2019年1月26日に“80年代アクションスター”のMVを公開して以降、様々な曲が大反響を呼び続けているザ・リーサルウェポンズ(通称:ポンズ)。狂気の発明家・アイキッド、最終兵器・サイボーグジョーによって結成されたこのユニットは、80年代から90年代にかけてのカルチャーを題材にすることが多い。80年代的なシンセサイザーの音色とハードロックの要素を融合させたサウンドも非常に独特だ。もともとは近所の古書店のオリジナル曲の制作からスタートした彼らなのだが、日増しに活動の規模が大きくなっていることに関して、どのように感じているのだろうか? そして、ザ・リーサルウェポンズの音楽の背景にあるものとは? ふたりに語ってもらった。
インタビュー=田中大
リバイバルとか関係なく、こういうのがずっと好きだったから、今さら「リバイバル」とか言われても困っちゃいます(アイキッド)
――シンセの音色やスネアにゲートリバーブをかける感じとか、80’s的な要素をかなり反映していますよね。アイキッド はい。シンセは80年代中盤から後半にかけてFM音源が全盛で、90年代になるとコルグとかローランドのPCM音源になってくるんですけど、私はその合間くらいの音色が好きなんです。とはいえ、うちはあんまりFM音源は使ってないですけど。フェイクFM音源みたいな感じです。
――80’sをイメージさせる音ってありますよね。
アイキッド そうですね。うちはそういうフレーズも選んでます。今だったら恥ずかしくて使えないフレーズ、メロディラインをいっぱい使ってますから。リバイバルとか関係なく、こういうのがずっと好きだったから、今さら「リバイバル」とか言われても困っちゃいます。みんな「1周回ってかっこいい」って言うじゃないですか。私はスタート地点からこういうのがかっこいいと思ってたから、みんなが追いついてきたというか。
サイボーグジョー センセイ(アイキッド)は、いつからパソコンでプログラミングミュージックをするようになったのですか?
アイキッド 私に質問とは珍しい(笑)。小3くらいからですね。家にたまたまパソコンがあって。貧乏だったんですけど、うちの親父が江戸川と千葉の田畑を売って作ったお金で群馬の狭いボロボロの家に引っ越したら、なぜかパソコンが置いてあったんですよ。それで始めていって、少しずつ仕組みを知ったというか。
――ギターはいつから弾き始めたんですか?
アイキッド 中2からですけど、始めたのは打ち込みの補助的な理由だったんです。「女の子にモテたい」みたいな人が多いですけど、そういう動機はまったくなくて。
サイボーグジョー センセイ、実はベースマン。
アイキッド そうね。でも、ギターを弾いて有名になりたいとかはなくて、冷めてるというか(笑)。ポンズにおいてもそうなんですよ。ジョーくんがボーカルで、「じゃあ私は何をしようかな?」というところからギターに辿り着いただけなんです。キーボードだとライブの時に前後2列みたいになってバランスが悪いから、ギターをやってます。
サイボーグジョー 「Back to the 80's Tour 2023」で『Back To The 80's』の曲を全部やったけど、楽時間(らくじかん)いっぱいあったね?
アイキッド あのアルバムを作った時は、そもそもライブでギターを弾くかどうかも決めてなかったので、ギターが入ってる曲が少ないんですよ。だからライブだとやることなくてずっと立ってるだけなんですけど、それでいいんです。弾かないんだったら、そこは休みですから。
サイボーグジョー 私、歌いながらセンセイ見て、「楽だな」って思った。
アイキッド アンプの前に椅子を用意してほしいね。弾かない時は座って携帯をいじってればいいから。それくらいのロックロックしてない感じでやってきました。
80年代は音楽もつっこみどころが満載。ポンズもつっこみどころを満載にしています(アイキッド)
――歌詞の題材も独特ですよね。80年代の音楽、ゲーム、プロレス、アクション映画の他に、ホッピー、スーパーカブ、スーパーの半額タイムセールとか。ジョーさん、スーパーカブやホッピーってなんなのか知っていましたか?サイボーグジョー そこらへんはセンセイに教えてもらいました。「スーパーカブは、ベスト・バイク・イン・ザ・ワールドだよ」「じゃあ、ホッピー飲もうぜ!」とか。
アイキッド そうだな。最近あんまホッピー飲みに行ってないけどな。
サイボーグジョー そうね。
――“熱血ティーチャー”も、日本独特のカルチャーかもしれないですね。
アイキッド アメリカでも厳しい体育教師はいたみたいですよ。
サイボーグジョー そうね。
アイキッド ジョーくんも私も野球部だったんですけど。ふたりとも補欠でした。ポジションはどこだった?
サイボーグジョー ベンチ。
アイキッド 私もベンチウォーマー。セカンドだったんですけどね。
サイボーグジョー ミートゥー。
アイキッド セカンドの補欠同士です。
――“80年代アクションスター”は、シルヴェスター・スタローン、アーノルド・シュワルツェネッガー、ブルース・ウィリス、メル・ギブソン、チャック・ノリス、スティーヴン・セガールなど、スーパースターが勢揃いですね。
アイキッド 本当はチャック・ノリスだけの曲にしたかったんですけど、さすがにマニアックすぎるだろうと思ってこうなりました。本当はマイケル・パレも入れたかったんですけど、ヒット作が1本しかないので。
――当時のアクション映画は、大ヒット作にもB級感がどことなくありましたよね。
アイキッド そうですね。80年代は音楽もそうなんですけど、つっこみどころが満載というか。そういうのが好きなので、ポンズもつっこみどころを満載にしています。かなり聴き手に委ねるところを残していますね。映画『リーサル・ウェポン』は、ビッグバジェットムービーのはしりだったと思うんですけど、低予算ムービーもたくさん作られていたのが80年代なんです。我々はビッグバジェットムービー的なバンド名ではあるんですけど、やってることは低予算ムービー的ですね。総予算5万とかでやってましたから。
スーパーファミコンがいちばん好きだった。センセイはセガボーイだからメガドライブだけど(サイボーグジョー)
――“さよならロックスター”は、エディ・ヴァン・ヘイレンが好きな人には堪らない曲だと思います。アイキッド ヴァン・ヘイレンはハードロックとシンセサイザーの融合地点、原初にして到達地点ですから追悼の意を表すのは当然なのかなと。私、シンセサイザーが好きなんですけど、それと同時にハードロックも好きなんです。それをうまくブレンドしたのがザ・リーサルウェポンズなんです。
―― “昇龍拳が出ない”はカプコンから公認もいただいて、コラボもしましたね。
アイキッド はい。これは私が小学校5、6年生の時に歌っていた替え歌です。それをまさか大人になってから出すことになるとは。
サイボーグジョー すごい人生だねえ。『ストII(ストリートファイターII)』は、私のジェネレーションのアメリカ人もみんなやってた。スーパーファミコンがいちばん好きだった。センセイはセガボーイだからメガドライブだけど。
――去年のシンセウェイヴ3部作“ねこねこヘヴン feat.上坂すみれ”、“サムライディスコ feat.眉村ちあき”、“シューティングスターレディオ feat. 宇多丸、スーパー・ササダンゴ・マシン”は、コラボの人選も素晴らしかったですね。
アイキッド 上坂さんは私が楽曲提供をしたのが縁で、コラボをしていただけることになったんです。お互いに猫が好きなので“ねこねこヘヴン”を作りました。
――眉村ちあきさんは、ものすごく才能に溢れた人ですよね。
アイキッド 彼女はすごいです。あの人がアイドルグループをやめてギター片手に活動を始めた瞬間くらいからずっと注目していて、「めっちゃ上手い!」と思って。
――作る曲のセンスも素晴らしいです。
アイキッド そうなんです。“インドのりんご屋さん”が大好きで、ライブに行きたかったんです。でも、ポンズの準備を始めていた時期で行けなかったんですけど。
――RHYMESTERの宇多丸さん、覆面レスラーのスーパー・ササダンゴ・マシンさんとコラボをした“シューティングスターレディオ”は、MVもかっこよかったです。段ボールのデロリアンでドライブしていたじゃないですか。
アイキッド はい。あのデロリアンは、いろんなMVで登場します。
サイボーグジョー 段ボールデロリアン、いちばん最高!
我々は偽物ですから(笑)。でも、本気で本物を目指してる偽物ではなくて、偽物を目指してる本物なので(アイキッド)
――昨年は「サマソニ」などのフェスにも出たり、活動の規模がどんどん大きくなっていますが、ご近所付き合いの延長でザ・リーサルウェポンズを始めた頃は、ここまでの状況になることをイメージしていましたか?アイキッド どこまで本音で言っていいのかわからないですけど、私は……1000%いけると思っていました。でも、基本的には土日でやろうとしてたので、ちょっと広がりすぎかなあとは思ってますけど(笑)。
――(笑)。コロナ禍でも面白いことをいろいろやってきましたよね。2021年11月13日に新宿FACEで開催した「新宿バトルロイヤル」とか。
アイキッド あれは大変でしたねえ。
――格闘技のリング上で著名人、スタッフさん、お友達が登場して乱闘するプロレス的なライブでしたね。
アイキッド はい。演出、脚本、セリフとか、全部を自分でやって、ライブ前に私、ヘロヘロだったんですよ。もう二度としたくないなあと思いつつも、またやるんですけど。
――今年の11月11日に開催するスペシャルライブ「地獄の国技館バトルロイヤル」ですね。
アイキッド そうです。前回と違って、当日を迎える前に制作休みをくださいという話をしているので、今回は大丈夫だと思います。
――7月5日、6日はZepp Shinjuku(TOKYO)公演。9月20日にはアルバム『OKシンセサイザー』をリリースする予定ですが、レディオヘッドの『OKコンピューター』を思い浮かべずにはいられないタイトルです。
アイキッド タイトルは何も考えずにつけました(笑)。まあ、シンセっぽいものにしたかったっていうのもあるんですけど。『OKシンセサイザー』は、シンセの要素が少し強めになると思います。
――現在制作中?
アイキッド はい。今、頑張ってるところです。
――先日、アルバムリリースを発表した際に仮想通貨に関する曲が収録される旨のコメントも出していましたが。
アイキッド ジョーくんが去年、仮想通貨を高値掴みしちゃって、そこから毎日チャートを見てるんですよ。仕事中もずっとチャートを見てて、どんどん歌のクオリティが落ちてくんです。だから「これはもう歌わせよう」と。「ちゃんと本業頑張りなさい」っていう歌ですね。
サイボーグジョー そうね。はあ……歌うかあ……。
――今年も充実した活動になるんじゃないですか?
アイキッド まあそうですね。ミュージシャンっぽくなくてすみません。「俺たちはさあ!」とか、そういうのがないので。フェスとかも決まったら決まったで、そこに行って30分とか40分頑張る。帰ってきたら焼きとん、ホッピーっていうだけなので。
――フェスきっかけで好きになってもらえることも多いですよね?
アイキッド はい。無党派層を集めるための要員でもあるので。ジョーくん、無党派層わかります?
サイボーグジョー わかんない。
アイキッド (ジェスチャーで)世間。マス。引っ張る。きみ。ホールドする。私。そういうこと。
サイボーグジョー はいはいはい。
――普段からそういう感じでいろいろ伝えているんですか?
アイキッド はい。単語をゆっくり喋って、「おおー!」ってなるんです。ライブのMCもこれにしようか?
サイボーグジョー うん。いいコミュニケーション!
アイキッド ライブのMCは私がボケようが何も返ってこないので、いつも台本で決め打ちだったんですけど。
サイボーグジョー 台本好きです。
――このインタビューは、いろいろなロックバンドたちの記事と並んで掲載されるんですけど、ジョーさん、何かアピールしておきたいことはありますか?
サイボーグジョー アピール? センセイ、どうしよう?
アイキッド そうねえ。なにしろ載ってるラインナップがちゃんとした人たちばかりだから。
――ザ・リーサルウェポンズもちゃんとしているじゃないですか。
アイキッド いやいや。我々は偽物ですから(笑)。でも、本気で本物を目指してる偽物ではなくて、偽物を目指してる本物なので。
――かっこいいB級映画に通ずる姿勢ですね。
アイキッド そうです。
ザ・リーサルウェポンズのインタビューは、現在発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』6月号にも掲載!
“ミッションインポッシブル” MV
●リリース情報
メジャー2ndアルバム『OKシンセサイザー』
2023年9月20日(水)リリース完全生産限定盤 SECL-2878~2879 <税込価格>¥4,800
初回生産限定盤 SECL-2880~2881 <税込価格>¥4,500
通常盤 SECL-2882 <税込価格>¥3,300
●公演情報
Zepp新宿 2Days公演「E.P.ウソつかない」
2023年7月5日(水)東京・Zepp Shinjuku(TOKYO) 開場18:30 開演19:302023年7月6日(木)東京・Zepp Shinjuku(TOKYO))開場18:30 開演19:30
チケット¥5,500(税込)
先行(抽選)受付期間:4月28日(金)20:00~5月14日(日)23:59まで
「地獄の国技館バトルロイヤル」
2023年11月11日(土)東京・両国国技館詳細は後日発表
提供:ソニー・ミュージックレーベルズ
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部