してもシーンとしているところを想像していたんですけど、お辞儀をした瞬間にすごい歓声が上がって、「これはいいかも!」って(笑)。最初は「お客さんが油断しているところに、しっかり自分たちの音楽を届ける」というマインドだったんですけど、いきなりテンポが崩れたというか。
──ポジティブな意味で、意外な反応だったと。
らな そうですね(笑)。始まった瞬間からすごく楽しかったです。「アイドルのファンの方が多いかも」と聞いてたんですよ。海外の方もかなりいらっしゃったし、アウェー感が出ちゃうかなと心配してたんですけど、純粋に音楽を楽しもうとしてくれるお客さんばかりで。自分たちも「全力で楽しんで、一緒に楽しい時間を作ろう」と思えたし、お客さんが言ってくれたことに返したり、手を振ったり、交流もちゃんとできたかなって。
こうき そうだね。自分たちが積み上げてきたことを出し切れるセトリで臨んだし、最大限のパフォーマンスをするという目標はやり切れたと思います。ライブが終わったときは、「こういう雰囲気を自分たちのコミュニティとして作り上げたい」という気持ちにもなりました。
こた ライブ後、すぐにそういう話をしてたんですよ。
らな 自分たちのライブでも、みなさんとこういう感じにしていきたいねって。
──目指すべきライブの在り方のビジョンがさらに明確になった?
こうき そうですね。あとは海外を目指したいという気持ちもあったので、その第一歩じゃないけど、「こういう感じなのかも」という経験にもなったのかなって。普段のライブとの空気感の違いも感じたし、これから海外に向けて発信していくうえで「もっと頑張ろう」という感覚になれました。
──そうか、海外も視野に入れてるんですね。
こうき はい。結成当初はそんな余裕なかったですけど(笑)、曲のリリースを続けていく中で、だんだん「海外にも発信していきたい」と思うようになって。
らな 高校を卒業するちょっと前くらいに“恋よ、踊り出せ”を出したんですけど、海外の方からの反応がすごく多かったんです。インスタのアクセス数とかも70%くらい海外からで、「台湾でライブを観たいです」みたいな声もいただいて。そこでさらに海外を意識するようになりました。
──なるほど。もちろん国内のフェスに出たいという気持ちも……。
こうき それはめちゃくちゃあります! バンドをやってれば「そりゃ出たいよね」っていう。こたは今年ROCK IN JAPAN FESTIVALに行ってたよね?
こた 2日間行きました。普通に客として、めちゃくちゃ楽しませてもらいました(笑)。
こうき 僕もJAPAN JAMに行きました。最近は学園祭などで野外ステージに出ることも増えてるんですけど、やっぱり気持ちいいんですよね。音楽を通じていろんな人とつながれるのも嬉しくて。
──ココラシカのようなギターレスのバンドが邦楽フェスで存在感を示せば、また新しい流れができるかも。
こうき そうですよね! 高校生のときにいろんな大会に出ましたけど、ほとんどがギタリストがいるバンドで。キーボードがいるバンドも少ないし、(鍵盤、ベース、ドラムの)3ピースバンドはほとんど見たことがなくて。「珍しいよね」という扱いをされることもあったし、ジャンルとして確立したいという気持ちもありますね。そのうえでポップシーンでもしっかり存在を示していきたい。それが今の目標のひとつですね。
──新曲“花瓶”は、その目標に向けた大きな一歩だと思います。ドラマ『未成年~未熟な俺たちは不器用に進行中~』エンディング主題歌として制作された楽曲ですが、タイアップ楽曲を手がけること自体が初めてだとか。今回のタイアップもそうですけど、音楽とドラマが交じり合ってひとつの作品になるのはとても興味深いし、ドラマの一部になれるのも嬉しい(らな)
こた はい。こうきはずっと「タイアップ曲をやりたい」と言ってたんですよ。
こうき 「ゆくゆくはタイアップ曲を担当できるアーティストになりたい」っていう。それはふたりにも話していたんですが、まさかこんなに早く実現するとは思ってなかったです。もちろん自分が表現したいことを形にするのも大事なんですが、何かに向けて書くのも好きだし、得意なんですよ。“恋よ、踊り出せ”もfrom00というプロジェクトとして作った曲で。「平成」や「アナログな青春」というテーマがあったし、プロジェクトのみなさんの熱い思いを受け取りながら試行錯誤して、あの曲が生まれた。自分たちがやりたいことと、依頼側の意見が混ざり合う瞬間だったり、そこに思いを馳せながら音楽を作るのはすごく楽しいし、やりがいがあるんですよね。
こた タイアップ曲は「どこかで聴いたことあるな」という感じになりやすいと思っていて。今後、僕らのことを知ってくれた方が「あのドラマの曲、この人たちだったんだ」みたいな気づきがあったらいいなと思うし、さらに好きになってくれるポイントでもあるのかなと。なので今回の話をもらったときはすごく嬉しかったですね。
らな 私はRADWIMPSが好きなんですけど、RADWIMPSは新海誠監督の作品にたくさん楽曲を書き下ろしてるじゃないですか。好きなアーティストが関わっている映像作品にはもちろん興味があるし、観たいという気持ちになる。今回のタイアップもそうですけど、音楽とドラマが交じり合ってひとつの作品になるのはとても興味深いし、ドラマの一部になれるのも嬉しいです。
──“花瓶”の制作はどのように進んでいったんですか?
こうき 僕のボイスメモの中にあったデモ曲がもとになってるんです。他にも何曲か聴いていただいたんですが、「“花瓶”のデモがいちばんドラマに合ってますね」と言ってもらって。このドラマは「水」がひとつの題材になっているんですが、“花瓶”にも《何もない心の花瓶に/水をあげよう》という歌詞があるんですよ。《手持ち無沙汰で手を繋ぐ/会話の隙間でキスをする》というAメロの歌詞も最初からあって、気に入ってました。
らな そこからドラマの台本を読ませていただいて、歌詞を練り直したんですよ。ストーリーや雰囲気に合った言葉遣いもいろいろ考えて。
こた こうきが考えてきた歌詞に対して、ホワイトボードを囲みながら、3人で「ここ、どう思う?」と話をして。
──“溶けないで”の制作のときと同じやり方ですね。
こた そうですね(笑)。3人それぞれの捉え方があるので、それを擦り合わせるという意味でもしっかり話し合えたのはよかったと思います。
こうき 高校生の頃は僕だけで作っていた感じだったんですけど、最近はふたりともガツガツ意見を言ってくれるようになって。そこでぶつかることも全然あるんですけど、それも僕としてはすごくいいんですよね。3人で作れている感覚がちゃんとあって。
──なるほど。らなさんは歌詞についての話し合いの中で、どんなことが印象に残ってますか?
らな 《錆びついた心の花瓶に/種を植えたい》という歌詞があって。こうきがアイデアを出した箇所なんですが、そこは3人でかなり議論しましたね。花瓶って、そもそも種を植えるものでなくて、花を挿すものじゃないですか。なので「花瓶に種を植えたい」って、日本語としてどうなんだろう?って違和感があったんですよね。
こうき まず3人で話し合って、プロデューサーの方も交えて相談する中で、「表現したいことが伝わる歌詞だし、これでいこう」ということになって。それぞれ感性も違うし、しっかり話したうえで納得できたのはよかったなって思ってます。
こた 全員が納得したうえで形にできました。それがない状態で作品を出すことはこれからもないと思います。
こうき 特にらなは、その気持ちが強いんですよ。自分でも「ちょっとでも気になったら、どうしても言いたくなっちゃうんだよね」って言ってて。
らな (笑)。
こうき 僕とこたが「結構いいんじゃない?」と思っていても、らなはちゃんと「でも、これって……」って言ってくれて。たとえば合格点が80点だとして、僕らが「85点くらいまで行ったからいいかな」という感じになってたとしても、らなは100点を目指そうとする。こたもちゃんと言ってくれるし、それが3人で作ってる良さだなと思います。