【インタビュー】鉄風東京、原点でありながらバンドとしての深みをより見せつける新作『From』――綺麗事では決して終わらせない意志を語る

振り返りのような一枚でありつつ、自分たちがどういったところから影響を受けて育ってきたのか、というのもしっかり出せたと思ってます

――鉄風東京と言いますか、大黒さん自身と言いますか、不器用な正直者なんだなという印象がありまして。

「東北人スタイルでいってますね(笑)」

――注目度が高まってる中、きれいなことを言ったほうがいいんじゃないかという気持ちが湧いてきたりはしませんか?

「しないですね。言ったらまだ21歳になりたてのくそガキなんで、その状態でついてきてくれてるお客さんやリスナーもいますし。このまま変わらず、あとはバンドとして人間として成長していければいいのかなって」

――今年、JAPAN JAMに出演された際、最初に“外灯とアパート”を演奏したあと、「YouTubeで有名な曲やったんで、あとはうるさい曲しかやらないっす」と宣言したじゃないですか。期待されてること、やりたいことのギャップもあるのかなと想像したんです。

「自分ではあんまりそう思ってなくて。“外灯とアパート”は僕たちにとっていろんな人の入り口になってくれた曲なんでめっちゃ大事にしてるし。あれは、お客さんとの距離感を測るうえでMCでどの程度笑ってくれるか、っていうのもちょっと考えたりしてて、ちょっとした小ボケのつもりだったんですよ(笑)」

――あぁ、そういうことだったんですね(笑)。

「ただ、育ってきた環境がひねくれ者ばっかすぎて、尖っててよかったよって言われたんですけど(笑)。でも、そのあとの曲で(お客さんが)拳を握りしめてくれたので結果的にはよかったですね」

――実は今回の新作を聴かせてもらった印象も赤裸々で正直すぎるな、っていうところでして。ご自身ではどう感じていますか?

「場所っていうものをテーマにしてて、今回の作品は。いろんな曲に、ここ、とかそういう言葉も出てくるんですけど。あと、そういった場所からもらったこと、学んだこと、吸収したこと、〜〜からという意味でも『From』となっていて。振り返りのような一枚でありつつ、自分たちがどういったところから影響を受けて育ってきたのか、というのもしっかり出せたと思ってます」

どうでもいいこともそれはそれで愛しいことだったりする。先輩の家で飲んでやらかしたとかも大切な記憶なんで

――昨年に発表した『遥か鳥は大空を征く』や『BORN』といったシングルでは前向きな決意を歌うことが多かったですよね。今回、内向的な曲が多かったのは?

「自分はずっと卑屈だったので、『遥か鳥は大空を征く』や『BORN』はここから先に目を向けるべきものは何か?という考えで作ったから、未来への気持ちしか入ってなくて。でも、今回は内向的なもので落ち込んじゃう人たち、というか僕自身がそうなので、強がってない今の自分をちゃんと認めたいし、聴いてくれる人たちにもリンクして、それでいいんだと言いたいし。そこからくる反骨精神は鉄風東京というか、僕のテーマとしてもずっとあるから、その内向的なものを全力で肯定する感じは原点に返ったようにも思います」

――まず、“SECRET”は《君へ言えない秘密なんてないから》《君へ言いたい秘密があるから》と歌いつつ、《何を話そう、何を歌おう》という迷いも同時に吐露してます。すべてを歌うんだ、と言い切ればきれいなのに、そういうところも正直だな、と。

「この曲は高校生のときに作って、ステージに立つうえでどういうことを歌おうかと思ったとき、その迷いさえもそのまま伝えてしまえば、いちばん素直で伝わるなと考えたんです。それを今の自分たちの解釈として新しく録ったんで、昔と今が交差してて面白いですね」

――当時の“SECRET”と変わった部分もあったり?

「大枠とか構成はまったく変えてないんですけど、細かなアレンジだったり。高校生だと理論とかもわかってないんで、今の自分たちならもっとできることがある、っていうのを詰め込んだりしました」

――歌詞は一緒なんですか?

「変えてないですね。これ、今だったら書けないというか、曲の中で完結して(答えを)言わないとな、っていうのがあるんですけど、高校生のときなんでそのまんまを書いてて。言いたい秘密があるんならそれを言えよ、って今は思います(笑)」

――“HOW IS LIFE”はやり場のない気持ちを詰め込んでて。《期待外れの僕を許しておくれ》というフレーズから、何か悩むきっかけがあったのかなと想像もしました。

「仙台にベスっていういちばん仲良いバンドの先輩がいて、この曲はそのボーカルへ向けたんです。好きな女の子や大事にしたいライブハウスとかを歌ってる中で、友達も同じぐらい大事なんで、それを歌にしてないのはもったいないなと思って。ただ、意味ありげなんですけど、そんなに意味はなくて。“HOW IS LIFE”ってタイトルも、そのボーカルが酔ったとき「生活はナイスか?」ってしきりに言うんですよ(笑)。それをそのまま英訳してるだけだし。《期待外れの僕を許しておくれ》というのも、酒で暴れちゃったときのことを思い出して書いたんで、そんな重いテーマじゃないんです。でも、その軽さっていうか、ライトな部分は新しかったですね。あと、ベスってバンドがインディーロックからきてるんで、それを自分の中で最大限に解釈した結果、この曲になったところもあります」

――サウンド的にもオマージュしてるところがあるような。

「音像とかサウンドもシンプルに削ぎ落とした感じはありますね。いわゆる鉄風東京らしいオルタナはこの曲だと違うかなと思って、こういうアプローチにしてみました」

――新しい扉を開けたんですね。

「僕らの曲ってストレートなやつかすごく暗いかの二極化だったんですけど(笑)、そのミディアムぐらいになったし。どうでもいいこともそれはそれで愛しいことだったりする。先輩の家で飲んでやらかしたとかも大切な記憶なんで、それもちゃんと歌にしてあげようと思って。素直なまま、書きましたね」

Photo by 日々季

自分が許せないもの=自分が信じたいものだったりするんで、その感情を歌にしないのはもったいないな、って

――新しいという意味ではアンチテーゼを感じさせる“いらない”もそうですよね。鉄風東京って切なさや恋心を歌うことはあっても、ある種の怒りを感じさせるような言葉やフレーズはなかったじゃないですか。

「そうですね。いろんな感情が生まれるうえで、怒りや憎しみは歌いたくないなと思ってたんです。悲しみや悔しさにフォーカスをあてたほうが人間として成長できるし、負の感情を与えるのは好きじゃないというか。でも、自分が許せないもの=自分が信じたいものだったりするんで、その感情を歌にしないのはもったいないな、って」

――ただ、怒りだけではないですよね、この曲。

「歌いたいことって憎しみだけじゃなく、その憎しみや怒りが何からきたのか?って最終的に考え、レコーディングするときに《信じるただ一つを 僕らは守り抜いて》っていうところを最後に加えました」

――しかしながら、《他人の光を餌にして飯を食うバカに用などない》って強烈なパンチラインだなと思いましたよ。

「この歌詞を書いたとき、鉄風東京のLINEグループに送ったんですけど、マネージャーふたりが不安がっちゃって(笑)。ふたりに向けた曲ではないです、って説明しましたけど」

――ドキッとはしますよ、どうしても。

「小説しかり、映画しかり、ただ消費されるだけのものになった瞬間、切ないなと思うので。もちろん、それはそれですごいし、経済にも貢献するから正しいんですけど、僕らがやるべきことは違うよね、って」

――“FLYING SON”は鉄風東京のホームグラウンドであるライブハウス、仙台FLYING SONのことを歌ってますね。

「精神性は完全にFLYING SONで培ってきたものだし、自分たちにとっていちばんと言っても過言じゃないぐらい大事なんです。僕の夢がFLYING SONを聖地にしたいっていうこともあるし、自分がどういうところで育ったのか、という曲が必要だと思ったんです」

全部言っちゃいたいんです。含みを持たせるよりは、全部を鮮明に書いちゃうようなタイプですね

――バンドの規模が大きくなればなるほど、ライブハウスから巣立つことにも繋がるじゃないですか。そこはどう考えていますか?

「この先、どれだけ売れても絶対にFLYING SONではライブをしたいんです。ただ、店長とかにはずっと『こんな小箱から早くいなくなってくれ。おまえらがデカくなって、大きい箱を埋めてるほうが正解だし、オレは嬉しいよ』って言われるんですけど……でも、僕がFLYING SONって箱にいないと心が保てないし、軸なんで。だから、ここにいるからな、っていう宣言というか脅しというか(笑)」

――“東京”は面白い切り口というか。シンプルに受け取れば頑張る君への応援歌なんでしょうけど。

「恋愛の歌って勘違いされがちで、そう受け取ってもらってもいいんですけど、上京したバンドの友達への曲なんです。その友達が上京してからあんまりバンドをやってないことが悲しくて、自分はここでこうしてます、っていう一方的な手紙みたくなってて。もちろん、相手のことを全部認めたうえで頑張れよっていう歌ではあるんですけど」

――ただ、応援するほうはするほうで部屋でひとり膝を抱えてるようでもありますよね。

「そうですね。まあ、生活とか人間関係に関しては、僕はうまくいってないことがデフォルトだと思ってて。なんだかんだ絶対にひとつはいざこざがあるし。でも、そういうことにも目を向けて音楽をやっていたら、それがちゃんと身にもなってくるんですよ」

――シンプルにメッセージだけを押し出すだけじゃなく、そこにある手前の部分もちゃんと書くのが鉄風東京っぽいと思います。

「全部言っちゃいたいんです。含みを持たせるよりは、全部を鮮明に書いちゃうようなタイプですね」

――そして、リリース後には2マンツアーもスタートしますね。

「今回の2マンツアーは、自分が中学、高校のときから聴いてるバンドを呼んでるんです。自分が目指してるものだったり、DNAをもらったバンドと戦うわけなんで、200%、300%かっこいいライブをやらないと完全にやられるだろうし。プラス、そういった対バンを好きで『鉄風東京、どんなもんだ?』と思って観に来た人たちから厳しい目を向けてもらって、それに打ち勝ちたいんです。影響を受けたバンドと対バンして、そのお客さんたちが『鉄風東京いいね』って一瞬でも思わなかったら、DNAをもらったバンドに失礼なことをしてると思うから。影響を受けたバンドに『あなたたちのおかげで僕はかっこいいバンドをやれてます』って風に言えないとおかしいし、現時点ではそれを言えると思ってるんで、真っ向勝負で挑みたいですね」

“TEARS”MV


1stミニアルバム『From』

発売中
NBDL-0109 / No Big Deal Records
価格:¥1,500(税込み)

1.SECRET / 2.TEARS / 3.HOW IS LIFE / 4.いらない / 5.東京 / 6.FLYING SON

●ツアー情報

鉄風東京 presents 「From 2MAN TOUR 2023」

9月17日(日)仙台JUNK BOX w/kobore
9月28日(木)札幌SPICE w/THE BOYS&GIRLS
10月6日(金)福岡OP's w/さよならポエジー
10月10日(火)高松TOONICE w/paionia
10月18日(水)名古屋QUATTRO w/忘れらんねえよ
10月20日(金)大阪QUATTRO w/KOTORI
10月27日(金)渋谷QUATTRO w/KALMA


提供:No Big Deal Records
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部