上白石萌音が全力で向き合った「恋」。5つの恋物語が描かれた最新作『i』を語る


恋だけに執着せずに書いてみようと。日常的な片想い『こう思ってるんだけど言えないなあ』っていうこととか。これは、私なりのラブソングです


──2年ぶりのミニアルバムですね。5曲それぞれで様々な恋愛を描く楽曲が揃った、ひとつひとつ短編小説を読んでいるような気持ちになる作品です。前作からまたさらに多彩になった「表現」がつまっているようにも感じましたが、今回「恋愛」をテーマに作品を作り上げるというアイデアはどこから出てきたんですか?

「まず、映画『L♡DK ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ。』の主題歌として制作した“ハッピーエンド”(※正式タイトルは“ハッピーエンド/上白石萌音×内澤崇仁(androp)”)という楽曲が先にあって、それが入る作品だということは決まっていたので、もうこれだ!という感じで、テーマはすんなり決まりました。そこまでは決まるのが早かったんですけど、そのあと『恋ってなんだ?』って、すごく考えてしまいました」

──「恋愛」というテーマから、特に「片想い」というところへと絞られていったようにも思うのですが、それはなぜ?

「特別『片想い』に絞ろうというのはあまりなかったんですけど、でも、片想いしてる時が一番楽しいじゃん!みたいな感じ、ありませんか? 一番気持ちが揺れるし、ドラマチックだし、自分の気持ちがすごく忙しいですよね、片想いしてる時って。だから曲になるんだろうなって思います」

──すごくフレッシュだし、等身大の上白石さんの歌でもあるなと感じました。この作品に『i』と名付けたのも上白石さん自身ですよね。

「はい。曲が全部出揃って、すごく悩んで決めたんですけど、一言で伝わるもので、かつ、いろいろ広がりのあるシンプルなものがいいなと思ってこの文字を選んで。その後もどう読んでもらうかでずっと悩んでいて、『アイ』と読んで、『愛』の歌というイメージもあるし、ローマ数字の『Ⅰ』にも見えるから、『ひとりきり』とか『あなたひとりだけ』っていう意味にもつながるかなとか、もちろん『私』ということでもあるし。あとは個人的にこの『i』という字が、人がすとんと立っているようにも見えて。この作品のどの曲も聴く人とか観る人にとっての『何か』になればいいなという思いで、シンプルにドンとつけてみました」

──「恋」というテーマに向き合う中で、上白石さんは今回、初めて恋愛についての歌詞を書きましたよね。前作でも3曲の作詞を手がけていますが、その時は純粋に恋愛を描いた楽曲ではありませんでした。今回の“ひとりごと”の作詞(田中秀典との共作)は「難産だった」とうかがっていますが。

「前作で3曲書いた時も、ほんとに大変だったんですけど、今回は特に大変でした。『片想い』というテーマが決まっていたこともあるけれど、恋愛の歌詞なんて書いたことなかったし、最初は自分なりに物語の主人公を立てて、その子が恋をしている感じで書いていったんです。でもそうしたら、なんだかすごく気持ち悪い感じになってしまって(笑)。くさいっていうか、くどいっていうか。変に詩的にギラギラ飾って、ドラマチックにロマンチックに書いていたんですよね。それがなんか気持ち悪いなって思ったので、一度全部白紙に戻して書き直しました」

──なるほど。最初は完全にフィクションで書いてみようと試みたんですね。

「そうなんです。それでなんだか恥ずかしくなってしまって。もう『やめようやめよう』ってなって、恋だけに執着せずに書いてみようと。日常的な片想いっていうか、生きていると、人と接する中で『こう思ってるんだけど言えないなあ』っていうことが、やっぱり多々あるじゃないですか。後から『こう言えばよかった』とか、私もすごくよくあるので、トータルでそういう歌にしちゃえと思って。だからこれは、私なりのラブソングですね」

──その結果、すごくいろいろな感情を受け取ることができる曲になったと思います。切なさもあり、愛おしさもあり。

「あまりにも飾らずに書いてしまったので、今となっては逆に恥ずかしいですね(笑)。全部筒抜けな感じがして。でも、どうやって表現しようかなと考えること自体が、すごく尊いことだなって思いました。スピードがめちゃめちゃ早い社会にいる中で、立ち止まれる時間はすごく大事だなって思えて。だからうじうじしているように見える自分がいたとしても、その部分を少し肯定してあげられるような、そんな歌になればいいなって思って書きました」

──誰かのことを思ったり、考えたりする、その柔らかい時間の流れを感じるような曲だなと思いました。

「前は誰かに向けて書いていたんですよ。友達とか憧れてた先輩とか。だけど今回は、自分に向けてというか、自分のことを言っている曲にしようと思ったんです。だから逆に難しくて。自分自身が何を考えているのかがわからなくて」

──なるほど。まずは自分が何を考えているんだろうっていうところに向き合う作業だったわけですね。

「そうですね。そんなこと考えなくても日々は送れるじゃないですか。だけど、そこでがっつり考えてみたら意外と自分のことは自分でもわからなくて、そこを掘っていくのが一番難しかったです。何を考えてる? 私は何を考えてるんだ?って。その答えは絶えず流動していくものだと思ったから、この“ひとりごと”は、頭を抱えて書いていた深夜2時くらいの、その時の私の思考が密閉されてるんだと思います」

恋愛って、すごく正直な自分が出てきますよね。5曲それぞれ、いろんなカラーがありつつも、魂の歌というか。改めて恋愛は純度が高いものなんだなって


──自分が何を考えているんだろうと改めて向き合う作業は、まさにこの作品で「恋って何だろう」「愛って何だろう」って考えるプロセスに欠かせないものですよね。その過程でつかんだものって何かありますか?

「恋愛って、すごく正直な自分が出てきますよね。恋をすると、一人になった時にすごく考えるじゃないですか。すごく深く。『どうやったらこっちを見てくれるんだろう』とか、ほんと自分の内面と対話する時間が増えるような気がして。そんな時の自分はめちゃめちゃ素直だし正直だし、ピュアだよなっていうのはすごく思いましたね。だから5曲それぞれ、いろんなカラーがありつつも、魂の歌というか。ほんと誰にも言えない恥ずかしいことを歌っている曲ばかりで、改めて恋愛は純度が高いものなんだなって思いました。まだ弱冠21歳の意見ですけど(笑)」

──先ほども言っていたように、今回のアルバムの出発点は“ハッピーエンド”にあったわけですが、この楽曲はもともと前作アルバムの制作時に内澤さん(内澤崇仁/androp)が作っていたそうですね。その時は別の楽曲(“ストーリーボード”)が採用されたという経緯があって。その後、映画の主題歌としてレコーディングするに至ったわけですが。

「私は、役を演じる時に、勝手にその子のテーマソングを決めたりするんですね。『L♡DK ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ。』の葵を演じる時もテーマ曲を決めてたんですけど、それとは別に、いつも頭で鳴っていたのが、内澤さんが前作で書いてくださった、まだデモ段階でしかなかったあの曲でした。その後、主題歌を私が歌わせていただくことになって、『もうあの曲しかない!』って思って、『あの曲が今どうなっているのか、内澤さんに聞いてください』とスタッフにお願いしました。もう誰かが歌ってしまっているかもしれないと思って。そしたら、まだそのまま取っておいてくださってて。それが“ハッピーエンド”という形になったんですが、とにかく嬉しくて、それこそ恋が成就したような気分でした(笑)」

──だから片思いの曲ではありながらも、幸せな気持ちが全面に出てるような曲になってるのかもしれないですね。

「もうほんと、歌いながらニヤニヤしちゃう曲です(笑)。大好きな曲を形にできて、本当に嬉しかったですね。内澤さんも、この曲は私のために書いた曲だったので、ついに形にできる嬉しさがあったとおっしゃってくださっていて、なんだかテレパシーみたいに通じていたんだなって」

YUKIさんとn-bunaさんという化学反応にふさわしいのは、まっすぐな声だと思ったんです


──そこから、アルバム制作へとつながる中で、今回1曲目に収録された“永遠はきらい”にも驚かされました。

「私も驚きました(笑)」

──作詞をYUKIさんが、作曲をn-buna(ヨルシカ)さんが手がけていて、このおふたりの共作というのがまず驚きで。

「いやもう、文字通り震えました。今回、5つのテーマの中に『思わせぶりな恋』っていうのを入れた時点で、このテーマの曲は挑戦になるなって思ってたんですけど、その通りでしたね。最初にn-bunaさんが曲を送ってくださって、それをYUKIさんにお送りして、また戻してくださってというやりとりだったんですけど、デモでYUKIさんが自ら歌ってくださっていて、それがもうYUKIさんワールドで、YUKIさんの新曲をこっそり聴いちゃったみたいな感じ。私はYUKIさんの歌が大好きなので、だからそれで満足しちゃいそうな感じだったんですけど(笑)。ほんとに心を揺さぶられました。この曲自体が『恋』みたいで。こうやって気持ちが揺らいで揺らいで、なんかそういうのをガツンと入れられた気がします」

──いやほんと、なんて曲だこれって思いますよ。メロディも耳に残るしキャッチーで、でもよくよく聴けば転調もすごいし、これを歌いきっている上白石さんの表現力にも驚きました。

「ありがとうございます。でもほんと難しいんですよ。すごいチャレンジングな曲でした。今、リリースが近づいて披露する機会も多いんですけど、そのたびにほんと『なんて曲だ』って思います(笑)。でもすごい気持ちいいんですよ。突き抜ける感じが。n-bunaさんの曲は中毒性がありますね」

──歌い出しの歌詞も強烈ですよね。《神様 お疲れ様》って。

「恋愛って神頼みじゃないですか。なのにそれを初っ端から排除するって、男らしいなと思いました(笑)。肝を据えているというか。やっぱりYUKIさんすごいです」

──この歌、どういうふうに表現しようと思いました?

「とにかくまっすぐ歌おうと思って。曲自体が持つパワーがすごいので、そこをもうストレートに表現したいなと。たぶんこの曲の女の子って、すごいまっすぐで、すごいピュアな子なんだろうなって気づいたから、あえて飾らずに、ビブラートもこぶしもなんにも使わず、シンプルに歌うっていうところに行き着きました。YUKIさんとn-bunaさんという化学反応にふさわしいのはまっすぐな声だと思ったので」

お芝居も歌も、どちらも生きた言葉として届けたいし、その表現の追求なんだと思います


──今作は他にもバラード曲やバンドサウンド的なアプローチで歌い切る楽曲など、ほんとに曲ごとに上白石さんの多彩な「表現力」を感じることができるミニアルバムだと思います。1作目のカバーミニアルバムを含めると今作が3作目ですが、その間に歌うということへの向き合い方や、音楽での表現に対する思いの変化というのはありましたか?

「歌が好きという気持ちの大きさは、もう3歳くらいの頃から変わっていないです。でも、音楽にどう関わっていくのかというのは、どんどん変わってきましたね。前作の『and…』というアルバムは、楽曲を提供いただくアーティストの方に、それぞれ『こういうものをお願いします』と依頼して届いたものを表現するという、ある意味、受け身な制作だったんですが、今回初めて、ジャケットの写真も含め、どういう曲にするかも、全部ゼロの段階から自分の意見を言わせていただきました。ひるまずに『こういうのはどうですかね』って、自分の考えを言葉にして。そういう経験はこれまであまりなかったので、すごく大きな一歩だったなあと感じています。正しいとか間違ってるとか関係なく、自分の思っていることは言ってみるものだなあって。そこに気づけたのは、自分の性格上、これから生きる上でも大切な出来事だったなと思います」

──「こうしたい」という思いは前作時にもあったはずで、でも今回それを言葉にできるようになったのはなぜだと思いますか?

「やっぱり前作から2年、間が空いたというのがすごく大きかったと思います。歌いたい、歌いたい、アルバム作りたいっていう思いが時間をかけて高まっていって。いろいろ考えたりする中で、私は何が歌いたいんだろう、何が好きなんだろうって、そういうことを考える時間が十分にあったので、あとはそれを言うか言わないかだけで。そのタイミングでレーベルも移籍して、スタッフさんたちの顔ぶれも一新されて、言うなら今しかないだろうっていうので、それで一歩思い切れたというのもありました。いろいろなことが重なったんですね。“ハッピーエンド”も、自分で『歌いたい』って言えたことで形になったっていう、ひとつの成功体験のようなものになって。本気で歌いたいという思いが強かったから、自分の意見を言いたいという気持ちにもなったんだと思いますし。その思いの強さは2年分以上のものがあったんじゃないかと思います」

──自分の意見を言うのは勇気のいることでもありますよね。

「怖いですよね。でも、自分の意見に絶対的な効力を持たせたいわけじゃないから、『私はこれは違うと思うんだけど』みたいな感じで。みなさん、それをすごく受け止めてくださるので、お互いが『ああしよう』『こうじゃない』って、バンバンやりあうことができて。もちろん私も『それは違うよ』って言われたし、すごく良い経験でした」

──こうしてオリジナル曲が増えたことによって、ライブへのモチベーションも高まってきているんじゃないですか?

「ほんとに、ライブしたくてしょうがないんですよ。ライブってすごいですよね。だってみんな自分の歌を聴きに来るんですよ。舞台とかでも、全員が自分の声を聴きに来ているなんてことはないですから。すごいことだなあと思います。私もみなさんの顔を見るし、それがすごく楽しくて。こう歌ったらこういう表情になってくれるんだなあとか、そういうのがほんと楽しいです。早くライブしたいですね」

──逆に、女優として演じることと歌で表現することを比較してみて、似ていると思うところはありますか? もしくはまったく別物だと感じているのか。

「似ている、というか、結局『同じ』だと思いました。嘘がつけないし、でもどこかフィクションで。どちらも生きた言葉として届けたいですし、その表現の追求なんだと思います。今回制作していて面白かったのは、ここ何年かでいろいろな役を通して恋をした、その経験が歌を歌う上で生かされていると感じる時間がすごくあって。『あ、この曲はあの子のことかな』とか、この感情知ってるって思えたり、演じることと歌うことはリンクしているなあと感じられました。逆に“永遠はきらい”みたいな新しい楽曲へチャレンジしたことで、また新しい役を演じる時に、『あの歌の子だ』って思えるかもしれないですし。そういう相互作用みたいなものは絶対にあるなって思いますね」

──また新たな役を演じることが楽しみにもなりますね。

「そうですね。そうやって、編み物みたいにお芝居と歌を縒っていけたらいいなと思います」


“上白石萌音 7/10(水)ミニアルバム「i」ダイジェスト映像”

“【好評配信中!!】上白石萌音「永遠はきらい」Music Video”

リリース情報

ミニアルバム『i』2019年7月10日発売
初回限定盤
通常盤

【初回限定盤】<CD(ボーナス・トラック付き)+DVD> UPCH-7503 ¥2,130+税
【通常盤】<CD> UPCH-2188 ¥1,667+税

<収録楽曲>
01. 永遠はきらい
02. Ao
03. ハッピーエンド/上白石萌音×内澤崇仁(androp)
04. 巡る
05. ひとりごと
(ボーナス・トラック)
06. 「ハッピーエンド(studio live ver.)」

<初回限定盤 DVD>
「永遠はきらい」ミュージックビデオ


提供:ユニバーサルミュージック合同会社
企画・制作:ROCKIN’ON JAPAN編集部