流線型の美しいメロディ、景色を振り切るように疾走するアンサンブル、高く舞い上がっていく歌声――。2023年年末に届いた[Alexandros]の新曲“todayyyyy”は、ファンなら誰もが垂涎のエッセンスが見事にアップデートされている極めて高品質な楽曲である。気持ちよく伸びていく洋平の歌声を聴けば、 [Alexandros]のモードが今、最高に研ぎ澄まされていることがよくわかるだろう。クレバーに、エモーショナルに戦う[Alexandros]一流の、磨き抜かれた最新形の提案になっている。
洋平本人は、「作詞家」と呼ぶたびに微妙なリアクションをするが、僕は作詞家としての川上洋平の才能をとても信頼している。抒情的であることを照れず、メロディに呼ばれたロマンティックな言葉を、強い一人称とともに刻み込んでいく。「つまらない日常を塗り替えていく」ことがロックバンドとしての使命のひとつであるとするなら、この曲のサビでまっすぐに宣言される《ありふれた日々を塗り替えていく》という言葉は、またひとつ確信のステージを上がった作詞家・川上洋平の偽らざる本気なのだと思う。事実、2024年、[Alexandros]は自身主催の、大型野外フェスを、ゆかりの地、相模原にて行う。楽曲制作も順調とのことで、大きな手応えの込もった作品を、来年もきっと届けてくれるはずだ。
また、2024年1月30日発売のJAPANには、このインタビューの完全版を掲載。年の瀬に、この1年の気づきと新たな経験を思い切り語ってもらったロングインタビューになっているので、そちらもぜひ読んでほしい。
インタビュー=小栁大輔 撮影=Yusuke Miyazaki (SEPT)
ここから始まりの一手っていう感じ。徹底的に自分たちでやっていこうって、いろんな曲を聴いて、研究して。自分たちの中では力作ができたと思います
――どんな1年だった? 2023年は。「自分の中では、ずーっと雲隠れしていたような。ライブはガンガンやっていたんですけど、作品はほとんど出してないんですよね。1曲、WurtSくんとの曲(“VANILLA SKY (feat. WurtS)”)を出したぐらいで。ずっと曲を作ってました。あとは、いろんなバンドのライブを観に行ったり、曲を聴き漁ったり。そういう、吸収の年だったかな。だから、僕の中では虎視眈々とした1年だったかもしれないです」
――ロックの現場にはいたけれど、いわゆる、オーバーグラウンドな活動という意味では雲隠れしていたかもね。
「というのも、今までのアルバムとか、わりとタイアップ曲も多くて。ありがたい話なんですけど、でもアーティストとして、あらためて芯の部分を確立しないとなあって思って。昔はその部分もあったんだけど、だんだん薄れてきたところもあって……。それをもう1回取り戻そうとした1年でした。ユニバーサルさんにも、1回タイアップお休みしようかって言って。もちろん、タイアップが嫌いなわけじゃないんですけど、自分の曲があってから、そういう話が決まったほうがいいと思っていて。もっともっと自分たちを出したい。そっちのほうが、最終的にはお互いにハッピーになるのかなって。“ワタリドリ”も、最初のタイアップ先が、作ったあと(に決まったパターン)だったんです。書き下ろしじゃないんですよ。そういうふうに、書き下ろしじゃないほうが俺たちはうまくいくのかな、みたいな」
――ああ、なるほど。確かにね。
「なんとなく、自分たちと、自分たちのファンは、そっちのほうがいいのかなって思ってきて。あとは単純に、何も考えずに自分から出てきたものを出したい時期だったのかな」
――実際、この1年でどれぐらい曲を作ったの?
「そんな多くない……20曲ぐらいですかね」
――すごいね。
「ちゃんとした曲になっているのは10曲ぐらいかな。まあ、断片的なものを入れれば、もっとあるんですけど。これ使えそうだなっていうのは10曲ぐらいですね。残りの10曲が、どれだけ形になるかどうかっていうのはありますけど。今、自分の中で吟味しているところです」
――今回の新曲“todayyyyy”も、その中の曲?
「ああ、そうです」
――この曲は、今の洋平の話を聞いてあらためて思うけれども、じっくり腰を据えて作った曲だよね。だけども、力は抜けていて。この曲を2023年の締め括りに出すっていうのは、今の[Alexandros]のモードを象徴しているんだろうなっていう感じがするんだけど、どうかな?
「どちらかというと、ここから始まりの一手っていう感じなんですよ。2023年末に出すんですけど、むしろ2024年にリリースするような気持ちで。なるほど、こういうことになっているのかっていうものを垣間見せられるのかなと。これが出たあとに、違うこともやっていく予定なので、まず一手目としてはいいのかなって思っていますね。2023年に僕が詰め込みたいと思ったものを詰め込んだので。あとはエンジニアさんと、レコーディングからミックスまで一緒にやったので、音に一貫性があると思います。今回、プロデューサーは立てなかったので。サウンドも自分たちにはない部分だったから、プロデューサーを立てたほうがいいのかなとも考えたんですけど、徹底的に自分たちでやっていこうって、いろんな曲を聴いて。研究して作った曲ですね。自分たちの中では力作ができたと思います」
うわあ、なんかすげえストレートだけど出ちゃう出ちゃうみたいな。そういうときって、僕の中でいいものができている瞬間だったりする
――メロディが非常に立った曲だよね。複雑ではないけれども、流線型で美しい。「メロディは、サビの部分はわりとストレートに出てきたんですけど。2番が最初にできて――2番はAメロ、Bメロ、サビなんですけど、それを崩したのが1番なんです。構成がそもそも違う。あえて作ってみたら、メンバーの反応がよかったから、ああそっかって思って、壊す作業をして……そこは僕の中で大きかったかもですね。面白いものをどんどんやっていこうって、枠から外れていったところがあります。1番でどのメロディをのせようかっていうのも、そこから生まれてきているのかもしれない。メロディに関しては、自然にしか作れないので。作ったときは、ROSE(サポートKey)とリアド(偉武/Dr)、MULLON(サポートG)もいたかな? 4人でいたときに思い浮かんで。それも自然に『あ、今なんか出てきた!』ってなって、『叩いて叩いて』『弾いて弾いて』って感じで作りました」
――ああ、そうなんだね。もしかしたら最初に洋平がアコギでコード感とメロディを作っていったのかなと思ったぐらい、メロディに一筆書き感があるんだよね。
「一筆書き感、あると思います。その場でできたから。その場でできるものを大事にしてますね。あとで作ると、あとで作った感が出ちゃうから。歌詞もそうだけど。浮かんだときのセンサーって、そのときめちゃめちゃ働いているはずだから。それが、『ここはこれがいい』ってわかる瞬間。だから、浮かんだらその場で完結させようとはしてます」
――メロディが、進みたい方向に素直に進んでいる曲だよね。それってさ、ちょっと恥ずかしくなったりするじゃない。こんなストレートに出てきて、大丈夫? 何かと似てんじゃないか?とか思ったりさ。
「なんで作曲していないのにわかるんですか?(笑)。ほんとそうです。でも、その恥ずかしさを感じないぐらい、今はこれを出そうっていう気持ちになる瞬間もあって。うわあ、なんかすげえストレートだけど出ちゃう出ちゃうみたいな。そういうときって、僕の中でいいものができている瞬間だったりします。だから、考えて作れない人間でもあって。考えて作る曲もあるんだけど、そのあとって反動でポンってできる曲がある。その繰り返しだから。もちろん考えることをやめることはしないほうがいいんですけど」
――こういうメロディの曲を聴くと、このメロディってまだ世界に残っていたんだって思うんだよね。
「(笑)」
――要するに、複雑なコード進行で、構築して作った曲なら、あえて誰も通っていない道を行こうとしているわけだから、新しいものが生まれるのはわかるんだけども。でも、複雑なことをやらずに、素直なメロディなのにいい曲だとなると、このメロディって世界にまだ残ってたんだ?って思うんだよね。まさに“todayyyyy”はそういう曲なんだよね。
「そういう曲って、今の時代のほうが、もしかしたら出しやすいのかなって思う。まあ、あんまり周りのことを考えすぎないようにはしているんですけど。やっぱり、どう考えても他の人にはなれないから、いい意味でも悪い意味でも。どれだけ影響を受けてもいいと思うし。もっと素直に出してもいいのかなと思うんですよね。どう頑張っても川上洋平でしかないから。そこらへんは、深く考えすぎないようにはしましたけどね」