一緒に歌うことによって当事者意識を持つことができて、「自分のための音楽」って感じてもらいやすいのかなと思ってます(神門)
――全体的にすごく熱量と気迫を感じるサウンドですけど、勢い任せではない繊細なニュアンスがちゃんとあるのも、みなさんの魅力のひとつだと思います。神門 ありがとうございます。和希がサポートでドラムを叩いてた頃も、「同じスピード感」っていう感じがあったんですよね。「全員で届ける」という方向性が定まったのは、そこからだったのかなと思います。
久米 僕も最初から和希のドラムががっちりはまる感じがありました。
神門 今回のレコーディングは、リズム隊のふたりがどんどん意見を出してくれて進んで行った感じもあります。たとえば“1998”はサビのノリ感がもともとは全然違ったんですけど、ふたりの意見の発信によって今の形になりました。
久米 神門が曲を作るスピードに俺たちが置いて行かれたら、意見を出せないまま終わっちゃうんです。和希が加入してから、そのスピード感に合わせる努力をすごくしてるっていうのはありますね。今回のアルバムはみんなですごく話し合うことができて、その点でも楽しさが増えています。
松本 いい環境でドラムを叩かせてもらってると、今の話を聞いて思い出しました。尊敬してた先輩たちですから。
神門 「尊敬してた」って過去形なのか?
松本 今はメンバーなので、違う感覚っていうことです(笑)。
――(笑)。演奏のコンビネーションの良さは、“ココロ”の途中の一瞬のブレイクからも感じます。
神門 「どうやって展開をさせるか?」って3人でいろいろ話し合う中で、ああいうアイデアも出てきたんですよね。
――Atomic Skipperの曲の醍醐味として、サビでの歌のユニゾンの活かし方が上手いというのも感じます。
神門 シンガロングを武器にしようと思ったことはないんですけど、性格上、「大事なことを伝える時は数が多いほうがいい」っていうのはあって。僕らが全員で歌うことによってお客さんに「ここで歌っていいよ」って提示できますし、一緒に歌うことによって当事者意識を持つことができて、「自分のための音楽」って感じてもらいやすいのかなと思ってます。
――“1998”は、みなさんと同世代のリスナーが「自分のための音楽」という受け止め方をする曲でしょうね。
神門 そうかもしれないですね。一昨年くらいに書いたんですけど、《肩透かし食らったような毎日が/ダラダラ続いてる気がしたんだ》とか、コロナの影響でいろいろなことがあった当時の感じが出てる気がします。
――《耳にした友の結婚が心から喜べない》も、20代半ばくらいの人にとって特にリアリティのある感覚だと思います。
神門 僕、友達の基準がだんだん変わってきていて。今、僕が本当に友達って言えるのは「そいつの結婚式に行きたいと思える」っていうことなんです。それって20代半ば辺りの感覚なのかも。周りに置いて行かれてる感じになるのも、それくらいの時期だと思いますし。この曲では、子供っぽいところと達観しちゃうところのギャップも描きたかったんです。
曲と向き合いながらこれまでの人生を振り返る中で、「続けられること」「未来があること」はすごいって気づきました(中野)
――神門さんが作った曲をリアルな自分自身の想いとして歌えている感覚が、中野さんの中にすごくあるんじゃないですか?中野 ありますね。実際の自分の人生に落とし込みながら歌詞と向き合って、ストーリーを作りながら感情を乗せて歌にしてるような感じです。メッセージ性が強い歌詞は言葉も強いので、それに負けないようにというか、「洋服を着せられてる」みたいな感じにならないようにしています。「伝える」って自分と向き合わないと成り立たないと思うので、そこはどの曲も突き詰めてますね。「何を伝えたいのか?」というのを見出したうえで歌ってます。
神門 「この歌詞だからこういう音であるべき」っていうのは、リズム隊のふたりにもあるんだと思います。
久米 「この歌詞に寄り添ったベースをつけなきゃ」っていうよりは、遊び心に近い感覚ですね。そういう話し合いをするのが好きっていうのもあるよね?
松本 うん。「これは誰も気づかないかも」っていう遊び心を加えてみたりもしてます。たとえば“1998”の2番のAメロのドラムとか。
神門 「カッカッカッ」っていうあそこ、時計の音みたいなイメージなの? 深夜は静かで、時計の音がすごく聞こえるから、そういうイメージなのかと思ってた。
松本 あれは絡み合ってる心の中の感情を、ちょっと変なリズムで表現したんだけど(笑)。
神門 歌詞に対するそれぞれのものが積み重なって、そのうえで歌ってるからこそ、中野も「着せられてる」っていう感じじゃなくなるのかなと思います。
中野 自分が書いた歌詞ではないからこその楽しみ方みたいなのもあるんです。自分自身の感じてることとは違っていたとしても、それは考え方を広げる機会でもあるし、「人間同士がそれぞれ存在してる」っていう証拠でもあるんですよね。「面白いなあ」って思いながら気持ちを乗せて歌ってます。
――ひとりのクリエイターがDTMで曲を全部構築していく良さも当然ありますけど、Atomic Skipperの音楽は別々の人格が集まっているバンドならではのものだということですね。
神門 そうですね。「同じスピード」と言いつつも、この4人はそれぞれ我が強いので(笑)。このアルバムの曲も「はまってるようで、はまってないようで、はまってる」みたいな複雑な絡み方をしているんだと思います。
――今回のアルバムは、30秒くらいの尺の“間に合ってます”と“卒業”の存在感もすごいですし、こういう曲にもバンドとしての個性がとても出ているように感じます。
神門 ショートチューンであればあるほど、メロディがいいものじゃなきゃいけないっていうのがあるんです。それぞれ意味のあるショートチューンにすることができて嬉しいです。
――このアルバムをリリースしたあとはツアーで各地をじっくりと回ることになりますが、どのような想いを抱きながら臨むことになりそうですか?
中野 昔の私は「だらだら続ける意味はない」って思ってたんですけど、だらだらやってたらきっと続かないんですよね。このアルバムの曲たちと向き合いながらこれまでの人生を振り返る中で、「続けられること」「未来があること」はすごいって気づきました。「未来しかない!」って胸を張って思えるこのアルバムを持ってツアーを回れるので、みなさんにいい歌を届けたいと思ってます。
このインタビューの一部は、5月30日(火)発売の『ROCKIN'ON JAPAN』7月号にも掲載します!
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