【インタビュー】真っ向勝負の美メロもロック極限炸裂も、すべてが鮮烈に咲き乱れる──the shes goneの最新名盤『AGAIN』はなぜ生まれたのか?

【インタビュー】真っ向勝負の美メロもロック極限炸裂も、すべてが鮮烈に咲き乱れる──the shes goneの最新名盤『AGAIN』はなぜ生まれたのか?
YouTubeで公開されているMVが再生回数2000万回を突破した“想いあい”をはじめ、“ラベンダー”や“陽だまりや“など恋愛をテーマにした楽曲がフォーカスされることの多かったthe shes gone。だが、前作『HEART』以来約2年ぶりとなる新作ミニアルバム『AGAIN』を聴けば、彼らがメロディメーカーとして、サウンドクリエイターとして、ロックバンドとして、全方位的な進化を遂げてきたことがリアルに伝わるはずだ。

“センチメンタル・ミー”やドラマタイアップ曲“きらめくきもち”のようなポップナンバーはもちろんのこと、名匠・島田昌典をプロデューサーに迎えて極上のメロディとアンサンブルを咲き誇らせた“ひらひら”、ラフな構成と伸びやかな音像越しにロックバンドの素顔を覗かせる“LONG WEEKEND”、アルバムの最後をダイナミックな躍動感で飾る“何者”……といった多彩な8曲から浮かび上がるのは、さらに密接に「君」と響き合うために己を見つめ研ぎ澄ませる3人の姿だ。

シズゴの決定的進化作『AGAIN』について、メンバー全員にじっくり語ってもらった。

インタビュー=高橋智樹 撮影=小財美香子


「イントロとかギターソロが聴かれない」っていう時代をまったく気にせず、自分らのやりたいアレンジを盛り盛りにできた(マサキ)

──前作『HEART』から約2年ぶりのミニアルバムですけども、本当に楽曲の芯が太い作品だなあと思って。島田昌典さんをプロデューサーに迎えて作った“ひらひら”あり、SUNNYさんとの“きらめくきもち”あり、1曲1曲を大事に作ってきたんだろうなと感じました。

兼丸(Vo・G) 確かに今言っていただいたように、今までのアルバムと比べると1曲1曲の太さはある気がしていて。アルバムを通して聴いてもらった時に「こいつら、何も止まる気がないんだ」と(笑)。「目ぇ死んでないじゃん!」ってわかってもらえるだろうと、僕ら自身も思いました。今僕らができることは「新しいね」とかではなくて、どのリスナーが聴いても純粋に「いいね」って思うものをどれだけ純度を高めるかっていうことだし、それが僕らに合ったやり方なんじゃないかと思います。このメンバーで長くやっていると表現の仕方もできることが増えてくるんですけど、幸せも、喜びも、悲しみも、痛い部分も、衝動的に書いた曲もあるので、もう一度アイデンティティを見つめ直した中で、僕たち自身を奮い立たせることにもなったし、お客さんの過去も含めて包んでくれるような──今までより器の大きいアルバムになっているのかなって思います。

マサキ(G) 兼丸がさっき言った衝動的な曲もありつつ、音に関してもミックスエンジニアさんが変わったりしたのもあって最近の納得いく音になりました。「イントロとかギターソロが聴かれない」っていう時代ですけど、そういうのをまったく気にせずにアレンジは自分らのやりたいことを盛り盛りに入れた曲もあり、自分たちの好きなようにできたと思います。制作時は目の前のことにいっぱいいっぱいになりつつもすごく前向きに全曲作れたので、充実して制作に取り掛かれましたね。

──“タイムトラベラーと恋人”とか、構成も面白いですよね。

マサキ そうですね。サビまでが──。

兼丸 長い長い(笑)。

マサキ イントロもしっかりあって、AメロBメロ、またAメロ、それでやっとサビが来るっていう。

──サビまで2分半くらいありますよね。

マサキ 間奏もしっかりあるので、そこでのギターアレンジだったり、電子音もみんなで聴き比べしたりして楽しんで作ってました。ライブでやるのも楽しいですし、みんなのテンションとグルーヴがグッと高まった曲ですね。


熊谷亮也(Dr) 「新しいことにも挑戦しつつ、でも芯はブレずにいこう」っていう「らしさ」全開の曲もあって。それこそ“エイド”のドラムはシンプル、パワフル、ヘドバンみたいな(笑)。そういうドラムも今まではなかったので、わりと新しいですね。“LONG WEEKEND”に関しては「ドラムのイメージはどんな感じ?」って兼丸に訊いたら、「海外のガレージで、金髪のロン毛の兄ちゃんが叩いてる感じ」みたいに言われて──。

兼丸 そうそうそう(笑)。

熊谷 今まで「こういうフレーズがいい」っていわれることはあったんですけど、叩いてる人間の風景を言われたのは初めてだったので、そういうところも新しいなあと思いました。“センチメンタル・ミー”とか“アゲイン”とか──それこそ昔他の曲でも使ったようなフレーズを再度出すのは、引き出しがないと思われそうみたいなのがあって個人的に気が引けるようなところがあったんですけど……ただその頃には“アゲイン”っていうタイトルにしようと思ってる、みたいな話はうっすらと聞いていたので、今までやった要素をもう一回やり直すっていうよりは、ちゃんと自分たちの中で咀嚼して「これがいちばん合うんじゃないか」っていう形で取り入れることができました。同じことをやるのではなく、ブラッシュアップしたことで「らしさ」をしっかり出せたのかなと思いますね。

──そうそう。ブラッシュアップしていれば得意技をあえて封印する必要もないですからね。味噌ラーメンが美味しいって評判の店に行って「味噌ラーメンください」って注文して「いや、これ前にも出したことあるんでちょっと……」って言われたら、意味わかんないですからね。

3人 (笑)。

──でも、「味噌ラーメンですけど、前にお出ししたのよりも格段に美味くなってますんで」っていうことであれば、お客さんも嬉しいっていう。

兼丸 確かに! 新鮮な視点(笑)。その日の湿度に合わせてとか、麺の水分量を変えましたとか──それを言いたかったんですよね。

熊谷 え、ほんと?(笑)

兼丸 いただきました(笑)。でも“アゲイン”を2曲目にした意味にも繋がりますけど、この曲が今回のアルバムのポップさとバンド感の間のバランスを担ってると思いますね。


【インタビュー】真っ向勝負の美メロもロック極限炸裂も、すべてが鮮烈に咲き乱れる──the shes goneの最新名盤『AGAIN』はなぜ生まれたのか?

“エイド”のラフミックスがよすぎて乾杯して、それをストーリーに上げるっていう(笑)。自分たちに感動するってまだあるんだ!って(熊谷)

──“LONG WEEKEND”はラフで軽快な曲ですけど、この作品のバンド感を担保してる大事な曲でもあり、ロックバンドならではのシンプルなナンバーという感じですよね。

兼丸 そうですね、そこは意識しましたね。たぶん前のアルバムもそうなんですけど、基本的になるべくステージにいる人間だけの音で構築したいっていうのは核としてあります。洋楽みたいなアプローチをする場合でも、キーボードとかをいれるよりもまずは「(サポートも含め)自分たち4人の音でやりたいアプローチ」を前提としつつ、いろいろガシャガシャしてます(笑)。ライブでやってるのも想像できそうな音で作れたんじゃないかと思いますね。


──これはAメロ・Bメロだけというか、構成もシンプルですからね。

兼丸 そこも洋楽の面白さですよね。Dメロとかいう概念がないので(笑)。

熊谷 個人的には“LONG WEEKEND”がいちばん目を瞑って聴いてると、演奏してる4人の姿が浮かんでくるなっていう気はしますね。

──そういうシズゴの「今」のロックバンド感が、壮大なストリングスが流れる“ひらひら”もあったうえで絶妙なバランスで表現できている作品で。この“ひらひら”はもう、真っ向勝負の名曲を作りにいった曲ですよね。

兼丸 ああ、でも真っ向勝負ですね。“ひらひら”は、自分で作っといてなんですけど、すっごく曲が長いんです。6分超えてるんで歌うのもめちゃめちゃ肺活量が要るし、低いキーから高いキーまである曲なので、「歌と曲で純粋に勝負したい」っていうバラードになりました。アレンジの時にも「イントロは2段階でください!」とか「ギターソロも入れたいので、間奏も欲しいし、アウトロも欲しいです!」って言いましたし(笑)。過去のバラードも長いですけど、そこが僕ららしさというか──僕が譲らないので(笑)。僕らにしかできないことでもあると思いますね。


──「ロックバンドの名曲」とか「シズゴの名曲」だけじゃなくて、ザ・名曲を作りにいった曲ですよね。どこに出しても誇れる曲。

兼丸 恥ずかしくはないですね。今まで僕は、曲に対してもライブに対しても「自信がない」ということを言ってきたんです。評価してくださるのはリスナーなので、「自信がない」というか「自信があります」って僕らがいくら声を上げてもそこはまた別なんじゃないか、っていう思いもあって。声に出さなくても、自信があるからこそ世に出してるっていうのが大前提じゃないのか?みたいな部分もあったんですけど。本当に恥ずかしくないですね、この曲たちは。“ひらひら”ももちろんそうですし、そういう気持ちは過去最高にあると思っています。

熊谷 だって、いいもん。「いいっすもん!」みたいな(笑)。

兼丸 何の曲で乾杯したって言ってたんだっけ?

熊谷 えっとね、“エイド”。レコーディングが2日間あって、1日目にボーカル以外を全部録ったんです。今までそんなことはやったことなかったんですけど、録ったやつをとりあえず混ぜていただいた段階のラフミックスがよすぎちゃって。スタジオの下にコンビニがあったんで、レコーディング終わって「おつかれっしたー」ってそのまま酒を買って乾杯して、その乾杯のシーンをストーリーに上げるっていう。今改めて言うとまあまあ恥ずかしい(笑)。

マサキ 青春だよね(笑)。

熊谷 タイミング的には、初めてアルバムを作る時とかにやるんだろうけどね(笑)。でも、リハーサルとかゲネプロとか、曲のレコーディングの練習でやった時にはそういうことは起きないんですよ。同じ曲でも録った時に自分たちで納得したり、感動したり、興奮したり……そういう喜びとか発見ってまだあるんだ!って。セルフプロデュースの曲も含め、そういう発見はすごくありましたね。


次のページ“何者”は手を差し伸べる曲じゃなくて、ただただ僕が吐き出させてもらってる。それがthe shes goneの核なんじゃないかって(兼丸)
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