音大で音楽を学んだとしても、学んだ理論によって世界が広がるかと思いきや、狭くなることもある気がするんです
――『Reverse & Rebirth』の「Reverse」には、どういう思いが込められているんでしょう。
「僕としては、『振り返る』という意味を込めていますね。それを今、あらためてリリースするというのも素敵かなって思って。『振り返って、生まれ変わる』という」
――調べてみると、「Reverse」には「喪失」とか「失敗」という意味もあるらしいんですね。そこから生まれ変わる「Rebirth」っていうことなのかなって。
「へえー、そっか。日本語では、『リバース』って『吐く』という意味もありますよね。それをあとで知って、確かに吐いてるなあって(笑)」
――なるほど、溜まったものを吐き出してたんだ(笑)。Charmさんのように、アカデミックな音楽的バックグラウンド(バークリー音大卒)があってプロとして活動していた人でも、こういう辛い時期があるんだよっていう。それが響くんですよね。
「個人的には、アカデミックな素養の部分に少しコンプレックスを持っていて。音楽ってそもそも、学ぶべきところはありますけど、学んだ理論によって世界が広がるかと思いきや、狭くなることもある気がするんです。音大を卒業したあとに気づいたんですけど」
――ああ、表現の自由度が狭まっていくっていう。
「はい。理論がわかっているからと言って、その枠組みの中だけでやるのは良くないと思うんですね。音楽って、決して正解があるわけではないし、うん」
――でも、『Reverse & Rebirth』を作っていた時期というのは、進むべき道も明確には見えていなくて、しがらみもないという意味では、ある意味最も自由な時期だったんじゃないですか。
「確かに、そうですね。その時期は、ビザの制限でバイトをすることもできなかったんですよね。そのぶん、制作に打ち込むことができて、完成度を高めることはできました。ある意味、とても恵まれた時間だったかもしれないです」
――音楽を作るしかなかったっていう。最終トラックの“Rebirth & Reverse”で1曲目の“リバース”のメロディがリプライズして、《青空は暗闇がそばにいるから美しい/嬉しくても 悲しくても 僕らはまだ生きている》という結論に導かれるデザインには、どのような意図があるんですか。
「それこそアカデミックかもしれないんですけど(笑)、聴いたことのあるフレーズが繰り返される、映画とかでよくある手法が好きで。それを表現するためには強いテーマが必要だったんですよね。9曲目の“Reprise (Interlude)”も、同じメロディをギターで弾いていて。それによって、アルバムとしての纏まりが良くなると思いました。自分の希望を、そこに結論として書いたんです」
――同じメロディが反復しているんだけれども、スパイラルして違った結論に導かれているというのが、美しいと思いました。
「はい。それが『生まれ変わる』というテーマを含んでいるんですよね。ありがとうございます、気づいていただいて」
今の時代、人と繋がっているようで繋がっていないというか、本音が聞こえていないというのは、あると思います
――では、新たに収録された3曲についても伺っていきたいです。
「はい。オリジナル版に収録されていたうちの3曲は、インディーズ作品で既に発表しているので、その穴を埋める形で、3曲を加えました。2019年に作った新曲は“Open Hearts”で、あとの2曲は初めて音源化する2014年当時の曲になっています」
――“Open Hearts”の《言葉が聞こえてもまだ君が聴こえないこと》という歌い出しに込めた思いはどういうものですか。
「今の時代、人と繋がっているようで繋がっていないというか、本音が聞こえていないというのは、あると思いますし、それが主なテーマになっていますね」
――うん、コミュニケーションの具体性が薄らいでいるという。
「そうですね。心を開くというのは、大事なことだと思っています。《これから始まる未来をただ受け入れないで》という歌詞は、流れに身を任せてしまいがちな自分自身への言葉でもあります」
――「未来を受け入れろ」っていうほうが楽をしているというか、無責任な気がしますよね。
「それこそ、心を開くことの逆に行っていると思います。2014年の自分には、なかった発想かもしれないですね」
――フューチャーベース的なトラックと生演奏を折衷していますが、歌のメッセージがエモーショナルで強いんですよね。
「そうですね。それが一番大きなテーマでした。オリジナル版を出したあと、アコースティックな音楽もやってきましたし、ロックな曲もやっていたんですが、2014年頃の制作では、生ドラムを叩ける環境でもなくEDM的なアレンジを取り入れることが多かったので、その2019年版になっていると思います」
――“Free Man”にも、ドキッとする歌詞が綴られていて、《I’m a free man for sale》という。
「自由になったけど、どう生きるかを考えなきゃいけないという、当時の心境が表れていますね」
――リアルな生活感がないと出てこないフレーズですね。それで、“thirty-6”が最高なんですよ。メタルギター全開で。ある意味、Charmさんの原点というわけですよね。
「はい(笑)。当時、あるデザイン/アートイベントに、葛飾北斎の『富嶽三十六景』をモチーフにした作品が出展されて、そのための音楽として制作したんですよね。だからタイトルが“thirty-6”なんです。歌詞についても、北斎が多くの雅号を用いていたというエピソードを取り入れていて」
――なるほど(笑)。北斎も、ビジネス的な目論見やしがらみの中で雅号を変えていたから、『Reverse & Rebirth』の生活感とシンクロする部分がありますね。この曲はTHE CHARM PARKのジャパニーズメタルですよ。『Reverse & Rebirth』の中でも、いいアクセントになってアルバム全体を引き締めていると思います。
「ありがとうございます。ギターを推しすぎかな、と思ってオリジナル版には入れなかったんですけど、ライブでやるのが楽しみです。12月に東京(12/6)と大阪(12/13)で『Reverse & Rebirth』のリリースパーティ的なライブがあって、そこでは今回の収録曲のほとんどをやると思うんですが、1月からのツアーでは、また新しい一面を見せられたらいいなと思っています」