fhána、5周年記念ベストアルバム『STORIES』によって綴られる物語を、リーダー・佐藤純一に訊いた

バンドっていうフォーマットがいいって思うのは……どこか不安定だからいい、っていうのもある


――初回盤のライブBlu-rayにも収められているZepp DiverCity公演を実際に拝見していたんですけど、“青空のラプソディ”で泣きそうになってしまって。泣くようなテイストの曲ではないかもしれないですけど――想像を絶するものに直面すると爆笑するか泣くかの二択になるみたいな、音楽の理想郷としか言いようのない感覚が、あの時の“青空のラプソディ”にはあった気がするんですよね。ある種、理想そのものみたいな音楽を奏でる集団なんだなあっていうのを改めて感じましたし。

「でもあの曲は、僕も演奏しながら泣きそうになる時がありますね。“青空のラプソディ”って、すごくハッピーで明るい曲ですけど、根底には別れとか、『いつかこの瞬間は終わってしまうんだよ』っていう感覚とかがあって。だから、2番のサビの《いつか心が離れても その時は笑ってて》とか……わりとここ、泣きそうになるんですよね、演奏してて。今、『理想的な音楽を奏でる集団』って言っていただきましたけど、僕がバンドというフォーマットが好きな理由ってそこにあって。fhánaにせよ、その前にやってたFLEETとかにせよ、僕のソロプロジェクトでも成立するかもしれないんですよ。でも、こういうバンドっていうフォーマットがいいって思うのは……どこか不安定だからいい、っていうのもあるんですよね(笑)。いきなり解散とかするし、いつメンバーが離れたり変わったりするかもわからないわけですよね。よく『バンドは生き物だ』とか言うけど、文字通り生き物感があるなあって。今はこういうバランスで薄氷の上に成り立っていて、こういう音を奏でてる、みたいな。そういうギリギリな感じがバンドの醍醐味だなあって。だけど――そういうハラハラもありつつも、10年・20年と続いていったらいいなあっていうのはありますね」

――fhánaはこの5年間の作品の中で、「世界線」「平行世界」っていう世界観を描いてきたわけですけども。特に『World Atlas』後のこの1年は、「音楽シーンという『平行世界』の中のどこに自分たちが位置するか」という在り方に関しても、わりと大きなシフトチェンジが起こった時間だったんじゃないかなと思うんですけど?

「シフトチェンジというよりは、拡大期みたいなタームなのかな?とは思っていて。もともと、僕もメンバーもアニメは大好きなんですけど、fhánaを結成した時は別にアニソンをやると思っていたわけでもなくて。まさかここまで来るとは、っていう感じだったし。それこそ最初の“ケセラセラ”でデビューする時も、『アニメのタイアップの話が来た!』みたいな驚きがあったし(笑)。そういう中で、アニメ好きな人だったら、fhánaという存在はだいたい認知してくれてる――っていうぐらいには、デビュー3年目ぐらいの時にはなっていて。そこで“青空のラプソディ”っていう曲があったことによって、もうちょっとその外側にも広がって、海外の人たちにも伝わっていって、今年は海外にもたくさんライブも行ったし。そうすると今度、『アニメと関係ないフィールドにも届かせたい』というか。もともとアニメ側から来てないファンの人とかもいるんですけど、そういう『アニメは全然観ないけどfhánaの曲は好き』っていう人にも、より届けていきたいなっていう。それと同時に、その人たちがfhánaきっかけで『アニメも面白いんだな』ってなればそれはそれでいいと思うし。それとは逆パターンで、アニメからfhánaに入って、fhánaから『アニソン以外の豊かな音楽』にたくさん触れて、『音楽だけでもすごくいいんだな』って思う人がいたらそれもいいと思うし。なので、今は外側に出て行くタイミングだなと思ってます」

――なるほど。

「だけど、今言ったような話って、『そうしなければならない』とはまったく思ってなくて。『もっと洋楽も聴きなさいよ』みたいなことも言うつもりはないし(笑)。ただ、馴染みがないシーンっていうだけでシャッターを下ろすみたいな、『アニメは俺には関係ない』とか『フェスか……』みたいな(笑)、そこで扉を閉ざさないでほしいっていうか。そこから先、どれだけ興味を持ってハマるかっていうのは、人それぞれの感性だと思うので」

(ROCK IN JAPAN FESTIVALに出演して)この場所に立ててよかったなと思いましたし、もっとこういう場所に立っていきたいなっていう気持ちが強くなりました


――今はどんな情報にもリーチできる時代でもあると同時に、「興味がないものにはまったく触れなくて済んでしまう時代」でもあるわけですけども。fhánaの音楽は、小さな蛸壺がいっぱいできてるシーンの現状に、まったく別種の大きな地図を作れるんじゃないかなと僕は思っていて。佐藤さん自身、この5年間でその感覚は強くなってきてるんじゃないかなと思うんですけど?

「そうですね。以前、UNISON SQUARE GARDENの田淵(智也)さんと話してる時に――田淵さんもロック界隈で活動しつつも、結構アニメの世界にも足を突っ込んでいて。田淵さんが言うには、『別にこのふたつの界隈は混ざらなくていい』って。それぞれ好きにやっていればいい、っていう話をしていて。で、僕のスタンスとしては……『混ざってもいい』みたいな(笑)。『混ざらなくていい』とは思ってないし、『混ざったらいいよな』とは思うけど、でも別に『俺が強く混ぜてやろう』っていうわけでもないし、『混ざるべきだ』って押し付けるものでもないと思っていて。自然と混ざったらいいよね、ぐらいの感じで、ちょっとドア開けときますねっていう(笑)」

――(笑)。今年の夏、ROCK IN JAPAN FESTIVALに出演されてみていかがでした?

「『ホッとした』っていうのが大きいですね(笑)。今はロッキンに定番で出てるアニソン系の有名アーティストも、最初に出た時は苦戦した、みたいな話を聞いて『マジか』『大丈夫か』って戦々恐々としてたので。ひとまず人が入って、よかったなって。お客さんの顔ぶれも、fhánaのライブに熱心に来てくれてる人の顔も見えるし、初めて見る人もいるし。演奏中にわらわらと集まってくる人もいたりして。『初めてfhánaを観たけどよかった』とか、アニメとか普段観ないタイプの人から『イロモノ系かと思いきや曲がよかった』っていう感想もあったりして。この場所に立ててよかったなと思いましたし、もっとこういう場所に立っていきたいなっていう気持ちが、出たことによって強くなりました」

――年末にはCOUNTDOWN JAPAN 18/19出演も控えてますし、1月27日には5周年アニバーサリーライブが中野サンプラザで開催されます。fhánaのホールライブってまた楽しみですね。

「そうですね。今までもやりたいタイミングもあったんですけど、なかなかハコを押さえるのが大変で、このタイミングで押さえられたっていう(笑)。ホールライブなんで、ホールならではのライブを――と思いつつ、予定調和なものにはしたくないので。『ええっ!?』って思うようなライブになるんじゃないかなと思います。『こんなことやっちゃうんだ!』っていう(笑)。このBlu-rayに入ってる『World Atlas』ツアー最終公演の後も、夏から秋・冬にかけていろいろイベントに出させていただいたりして、すでに結構、このライブの時からもスタイルが変わってきてますね。それはわりと、ロッキンに出たことが大きかったな、っていう実感はあります。演奏も変わってるし、曲と曲の繋ぎ方、構成の仕方もだいぶ変わっているので。その中で、オーディエンスひとりひとりのストーリーと、バンドのストーリー、楽曲のストーリーが交わって、みんなで祝うことができたらいいなって思いますね」

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