UNDER ARMOURによる、若者が直面する様々な「スポーツの壁」を取り払うために展開されているブランドキャンペーンのテーマソングとして書き下ろされた“Break through the wall”。様々な困難と向き合うアスリートの姿が表現されていると同時に、AK-69の人生も深く刻まれている楽曲だ。何かに対して真剣に向き合っている人々の心を鼓舞して止まない言葉と音に彼が託した想いとは? そして、4月23日(土)に開催される5度目の日本武道館ライブ「START IT AGAIN in BUDOKAN」についても語ってもらった。
インタビュー=田中大
闘ってる人の心境の根本は一緒。「他人からどう思われるのか?」とかではなくて、自分と向き合うわけですから
――“Break through the wall”を書き下ろすにあたって、アスリートの方々と対談をしたそうですね。「はい。パラリンピックの選手、女子ラグビーの選手の方々などとお話をさせてもらったんですけど、意外といい意味でびっくりすることがなかったというか。自分も形は違えど常に壁に挑みながらここまで来た人間なので、『一緒だな』っていう感覚のほうが強かったですね」
――ご自身の中から自ずと湧き起こるものを曲にできたということですね。
「そうですね。こういう歌って書こうと思って書けるものでもないというか。今までにもアスリートを鼓舞してきた曲があるんですけど、そういうのは自分の人生の様々な局面で湧いて出てきたものなんです。だからこそ言霊になって同じような気持ちの人に刺さってきたと思うんです。今回もそういうことですね。学生だろうと、会社員だろうと、闘ってる人の心境の根本は一緒。『他人からどう思われるのか?』とかではなくて、自分と向き合うわけですから。『怠けてないか』とか『本気で挑んでるのか?』っていうのは、自分自身がよくわかってるんです。壁に挑むためにそれぞれがしてる努力の中で抱く葛藤を、自分自身もそうやって生きてるからこそ、この曲で表現できたと思います」
――《あの⽇ママが⾔ったよ「みんなと仲良くするように」/でも社会では闘い》という一節がありますが、世の中には闘いがあるという厳然たる事実を描いているのも印象的です。
「子供の頃は『みんなと仲良くしなさい』って言われますし、それがいちばんだし、そうだったはずなんです。でも、結局社会に出たら闘いなんですよね。試合もそうだし、会社での営業成績とかも誰かとの闘いですから。でも、それも突き詰めていくと『自分に負けない』っていう闘いなんですよ。誰かとの闘いで負けたりするのは仕方のないことですけど、何があっても自分にだけは勝ち続けるっていうのが大事なんだと思います」
――闘いには様々な形がありますが、スポーツに関しては勝敗が必ず決まりますから、打ちのめされる時はとことん打ちのめされることになりますよね。
「シビアな世界ですよね。試合までにどれだけやってきても勝ちは勝ち、負けは負け。アスリートは自分と闘う世界の中でも究極だなと思います」
――「努力を重ねてきたんだから、そこも加味して評価してほしい」とかいう主張も認められるはずがないですし。
「ほんとそうですね。努力して当たり前、努力は標準装備の世界ですから」
正面衝突をしていくしかないんです。小手先や小細工で乗り越えられるものではないと、壁にぶち当たる度に思います
――音楽の世界は、努力の形が明確ではない面もありますよね。たとえばラップのスキルを身につけるための基本的なことはありつつも、その人なりのスタイルを開花させられる明快なやり方があるわけではないですから。「そうですね。だってめちゃくちゃ酔っぱらったりして作った曲が評価されてる奴だっていますし。そういうのは、人それぞれなんです。俺も真剣な歌ばっかり歌ってるわけではないですけど、『なんで俺は存在してるのか?』ってなると、並大抵ではできないストイックな挑み方をしてる中で生まれた曲があるからこそなんですよね。荒れた生活の中で活動してたとしたら、俺くらいの才能では無理で、とっくに消えてたというか。それが正解かどうかではなくて、人にはそれぞれの役目があるし、そういうのを求めてる人が聴いてくれてるんだと思います」
――壁に挑み続けるのは自分に厳しくあり続けるということですけど、「壁から目をそらすのも、つらい生き方だよな」ということも“Break through the wall”を聴きながら感じました。
「『逃げたくなったら逃げればいい』っていうようなツイートとかをしてる人がいっぱいいるじゃないですか。心がつぶれたり命を落とすくらいだったら逃げてしまえばいいと思うんですけど、俺は基本は『逃げてはだめなんだ』って思っちゃうんです。逃げ癖がついたら、その先ずっと逃げちゃうから。俺なんかもともと弱いんで、だからこそ逃げたくない。だから逃げる人って、逆に強いのかもしれない。何が正解ってわけでもないですけどね。でも、やっぱり俺は俺の役割があるので」
――ご自身がそういう人生を、まさしく歩んできたわけですよね。
「はい。もちろん人間なのでクソなところはいっぱいあるんです。でも、音楽に関することは譲らずにやってきました。悔しい想いをすることは今だって全然ありますし、だからこそ今でもこういう歌詞を書くんです。昔を思い出して書いてるわけではないんですよね。悔しさを感じる状況に感謝です。壁は探すものでもないと思ってて。やりたいことに向かって突き進んでると自然とぶち当たるというか。それを乗り越えていくテクニックとかもないし、正面衝突をしていくしかないんです。小手先や小細工で乗り越えられるものではないと、壁にぶち当たる度に思います」
俺は悔しさ、恥ずかしい想いとかが燃料になるタイプ。闘ってる人って、そういうタイプの方が多いんじゃないかなと
――この曲は、サウンドも心を鼓舞してくれるものがすごくあります。「こういう物悲しい感じがある曲をタイアップで作るっていうのは、なかなかないと思うんです。アスリートブランドの曲はもっとファンファーレ感のある、『行くぞ!』っていう感じで、スタジアムでみんなで大合唱するようなものになりがちなので。プロデューサーも最初、そういうトラックを候補で出してきたんですけど、俺の頭の中にイメージがはっきりあったので、『絶対に違う』って言ってこれを作り始めてました。それを尊重してくれたUNDER ARMOURは、まじでイケてるブランドだと思いましたね」
――この曲に表れているギラギラした負けん気のようなものは、やはり大事ですよね。
「気持ちよかった感情とかってご褒美みたいなものなので、『それによって頑張れるのか?』ってなると、自分は頑張れないのかなと。俺は悔しさ、恥ずかしい想いとかが燃料になるタイプなので。闘ってる人って、そういうタイプの方が多いんじゃないかなと思います」
――《なりたい・・・ なりたい・・・ 誰でもねぇ“俺”に成りたい》という表現も、はっとさせられるものがありました。理想って「この人みたいになりたい」という憧れから始まることが多いのかもしれないですけど、突き詰めていくと「自分として行けるところまで行きたい」というものになっていくように感じるので。
「『誰かになりたい』って言ってる時点で、矢印が自分に向いてない人生ですよね。『矢印が自分に向いてない人生って納得できるのかな?』って俺は思います」
――音楽は誰かに憧れてコピーしたりするところから始まることが多いですけど、どこかの段階で自分のスタイルの追求になっていきますよね?
「そうですね。俺の場合はUSのヒップホップから入って、ほとんど日本語ラップを聴かずにずっとやってたんですけど。そのわりにめっちゃダサかった(笑)。USのヒップホップみたいなことをやりたいけど、やれなかったんですよ。で、結果的にオリジナリティのあるフロウとかになっちゃったところがあります。誰かになりたかったんですけど、なれなかった。それが研ぎ澄まされていって、『これがAK-69だ』っていう感じになっていきました。だから俺のメロディや譜割りとかは独特なんですよ。歌が上手い人が歌っても上手に歌えないって、音楽をわかっている人からするとあるみたいです。でも、それが誰でもない俺だったんです。やっぱり自分を研ぎ澄ませるための努力は厭わないほうがいいんだなと。憧れの誰かになるための努力って、あんまり報われないんじゃないですかね。それは音楽に限ったことではなくて、『この人だ』っていう人のほうが世の中に出ていくように思います」
メッセージを放てる人間として、日本人としてのあり方を考えるきっかけ、気づきのきっかけくらいにはしたい
――有観客のライブがなかなかできない状況が続いていましたけど、2020年8月に名古屋城、今年の1月に鈴鹿サーキットで配信ライブをしましたね。「名古屋城の時は1回目の緊急事態宣言を経て、配信ライブの需要が高まっていた時期だったんです。『リアルライブではできない会場を選ぼう』っていうことで名古屋城でやったんですよね。鈴鹿の時は人数とかの制約はあるものの、リアルライブもできるようになってたので、『配信でしか公開できないライブ』っていうのは状況に逆らった挑戦でもありました。でも、そういう時だからこそ安牌ではなく、エンターテインメントの基本に立ち還ったワクワクするものをやりたい一心だったんです。鈴鹿はまじで大赤字なんですけど、それでよかったと思います。商業的に失敗だったとしても、そういうことをやるっていうのは、『AK-69、コロナ禍にとんでもないことやってたな』って人の記憶に刻まれるものなので。それがショーマンとしての誇りと言いますか。武道館とかでの大きいライブもそうなんです。自分がワクワクすることを、金額がいくらかかろうがやりますから。一銭も事務所やアーティストに入らないことをやるのはよく言えば気持ちいいし、悪く言うとバカ(笑)。そうやってエンターテインメントを突き詰めるから、俺は今でもやれてるんだと思います」
――4月23日(土)に5度目の武道館公演がありますね。
「はい。今度の武道館は自分のベスト的なライブになるのはもちろんなんですけど、コロナ禍を経て国自体が本当にやばいっていうのを俺は感じていて。国を変えるとか大それたことを言うつもりはないですけど、影響力を持った人間として、メッセージを放てる人間として、日本人としてのあり方を考えるきっかけ、気づきのきっかけくらいにはしたいなと思ってますね。大きく言うならばみんなの意識を変えたいってことなんですけど。それが音楽でできると思うんです。俺は音楽っていう方法を神様から授かってるので、それを使った演説みたいな、今日本人として必要な演説になるようなライブにしたいと思ってます」
――先日、全国の児童養護施設へ音楽機材を寄贈するチャリティーオークションをやっていましたが、「世の中に何ができるのか?」という姿勢を、AK-69さんの様々な活動から感じます。
「チャリティーに関しては『言うもんでもないな』って、水面下でずっとやってたんです。でも、俺がこういうことをやってるって若い子たちとかが知ることで、『こういうことをしたらいいんだ?』って気づいてほしいという想いもあって、表立ってやるようになりました。今回の武道館も企業さんが協力してくれて、児童養護施設の子たちの招待枠とかを作ったりしてます。ライブになかなか行けない状況になっちゃったじゃないですか。そういう中でも音楽の力、エンタメの力を直に感じてほしいんですよね。役所とかに寄付してもどれだけ必要な人に行き渡るのかわからないので、俺は直接物に替えて子どもたちの夢に繋がるようなことをしたいんです。この前の楽器の寄贈もそういうことです。俺はもう十分成功したんで、きれいごと抜きであとは社会貢献と音楽シーンのためのことをやるのが今のフェーズなのかなと思ってます」
“Break through the wall”(4月14日(木)20:00公開)
『Break through the wall』
「START IT AGAIN in BUDOKAN」
提供:ユニバーサル ミュージック
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部