【インタビュー】ジーニアスなギターとあたたかな歌声で拓く新たなポップの可能性──若きマエストロ、森 大翔が新作『Let It Grow』に刻みつけた「成長」を語る

【インタビュー】ジーニアスなギターとあたたかな歌声で拓く新たなポップの可能性──若きマエストロ、森 大翔が新作『Let It Grow』に刻みつけた「成長」を語る
このブライトなポップネス、変幻自在のギターサウンド。森 大翔の新作アルバム『Let It Grow』は多くの音楽ファンに鮮烈にアプローチするものとなるだろう。
森 大翔は技巧的なギターセンスを持ちながら、その才に溺れることなく「ポップ」のフィールドで音楽を発信し続ける稀有なアーティストだ。小学生の頃からエレキギターに触れ、ヘヴィメタルやハードロック、ギターインストを弾きまくっていたという大翔少年は、その卓越したギターテクニックをいつしか自身の「歌」を表現するための武器とし、ビビッドでスケールの大きなポップソングを歌うシンガーソングライターへと進化していった。

2023年にリリースされた1stアルバム『69 Jewel Beetle』は森 大翔の10代ラストを飾る作品であったが、今回リリースされた2ndアルバム『Let It Grow』は21歳となった彼の「成長」がリアルに刻み込まれ、さらなる飛躍を期待させる一枚である。既発の“アイライ”や“夏の落とし物”ではソングライターとして、メロディメイカーとして、J-POPのど真ん中にも刺さる楽曲を発信するアーティストであることを強く印象づけたが、ほかのアルバム曲でも作詞作曲はもちろんのこと、すべてのサウンドアレンジと楽器演奏をほぼひとりで行い、とことんまで音と言葉に向き合っている。
その結果、ギターはさらに遊び心に溢れ、そこで表現される「歌」はポジティブな強い光を放つものとなった。この「成長」は一体どこからもたらされたのだろうか──この新作アルバムについて、本人にじっくり話を聞いた。

インタビュー=杉浦美恵


弱い自分とか脆い自分がたくさんいるんですけど、そんな自分も音楽でなら蹴散らせるし、強くなれるという実感がすごくあって。音楽でならなんでも言える

──2ndアルバムはどういうアルバムにしたいと思っていましたか?

前作の『69 Jewel Beetle』から現在まで、1年半ぐらいの間の気持ちの変化も含めて、もっとちゃんと自分の言葉、メッセージを届けたいという思いや、森 大翔として音楽とともに何を世の中に見せていくべきなのかをずっと考えていたんです。その結果として今回のアルバムの歌詞は非常にポジティブになったし、それをみなさんに感じてほしいと思っていました。

──一聴するなり、とてもポジティブで大きなスケール感で響いてくる作品になったと感じました。

去年の5月に1stアルバムを出して、初めてワンマンライブをやって、そこで「自分の音楽を聴いてくれる人がいる」ということを目の当たりにして、すごい歓声を受け取ったり、そのあたたかさに触れたという経験が大きかったかもしれないです。アルバム制作のときもそのライブの空気を思い出すことが何度もありました。

──1曲目の“I thank myself (for all of me)”からして歌詞もサウンドも強く胸に響きます。ギターがいきなりトップギアで鳴る感じもあって、それがラストの《“混沌”と言う言葉で括られた時代の/憂鬱はその“愛”で息の根をとめてやろう》という歌詞にまで繋がって。素晴らしい曲です。

これは僕にとって宣言のような、決意表明のような曲です。生きていく中で弱い自分とか脆い自分がたくさんいるんですけど、そんな自分も音楽でなら蹴散らせるし、強くなれるという実感がすごくあって。音楽でならなんでも言える。そういうことを歌詞にしました。「自分にありがとうって言おう」っていうのは、日頃はなかなかできないことですけどね。なので、そんな気持ちを込めて1曲目から自分の親しんできた歪んだギターを響かせたくて、ど頭はギターで始まってます。


──ここでいう「愛」とは大翔さんがギターと歌とで届けるもの、ということですよね。

そうですね。僕自身がライブで受け取った愛ですごく救われた経験があったので、それを今度は自分が言葉で、曲で表明したいと思ったんです。これから聴いてくれる人の中にも自分みたいに弱い部分を抱えた人がいるかもしれないし、「それを一緒に蹴散らしていこう」みたいな。コーラスも意識して入れているんですけど、それは自分以外の人ともっと繋がりたいという気持ちが強くなったからでもあって。このほかにも今作では一緒に歌えるメロディを意識して作った曲があって、“きっと上手くいくよ”の落ちサビなんかもそうですね。あとから人に言われて気づいたんですけど、今作は全体的にサビがめっちゃポップになっているんですよね。

──“I thank myself(for all of me)”で大翔さんと会場とが一緒に歌っている光景が目に浮かびます。

たとえお客さんが5人でも、もちろん5000人でも、その場にいるみんなで繋がれる未来が見えた曲でした。

──それにしても《“全て上手くいくよ”》って、究極にポジティブな言葉ですよね。

自分自身に言い聞かせたかったんです。たとえば過酷な日々が続いたときに音楽自体が背中を押してくれる場面っていっぱいあるじゃないですか。インストの曲を聴いていたときも音楽に言葉をかけられてるような気持ちになることがあるし、僕がライブを観たり音楽を聴いたりしたときに励まされたと思う感情を、自分なりに言葉にしたという感じでした。

“Crybaby Fly!”は、今しか歌えない歌かもしれない。自分が故郷の羅臼を飛び出して札幌に行ったときの気持ち、そしてそのあとに上京したときの思いが込められている

【インタビュー】ジーニアスなギターとあたたかな歌声で拓く新たなポップの可能性──若きマエストロ、森 大翔が新作『Let It Grow』に刻みつけた「成長」を語る - Photo by Azusa TakadaPhoto by Azusa Takada
──今回のアルバムでは、本来ならネガティブな感情になるシチュエーションを歌った曲でも、どこか救われるというか、前を向けるようなポジティブさを感じます。“悲しみの空の果て”では、もう二度と会えない別離のシチュエーションを描きながら、《さよならは繋がっていた証だよ》と、不思議なあたたかみを感じさせてくれるのが印象的です。

これは、もし明日、自分の命が終わるとしたら何を伝えるかなという気持ちで書いた曲です。小さい頃から自分がいなくなったあとの世界を想像することがよくあって。自分以外の人との繋がり、大切な人との繋がりがあるからこそ、自分がいなくなるときにはきっと感謝の気持ちが湧き上がるんだと思うんですけど、日々の生活の中ではつい忘れがちな感情でもあって。だから1日1日を噛み締めて生きていきたいという気持ちになって書いた曲だし、もしこのアルバムの中で「自分の遺作となる曲」を選ぶとしたら、この曲ですね。

──悲しみや痛みというところで言えば、“VSプライドモンスター”のダークな歌詞にも多くの人が共感するんじゃないかと思います。

これは僕の体験の曲ではなく、知り合いの話を聞いて、その体験談を歌詞にしていったものです。それを自分の言葉で書き換えながら。自分自身もそういう経験が少なからずあったりするんですけど、そういう嫌な人に出会ったときにも、そこから何か学べることがあるはずだよなって思って。そう思えばきっと、その人とも向き合えるよねっていう曲です。

──ちょっとダークなメロディの中で遊び心のある歌詞に落とし込んでいるのがいいですよね。そこから“Crybaby Fly!”に続く流れの解放感というか、この並びがとても爽快で。

“Crybaby Fly!”は上京ソングっていうか、昔の自分を書いた曲ですね。「泣き虫、飛べ!」みたいな。自分の生まれ育った町や大切な人と離れなきゃいけないとき、何かを手放して進まなきゃいけないとき──そういう経験をする方もいると思うんですけど、そういう人たちの背中も押したかったんです。もしかしたら“Crybaby Fly!”は、今しか歌えない歌かもしれないですね。自分が故郷の羅臼を飛び出して札幌に行ったときの気持ち、そしてそのあとに上京したときの思いがまだリアルに残っているからこそ、歌える歌なのかなと。

──これはビートの打ち込みも全部、大翔さんが手がけてるんですよね?

はい。今まで自分の中に蓄積してきたものをアウトプットするイメージで、とても楽しかったです。お気に入りのギターソロブレイクもあって、コード進行はフュージョンな感じなんですけど、ベースも自分で弾いて、リズムが絡み合っていく感じで、音楽的な面白さも出せた曲でした。

──“Chaotic世界”もサウンドに引き込まれる曲で、華やかで力強いストリングスが牽引する楽曲ですが、これもまた、ネガティブな感情を描きながらも、その感情を糧に前に進んでいくというイメージが強いです。

そうですね。これも東京に出てこなかったら書けなかった曲だと思います。人と向き合うとどうしても嫌なところも見えてくるものだし、自分も誰かに嫌な思いをさせてしまうことがあるんじゃないかと思うし。その関係性の中で、ぶつかるときも絶対あると思うんですよ。相手に牙を剥いたり、攻撃したりはしないまでも、自分を守ることばかりを考えてしまうことがあって。自分だけじゃなく、SNSだったり、まわりの動きを見ているとそういう人はたくさんいるし、そういうとき、一体何が大切なんだろうと思って。その問いがテーマになっている曲です。そこで自分から出た答えは「問い続ける」ということでした。

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