fhána、5周年記念ベストアルバム『STORIES』によって綴られる物語を、リーダー・佐藤純一に訊いた

fhána、5周年記念ベストアルバム『STORIES』によって綴られる物語を、リーダー・佐藤純一に訊いた

単に「過去を振り返る」「ただのひと区切り」みたいなものにはしたくない。未来を向いているアルバムにしたいなと思った


――fhánaが作ってきた音楽が、この5年間でひとつの大きな物語になって、そこから先を見渡すうえでの大切な地図になっていくみたいな――ただの「今までの活動のダイジェスト」に留まらない、独特の手触りを持った作品ですよね。

「そうですね。『新曲を出したい』っていうのはありつつも、ベスト盤の話が上がった時に――普通ベストアルバムって、今までのことをまとめた作品ではあるんですけど、単に『過去を振り返る』『ただのひと区切り』みたいなものにはしたくないなっていうのがあって。未来を向いているアルバムにしたいなと思ったんです。タイトルも、普通に『fhána BEST 2013-2018』とか『MASTERPIECE』とか、いろいろ考えてて、でもしっくりこないなあと思ってる時に――やっぱり『物語』だ、と思って」

――なるほど。

「fhánaって、楽曲ひとつひとつの物語性を重視して作ってるし。バンドの活動自体もある意味、『最初にネットで出会って、メイド喫茶で結成して……』とか(笑)、物語重視で来たりもしていて。そういうバンドと楽曲の『物語』と――これまで主題歌をやらせていただいたアニメの作品も『物語』だし。そういうストーリーが織り重なったアルバムっていう。それは『今までの物語』だけじゃなくて、新曲を入れることで『これからの、未来の物語』も入っている、っていうことで『STORIES』っていうタイトルにしようって思って。それはもちろん、曲とかバンドのストーリーだけじゃなくて、リスナーひとりひとりの『物語』だったりとか、ライブに来てくれる人が歩んできた『物語』があって。このアルバムであったり、5周年のスペシャルライブも含めたfhánaのライブっていう場所で、さまざまな『物語』たちが交わるっていうイメージで『STORIES』っていうタイトルにしました」

――そのタイトルがひらめいた瞬間に、このベスト盤は「総括」を超えた作品になったんでしょうね。

「そうですね。総括しつつも、『大団円!』みたいな大げさな感じじゃないものにしたくて。なので、新曲の“STORIES”もサラッとした感じにしたかったんですね」

――“STORIES”はtowanaさんが作詞を手掛けてますよね。佐藤さんから内容に関してのオーダーは何かあったんですか?

「そんなに細かいオーダーはしてないんですけど。作詞のオーダーをしたのも結構ギリギリなんですよね。新曲のタイトルも“STORIES”だし、ベスト盤のタイトルも『STORIES』にしよう、ってなってから、今まさに説明したような『過去の物語だけじゃなくて、これからの物語も入ったアルバム』『僕らのストーリーは続いていくんだ』っていう歌詞を書いてください、っていうふうにお願いしました」

――《君だけが描いた青いプロローグ》っていうのも、そんなモードを反映してるフレーズですよね。ここまでの道程をプロローグとして、「これから」の物語が始まっていくっていう。

「この歌詞はほんと、上がってきたものに対して、直しとかディレクションを一切入れてないんですよ。一発でいい歌詞を書いてきたなあって、ゾクゾクしましたね。そんなすぐに、数日で上がってきたっていうわけではなくて、『まだかな、まだかな』っていう感じではあったんですけど(笑)。でも、上がってきたら『あ、これ完璧じゃん』って。いい歌詞って、パッて見た瞬間に『これいい歌詞だ』ってなぜかわかるんですよね。これも見た瞬間にそう思いました。今まで他の曲は全部、林英樹くんが歌詞を書いてるんですけど、その影響ももちろんあるし、意識的に踏襲してる部分もあるとは思うんですけど、やっぱりtowanaの表現になっていて。大げさな感じじゃなくて、サラッと瑞々しくて、軽やかな感じっていう。そこがとても……オリジナリティがあるなあって」

“STORIES”には無駄な瞬間、ぬるい瞬間が一個もない。このメロディに対してはこの言葉じゃなきゃいけない、みたいなフレーズで全部作られていて


――以前もtowanaさんは“ユーレカ”で作詞を手掛けてますよね。その時と比べてどうですか?

「“ユーレカ”の時も『ああ、いいじゃん』っていう感覚はありましたけど、“ユーレカ”の時は初めてだったんで。でも、“ユーレカ”を作ってる段階、つまり3rdアルバムの『World Atlas』を作ってる時には、『5周年の曲はタイアップとかとは関係なく作って、その歌詞はtowanaに書いてもらおう』っていう考えはあったんですね。そこに向けての布石というか伏線というか、お試しも兼ねて“ユーレカ”の歌詞を書いてもらおうかな、っていう意図もあって。“ユーレカ”の時は心配だったんですけど、その時もいい歌詞が上がってきたんで。クオリティに関しては安心してお願いした感じですね。“STORIES”には無駄な瞬間、ぬるい瞬間が一個もないんですよね。このメロディに対してはこの言葉じゃなきゃいけない、みたいなフレーズで全部作られていて。だいぶ研ぎ澄まされていて。歌詞もそうだし、自分のメロディも必要最小限みたいな研ぎ澄まされた曲になったので。これを作れた満足度は、メンバー的にも僕個人的にも高いですね」

――towanaさん自身も、fhánaのボーカリストとして研ぎ澄まされてきた部分があるだろうし、それが歌だけでなくリリックの部分でも形になってきたのは、バンドにとっても新たなプロローグですね。towanaさんは「私の気持ちを聴いてほしい」的なボーカリストではないですけど、それでもまぎれもないtowanaさんの表現として確立されてきているし。

「そうですね。ほんと、独特のバランスのボーカリストだと思いますね。声質とか、ハイトーンボイスとか……ただ声が高いっていうだけではなくて、声変わりする前の少年みたいな、女の子なのに中性的な部分もあるし。エモーショナルな部分もある。背が小さくてお人形さんみたいなあの佇まいも含めて、近しいタイプの歌い手っていないなと思って。万能型のボーカリストではないけど、すごく研ぎ澄まされてるんですよね、特化型というか。でも、それに関しては、fhánaのメンバー全員を改めて振り返ってみると……全員ピーキーな感じなんですよね(笑)」

――確かに、決してレンジは広くないけど、突出して尖ってる感じではありますよね。

「towanaは音域も含めてだいぶピーキーなボーカリストだし。ギターのyuxuki(waga)くんも、『何でも弾けます』じゃなくて、出すサウンドの範囲も特化型のギタリストだし。kevin(mitsunaga)はkevinで、『いろいろ作れます』っていうトラックメイカーじゃなくて、やっぱりkevinっぽいものしか作れないんですよね(笑)。それでいて、踊ったり、ムードメイカー的なおいしい雰囲気を持ってる。かなりピーキーな人なんですよね。そう言ってる僕も、バンドリーダーだからといって、一歩引いて『みんなを立てます』みたいなバランサーじゃなくて、基本的にはラディカルで攻撃的な人だと思うんで。全員尖ってるなって(笑)。すごいピーキーな連中なんだな、この5年を通して――結成から含めたら7〜8年ですけど――思ったことですね。『よくぞ続いた』とも言えるし、『だからこそ続いた』とも言えるし。だからこそこういう、他のバンドとかアーティストとは違った存在感が出せているのかなと思いますね」

――そういうピーキーな人たちが集まって“青空のラプソディ”みたいなポップの極みのような曲が生まれるのは、ある種の奇跡ですよね。

「そうですね(笑)」

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