実は「隠れランナー」だったと最近告白したHYDE。“BELIEVING IN MYSELF”は、徐々に心拍数が上がっていくような曲で、東京マラソン2020のイメージソング。ハードなオルタナティブチューン“INTERPLAY”はパチスロ 真・北斗無双のテーマソングで、アグレッシブな気分を高揚させる。タイアップに応えながら海外も視野に入れ、自分の思いを存分に描くHYDEの楽曲の濃密さは今回も圧巻だ。休むことを知らぬかのように動き続ける彼は、どんな高みを目指して進んでいるのか。それが垣間見えたインタビューになった。
インタビュー=今井智子
だらしない奴見るとムカついてきて、俺のほうが人としてカッケーなと思えるようになってきた。そういう意味でも、走ってると前向きになれる
――シングルとしては『MAD QUALIA』から約1年ぶり。両A面ということですが、まずは“BELIEVING IN MYSELF”について伺わせてください。東京マラソンのディレクター早野忠昭さんとの対談がきっかけでタイアップ曲として書き下ろされたそうですが、その対談で「隠れランナー」であると初めて話されたんですね。
「そうなんですよ。縁があって対談が実現して、何を話そうかなと思って。話のネタとして、隠してたことをオープンにするしかないな、と。マラソンの対談で、『僕、別に走んないし』とか言ってられない(笑)。ミュージシャンが健康に気を使うのをかっこわるいと思ってる、ちょっと古い世代なんで、これまでもブログとかで散歩の日記を書いたりすることがあったんですけど、実はあれ走ってたんですね。そうやって隠して、酒飲んだりとかそういうとこだけ見せるようにしたり」
――悪ぶっちゃうんですね。
「そうそう(笑)。そうやってきたんですけど、気がついたらちょっと時代が変わってるかなと思って。僕が走ってると言っても知れてるんですけど、筋トレもやってるし、そういう自分の健康管理しているほうが、今の時代かっこいいんじゃないかと思えてきた。だんだん、だらしない奴見るとムカついてきて、俺のほうがちゃんとしてるいうか、人としてカッケーなと思えるようになってきた。そういう意味でも、走ってると前向きになれる。今日走ったらいい酒飲めるでもいいし、昨日めちゃめちゃ食べたから走るでもいいし。同じ食べるんでも、そういう緩急あるほうが気持ちいい人生だと。そういう流れで、オープンにしちゃえ、と」
――そういうところから曲の着想が?
「音楽聴きながら走ることが多いんですよ。軽快な音楽を聴くとエンジンがかかるんで、自分も走ってて気持ちのいい曲であってほしいなと思って、そういうところからスタートしました」
――走る時、どんな曲を聴くんですか?
「仕事しながら走れるのがいいところで、たとえば次のコンサートのメニューを聴きながら走ったりとか。歌詞の確認しながら歌ったりとか。1時間走る間も有意義に使うようにして。だから自分の曲が多いですね」
――HYDEさんにとって走ることは、楽しみというより自己管理とか時間の有効活用という面が大きいんでしょうか。
「そうですね。楽しいと思って走らないですね。より美味しいご飯を食べる為にという流れなんで。走ってたら楽しいこともたくさんあるんですけどね。季節が変わって行くのとか見ると楽しいですよ。夜の街を走ることが多いんで、酔っ払いの横を走ったり(笑)。夜景とか酔っ払いとか、結構堕落した人間が見えますね(笑)」
僕自身も長年生きて来て、いまだに今から始めることでワクワクすることがあったりする。いつでもスタートできるんだなと思う
――MVが夜景なのは、そういう体験から?
「それはどうかな。健康的なイメージではあるんですけど、ダブルミーニングで、人生挫けたことがあっても前向きに何度でもスタートできるということを言いたかったんで。曲としてはマラソンのタイアップで、ランニングを人生に置き換えることもあるけど、曲としてはもうひとつの世界観、辛いことがあっても何回でもトライしてもう1回走り出そうという気持ちをね」
――自分自身へのチャレンジでしょうか。
「そうだね。僕自身も長年生きてきて、いまだに今から始めることでワクワクすることが結構あったりする。いつでもスタートできるんだなと思うし。何度でもできるということを表してる」
――この曲を聴きながら走ってみたりされました?
「いや、ないかも(笑)。これからかもね。僕はライブのイメージもあったんで、この曲がかかったらみんなエンジンかかるんじゃないかなって。ちょっと切ないメロディだったりするんで、そういうエンジンのかかり方。ちょっと悲しいんだけど、その分情熱的になるというかね。そういう風になるといいな。あと、みんなで歌う感じもあるし。ランニングしてても、すごく加速できると思う。気に入ってます」
――英語と日本語のバランスも自然で、歌詞も簡潔に意味が入って来ますね。
「なるべく、みんなで歌いやすいように。英語があるとハードル上がっちゃうんだけど。基本、僕は海外での活動を目指してるんで、増えちゃうんですけど、それ以外はシンプルでいたいなと思って、サビとか全部一緒にしたり。今回は比較的、僕の曲の中でもカラオケで歌いやすいんじゃないかなと思ってます(笑)」
――Japanese Versionがあるということは、English Versionもあるわけですね。歌詞は英訳するんですか。
「基本的には英語で書いた上で、日本語と差し替える感じですね。英訳ではなくて。意味を気にしだすと曲優先じゃなくなってくるんで。意味も重要だけど、メロディが流れてないと好きじゃないかな」
僕はシンガーソングライターを目指してるわけじゃなくて、自分の理想とするステージができるアーティストになりたい
――曲はSho(MY FIRST STORY)さんとの共作ですが、どんな風に作業するんですか。
「まず曲のイメージを伝えて。さっき言ったように、ちょっと悲しい感じでランニングに合うリズムとか。彼、天才なんで、僕が言葉で言ったことをすぐ具現化してくれる。だから僕がギター弾いてどうこうより早いですね。それで、データをやりとりして進めていく」
――ひとりで作るより広がりがあるものになるのかなと思いますが。
「そうだね、自分で全部作ることへのこだわりはなくなりましたね。逆になんでこだわってたんだろうと思う。作らないといけないみたいなことに、勝手に囚われてた。でも僕はシンガーソングライターを目指してるわけじゃなくて、自分の理想とするステージができるアーティストになりたい。そこに至るために何が一番重要なのかを考えると、自分が曲を作ることが最大の目標じゃないだろう、と。いろんな人の手を使ってでも自分の理想を表現できたほうが僕には合ってる。と、いい歳して気づきました」
――もう1曲の“INTERPLAY”はhicoさんとAliさんとのコラボですね。
「こっちのほうが今まで僕がやって来たスタンスに近い。スタジオに入って、僕のアイディアを具現化していく感じ。プリプロと言われてる作業に近い。大体の骨組みを作っていって、hicoがキーボード入れたりして構築していく。バンドのメンバーでもあるから、ツアー中でもバスの中で作業できて、便利ですね」
――ツアーバスというのは、昨年の全米縦断公演の?
「そう。4バンドぐらいで回るんで自分たちの持ち時間は40分ぐらいとかで、リハもなかったりするんで、結構時間があるんですよ」
――じゃあそのツアーの頃にできた曲なんですか?
「これは1年位前。この曲はパチスロ 真・北斗無双のテーマソングだから、遊んでいて盛り上がる曲がいいなというところから。『来たー!』って雰囲気の曲がいいなあって。それと、2019年に作ってたから、令和が始まったタイミングでもあったし、次にオリンピックが来る。その盛り上がる感じのダブルミーニングにしたかった。我々も、2020年という、新たなスタートというような雰囲気もあったんで、そういう歌詞になった。あとVAMPSの“AHEAD”もパチンコの真・北斗無双で使われてるんですね。渋谷のパチンコ屋の前とか行くと“AHEAD”がいつも流れてるような使い方をされてたんで。今回もその雰囲気がある曲がいいなって」
――この曲のMVがスタジオでの演奏がメインなのは、楽曲制作がバンド的だったからでしょうか。
「あれはね、前回のツアーでやってた僕のイメージが、『ブレードランナー』とか『AKIRA』とか、あの辺の近未来のイメージだったんです。ビデオをダビングした時の荒れた画像とか、あれが当時の未来感だったんで。そういうレトロな未来感を表現してみた」
――HYDEさんの、唇の周りを崩したメイクもインパクトありますね。
「あれも僕の最近のスタイルで。ソロでは飽きるまでやりたいなと思って。アメリカでやっていく時に、やっぱ個性が必要だなと思って。ばっちりメイクだと日本ではヴィジュアル系って言われちゃうし、向こうではきれいな方向って合わないし。ナチュラルメイクというか、素顔でどう個性を出すかって考えた時に編み出したんですよね。マリリン・マンソンのベースだったティム・スコルドの真似してやったんですけど、最初はね。まあ個性として、アイコンになればいいなと思って」
やっとバンドが整ったかなという感じですかね。今ならアメリカのバンドにも勝てる部分があるかな
――アメリカでの活動をメインにして行くと日本での活動は?
「日本は、こうやってプロモーションに協力してくれるスタッフがいるんで可能なことなんですけど、アメリカはやってくれる人がいないんで、なるべくそっちを優先してスケジュールする。楽曲もそれに近い感じになっちゃいますね。今回は2曲ともタイアップがあったんで、日本でもアメリカでも受けそうという折衷案を狙ってるところはあるんですけど、基本的には全部英語にして再リリースしたりとか」
――昨年の全米ツアーを始め海外での手応えはどうですか。
「全然ダメですね。やっとバンドが整ったかなという感じですかね。今ならアメリカのバンドにも勝てる部分があるかな。前は全然勝てなかった。今はやっと同じ土俵に立てたかなって感じがしますね」
――こうしてソロの楽曲リリースと前後して、L'Arc〜en〜Cielの8年ぶりのツアーが行われていますが、久々のツアーはいかがですか。(取材日は2月中旬)
「ずっとやってるわけでもなく、年1本とかを繰り返してたんで、それはそれでファンは喜んでハッピーなんですけど、バンドとして見た時に、やれることは鬼のようにあったんですよ。今はもうちょっと踏み込んで、ラルクのライブが面白くなるように、考えられるようになって来ましたね。それはメンバーのテンションもあると思いますけど。これまでよりも深く、バンドのライブでどうあるべきかを考えられるようになってきたし、意見も言えるようになってきましたね。今この調子でうまいこと終わっておけば、次はそのテンションでスタートできるからいいと思うんですけどね」
――HYDEさんだけでなくメンバーさんそれぞれの活動もしてらっしゃることがバンドに反映されるのかなと思いますがどうでしょう。
「それぞれのバンドで色々経験して、ラルクに戻った時にちょっと大人になってると思うんですよ。僕自身、ソロをやってるから成長が早い。ソロをやってるからこそラルクを歌うと、ここをもっとうまく、感情豊かに歌えるなとか。今のラルクのhydeのほうが、今までよりいいと思いますよ。日本にいたら、これ以上うまくなろうと思わない。でもアメリカにいると、全部のバンドに負けてると思うから悔しいんですよ。だからずっと練習してる。その差は大きい」
――そういうところで勝ち残りたいんですね? グラミー賞とか狙います?
「そこまでは思ってないですけど、もう少し高みを望みたいですね。この前の大阪のライブに(LOUDNESSの)高崎晃さんが来てくれたんですよ。原点ここだなと思いましたね。LOUDNESSが80年代にビルボードにチャートインしたのは日本人から見てすげーなというのがなかったら、今回のようなことはやってなかったと思う。彼らがアメリカでハードロックバンドとツアーしてたのを見てるから、僕もあれぐらいの音楽的な功績を残して消えたいなと思うんです。でも僕に今からできることはそんなに求めてなくて、最大限やり遂げて、あと2、3年で十分かなと」
――具体的な目標はあるんですか?
「フェスとか出て、お客さんを盛り上げたい。その映像さえ撮れればいいです。ハハハ」
“BELIEVING IN MYSELF”
“INTERPLAY”
ニューシングル『BELIEVING IN MYSELF / INTERPLAY』発売中
初回限定盤(CD+DVD) 2,000円(+税)
通常盤(CD only) 1,200円(+税)
〈収録曲〉
01.BELIEVING IN MYSELF
02.INTERPLAY
〈初回限定盤DVD収録内容〉
“BELIEVING IN MYSELF” Music Video
“BELIEVING IN MYSELF” Documentary
“INTERPLAY” Music Video
“INTERPLAY” Documentary
提供:UNIVERSAL MUSIC
企画・制作:ROCKIN’ON JAPAN編集部