フルアルバム『・・・』のリリース、ワンマンツアーと対バンツアーの開催、フェイクドキュメンタリー映画の公開など、華々しい結成10周年イヤーを駆け抜けたSAKANAMON。11年目を迎えた彼らが、新曲5曲や2019年に開催したマイナビBLITZ赤坂でのライブテイクなどを含む通算5枚目のミニアルバム『GUZMANIA』を完成させた。ひとつの大きな節目を迎えた彼らは今なにを思うのか。フロントマンの藤森元生(Vo・G)に訊いた。
インタビュー=沖さやこ
「あの曲の二番煎じだな」とは言われたくないし、飽き性だから自分でも思いたくない。常に新しいものを作りたい
――2018年は10周年イヤーということで、アルバムリリースはもちろん、ワンマンツアーに対バンツアーとかなり精力的に動いていましたね。
「10周年は乗っかるしかないオイシイネタなので(笑)、9周年で『cue』というアルバムを作って、10周年に向かって盛り上げていくぞ!という気持ちのなかで活動してました。たくさんのみなさんのお手伝いをいただき、祝ってもらい感謝する……という楽しい1年間でしたね」
――2018年5月に開催されたZepp Tokyoでのツアーファイナルで、「僕らはただ、好きな音楽をみなさんに聴いてほしいだけ。好きな音楽を続けていきたいだけ」というMCが印象的でした。
「自分の好きな音楽ができるなら、どんな形態でも良かったんです。だからそれを聴いてくれる人がいることが本当にありがたいし、そんな環境のなかバンドを続けている僕は本当に幸せ者なんです。だからMCでもいつも同じことを言っている(笑)。ただ、昔は自分の書きたい曲を書いてたけど、最近は人様の『こういう方法で作ってみたら?』みたいな提案は昔よりも柔軟に取り入れるようにはなりました。たくさん曲を書いてきたんで何でも来い! ……というよりはむしろ『ネタちょうだい?』って感じなんですけど(笑)」
――あははは。藤森さんは作品を出すたびにストックを出し切ってしまうから。
「次の作品を作るときはいつも絶望的な枯渇状態から始まります(笑)。毎度のことだから今回もどうにかなるだろう――というふうに10年間続けてきたんですけど、今回がいちばんつらかったですね。『あの曲の二番煎じだな』とは言われたくないし、飽き性だから自分でも思いたくないんです。そのためにもつねに新しいものを作りたくて」
――向上心ゆえの苦悩があったと。とはいえ、2019年に入ってすぐに3ヶ月連続で配信シングルを出していましたよね? 「いちばんつらかった」というのは少々意外でした。
「曲は作ってはいたんです。でも、忙しい、嬉しい、楽しい、ありがとう!という10周年イヤーが終わって『さて次はどうしよう!?』となった時に、みんながみんな、なんだかふわふわしちゃってたところがあって」
――ああ。なるほど。一種の燃え尽き症候群かもしれないですね。
「でもひとまず曲だけは作ろうと思って。だから3ヶ月連続で配信シングルを出したのは、みなさんのリアクションをいち早く感じ取りたいという意味合いもあったんです。春に開催したリクエスト曲でセットリストを組むワンマンツアーも、お客さんが好きな曲を調査する思惑がありました(笑)。11周年に入ってからの半年間はすべて、今後の指針を決めるための活動だったんです」
自分の歌詞に後押しされて、自分も頑張らなきゃと思う。やっぱりSAKANAMONの曲は、つねに自分の応援歌でもあるんです
――その調査の結果、どんな発見がありましたか?
「シングルやリードではないけど自分的に手ごたえのある曲が、人気投票で上位に入っていて。バンドの感覚とお客さんの感覚は似てるんだなと思ったんです。チーム内では賛否両論だった“鬼”は僕的には自信作だったし、お客さんからもいいリアクションをもらった。自分のやり方、作り方にあらためて自信を持たせてもらえる結果が得られました。だから今回のミニアルバムの『GUZMANIA』には、去年ふわふわしてた時期に作った“YAMINABE”と“BAN BAN ALIEN”、今年調査を終えたあとに作った“並行世界のすゝめ”と“SECRET ROCK’N’ROLLER”と“矢文”、10周年の時に配信リリースした“箱人間”が入っているんです」
――言われてみると、ふわふわ期に作った曲は藤森さんの持つ濃いアーティスト性が出ているし、リスナーさんの想いを受け取ったあとに作った曲は外向きでポジティブな気持ちが出ている傾向にあります。
「リサーチを終えてからのほうが調子は良かったですね。曲がするする出てきて、この3曲もほぼ一緒にできたから」
――“並行世界のすゝめ”の歌詞も最初は抽象的でもやもやとした書き方だけれど、曲が進むにつれてどんどん具体的に、力強くなっていますしね。今SAKANAMONが《もう何も心配はいらない》と言えることは、とても意味のあることでは?
「……書くかどうかは、けっこう迷ったんですけど」
――なぜ書くことに踏み切れたのでしょう?
「自信があったのかな……? 僕、考えすぎると左右されすぎて曲が作れなくなっちゃうタイプなので、曲作りの時はあんまりいろんなことを意識したり考えたりしないようにしてるんです。だからこれまでも、狙って書くことはあんまりしていなくて。でも『俺はこういうことを言ってほしいんだろうな』という気持ちもありつつ、みんなの気持ちになれたらいいなという気持ちもありつつ……ぎりぎり書けました。自分の歌詞に後押しされて、自分も頑張らなきゃと思う。やっぱりSAKANAMONの曲は、つねに自分の応援歌でもあるんです」
――長年聴いてきた人にしてみると、「元生くんが《もう何も心配はいらない》という歌詞を書くなんて!」という感動もあるでしょうし。
「あ、それはちょっと狙ってるところあるかもしれないです(笑)」
――これは狙ってるんだ(笑)。
「過去にリリースした“テヲフル”や“ロックバンド”みたいな、真面目で真剣な、一切の照れなし、真っ向から泣かせに行ってる曲は、今までの10年間のおふざけがあったからこその『さあここで泣け!』感というか(笑)。真面目な曲を書いてきたから“鬼”みたいな曲がすぐできちゃったんでしょうね。最近真面目になりすぎちゃったなと思ったらふざけるし、ふざけすぎちゃったら真面目な曲を書いたり……そういうバランスは、曲作りをするうえで唯一意識しているところかもしれないですね」