通算7作目のフィジカル作品であり、全7曲を収録しため組の最新ミニアルバム、その名も『七変化』。トータル再生時間は21分ほどとコンパクトに思えるが、楽曲のバラエティ性とエモーションの質量は素晴らしく、がっつりどっしりとした聴き応えを誇る作品だ。菅原達也(Vo・G)は、ここにきてまったく新しい作曲法に取り組んでおり、本作収録曲においてはそのチャレンジがさまざまな形で花開いている。そのあたりについてもじっくりと話を訊いた。リスナーとの絆を太く強く育てながら新しいフェーズへと向かうめ組は、2024年も多くのリスナーを、その唯一無二の熱狂に巻き込んでゆくだろう。なお、発売中の「ROCKIN’ ON JAPAN」3月号では、このインタビューの完全版を掲載。『七変化』についてのより詳細な制作経緯や、ファンに向けた思いが語られているので、そちらもぜひチェックしてほしい。
インタビュー=小池宏和 撮影=是永日和
バンドなんだから、組織として愛をもって取り組むマインドが必要だったよなっていう根本的な反省をしていたんです
──2023年は、め組本体の活躍だけではなく、菅原さん個人もバンドメンバーも音楽アニメプロジェクト『ラプソディ』関連の仕事がありましたが、どんな1年でしたか。「個人的には、忙しく、かつ、学びのある1年でした。『ラプソディ』とめ組の活動とはリンクしないのかなって思っていたんですけど、舞台に立つ者のマインドにおいて学びが多くて。『ラプソディ』では、みんなが愛をもって作るんだぞ、というムードを感じて、そもそもめ組もバンドなんだから、組織としてそういうマインドが必要だったよなっていう、根本的な反省をずっとしていたんです(笑)」
──忙しくしている中で、気持ちの切り替えも大事じゃないですか。どういう意欲をもって、今回の『七変化』制作に向かったんですか。
「まず、“(I am)キッチンドリンカーズハイ”やデジタルシングル“咲きたい”という曲は、手癖で作ったようなところがありました。それよりも前の曲は、チームの中であれでもない、これでもないって模索しながら制作していたんですけど、もうわかんないから手癖でいいやって作ったのが、その2曲だったりするんですよ。それがわりと周囲からも好感触だったので、じゃあもう手癖で作ればいいんだなってことを思ったりもしたんですが、その時期にちょうど遊び感覚でボーカロイドを使い始めていて。ボカロで1曲作ってみようと思ったら、これがまあ面白かったんですよ。昔は頭の中で感覚的に作っていたものが、DTMソフトを通して可視化されて、新しいおもちゃを手に入れたようですごく楽しくて。その新しい要素と、自分の手癖の要素を組み合わせたら、きっと面白いだろうなと思って、その後の曲は全部ボカロを使って制作しました。DTMで作業すること自体が初めてだったし、昔はどうしてもボカロの抑揚のない響きが苦手だったんですけど、最近のAIボカロとかは本当にすごくて。自分の曲を俯瞰できるようになったので、それは助かりましたね」
──昔の菅原さんは、歌詞とメロディが同時に生まれる独特の作曲スタイルを持ち味にしていたけど、それを思うとずいぶん大きな変化ですよね。
「今はちょっと変わってきましたね。時と場合によるんですけど、ボカロをカタカタといじって何も出てこなければギターを手に取ってメロディや言葉を探すこともあって。そこは相変わらずなんですが、最初によっしゃ、やるぞと作曲に向かう姿勢のときは、ギターよりも先にボカロに触るようになっていますね。そういう意味では、先に音楽的な部分に取り掛かることのほうが多いです。バンドアレンジに関しても、楽しい、楽しいってほとんど宅録に近いような形で自分が基本的な部分をやっちゃって、あとからメンバーが装飾してくれたり、アレンジャーの花井諒さんが音楽理論的な部分でサポートしてくれたものが、今回のミニアルバムなんですよ」
め組は、元から一枚岩だったバンドではないからこそ、一枚岩を目指すドライブ感はみんな一緒なんです
──“YOLO”や『LOVE』の時期は、菅原さんがSpotifyの海を漂っていたという話をしていて。コンテンポラリーなR&BやEDM、シティ・ポップ・リバイバルなど海外の最先端ポップミュージックを参照する作風になっていたと思うんだけど、そのあたりの姿勢も変わったのかな。「やっぱり今回はボカロや、その近いところにあるアニソンに、大きく影響を受けました。だからSpotifyの海よりも、YouTubeを観ていることのほうが多かったです。そのほうが、自分も美味しく聴けるんですよね。海外の音楽だと、一回食べ方を教わって、ちょっとずつ食べて、そろそろ美味しいかもなっていうステップを踏むんですけど、ボカロやアニソンは聴いてすぐ、タイムラグなしに美味い!ってわかるんです」
──うん。ボカロって、海外シーンに見当たらない日本ならではの独特の音楽の面白さが詰まっていると思うし、もしかしたら今の日本の最前線ポップスというのは、ボカロ的なものに集約されるのかもしれないし。
「確かに確かに。それこそ妖怪の鵺(ぬえ)だし、ワンセグも観られるガラケーなんですよ。ガラパゴス文化なんです。そういうことを、今回は音楽を通してやりたかったんですよ」
──なるほど。ボカロを使って作曲したことは話を聞くまでわからなかったんだけど、新作では菅原さんがもともともっていた持ち味の、ビートロック的な、ロックンロール的な熱狂にリーチしやすい曲が多いな、と思っていて。やっぱりそれは、め組というバンドに合っていると思うんですよね。前のめりなんだけどガチっと一枚岩になっている感じが。“咲きたい”も“お茶の子再々!”もそうだし。原点回帰じゃないけど、海外のヒットチャートにあるようなポップミュージックも参照して、ボカロやアニソンも参照して、螺旋階段を昇るように、またひとつ高みに到達したんじゃないかな。
「本当に、仰る通りだと思います。“お茶の子再々!”は、今なら許されるだろうと思って、わざとアニソン的な仕上がりにしました。め組は、元から一枚岩だったバンドではないので、基本的に全員が不安を抱えているんですよ。だからこそ、一枚岩を目指すドライブ感はみんな一緒なんです。ライブをやっている最中にもそれをすごく感じるし、レコーディングでも、もうちょっとゆったり演ってもよくない?って思ったりするんだけど、そこは気持ちなんで(笑)。結果的にはいいなって思うし」
ランジャタイの国崎さんが書いた本を読んで、感動したんですね。思い出がぼやけていくことは分かっているけど、やり続けることに意味があるなって
──“咲きたい”は、歌詞にも強烈に菅原節を感じました。世の中の理不尽に対して毒づいてる部分もあるんだけど、菅原さんは自分の中のダメな部分や冴えない部分を見つめて、それを歌にし続けていますよね。「そうですねえ……なんか、姑息なんですよね。愚痴とか強気なことをサビで思いっきり歌えばいいのに、Aメロで歌ったりして。サビでは自分を見つめ直しているんですよね」
──そう、結論がそこなの。“ストレージ”もさ、自分らしさの呪いを見つめているでしょ。丸裸な菅原さんが出ていると思う。エモさで言ったら、今作でいちばんの曲かもしれない。
「呪い、ですねえ。仰る通りです。いちばん気に入っている曲です。こんなに弱っている僕なんだけどねってことを、示しやすいんですよね。でも、メロディとかの行間がないと出せないのかな。歌詞は濃ゆいですけど、メロディに委ねている部分がありますね。今回はボカロを使って作曲しているおかげもあって、ちょっと前の自分だったら、もっと歌詞を詰め込んだりしていたと思います」
──確かに、今回は言葉の総量がスッキリしているなと思っていて、それはボカロのおかげなんですね。“お茶の子再々!”は、個人的にいちばん好きな曲なんだけど、キャッチーに聴こえるわりに実はすごく入り組んだ曲調じゃないですか。転調とかも含めて。
「ありがとうございます。この曲はコード進行から作ったのかな。ここで転調したら面白いなってことを細かくやっていたら、全部が転調になっちゃって(笑)。だからメロディを迷子にしないように、っていう自分自身の約束のもと、緻密な作業をひたすらやってました。いちばん時間がかかった曲ですね。今のシーンって、BPMが高い曲ほど緻密に作られていることが多いなって思って。自分もそれをやらなきゃっていうか、まあ楽しみながら作ったんですけど」
──まさに、ボカロもそうだと思う。あと、これだけ入り組んだ曲を作ったうえで、みんなが楽しめる合言葉を入れているでしょ。これも菅原節のいいところですよね。
「そうですね、全部やってやりましたね、これは(笑)」
──次の“さたやみ”は、これも力強いロックチューンになっているんですけど、歌詞がすこぶるリリカルで抽象的なところがあるから、そのあたりを説明してもらえますか。
「はい。この曲の経緯としては、お笑いコンビ・ランジャタイの国崎和也さんが書いた本(エッセイ集『へんなの』)を頂いたんですよ。俺はランジャタイを存じ上げないまま、その本を読んで、感動したんですね」
──ランジャタイが“咲きたい”のMVに出演するよりも前の話ってことね。
「もっと前の話です。国崎さんが昔の、小学生時代の思い出とかを記した本を読んで、なるほどな、と思って。国崎さんは、忘れないように、さたやみにならないように記す努力をしていたんですよ。それでも思い出がぼやけていくことはわかっているんだけど、やり続けることに意味があるなって思って。そこにインスパイアされて、できた曲です」
──うんうん。いい曲だし、いいテーマですね。リリカルな中でも、個人的にはブリッジ部分が好きで。ブリッジが響く曲って、なんかいいじゃないですか。曲の総合力が高いというか。
「や、そうなんですよね。そこがお勧めポイントです(笑)。ブリッジがいい曲は信用できるんですよ。この曲は絶対いい曲だって。それですまさに。狙ってやったわけじゃないんですけど、客観的に聴くと、それができるようになったなって思います」
やっぱり僕は何も考えず楽しめる音楽が好き。歌詞なんか共感しなくてもいいし、勝手に行間を読んでくれてもいいし。童謡と同じような感じです
──今作は全体的に、メンバーのコーラスが豊かに織り込まれているんだけど、“さたやみ”では頭からうららさん(久佐賀麗/Key)のバッキングコーラスが入っていますね。「はい。実はこれも、ボカロの影響なんですよ。作曲段階でボカロと一緒に歌っていたら、いざ自分のボーカルだけになったときに、なんか寂しくなっちゃって。それです(笑)」
──そういうことか。でも、とてもいいと思う。さっきも話に出た“ストレージ”は、ストリングスやコ―ラスが効いたアレンジになっていますが、これについてはどうですか。『七変化』のバラエティ性が表れていると思います。
「ストリングスの基本的な部分は自分でやって、アレンジャーの花井さんにきれいに整えてもらいました。ちょっとオアシスっぽいことやりたいな、と思ったんです」
──で、ライブでは既に好評を博しているダンサブルな“(I am)キッチンドリンカーズハイ”ですが、あらためて、主婦目線の日々の憂鬱をしたためた歌詞が面白いなと思って。
「これの歌詞は、しっかり読むもんじゃないんですけどね(笑)。“お茶の子再々!”とか“ストレージ”もそうなんですけど、苦しい、苦しいっていう音楽も確かにいいんですが、やっぱり音楽って、楽しい部分がないと無理ですから。それが証明できればいいですね。顔をしかめてアルペジオを弾きながら、それでは聴いてくださいっていうのを姿勢正して聴くよりも、やっぱり僕は何も考えず楽しめる音楽が好きだなって思います。歌詞なんか共感しなくてもいいし、或いは、勝手に行間を読んでくれてもいいし。だから、童謡と同じような感じです」
ヘア&メイク=栗間夏美
このインタビューの完全版が掲載される『ROCKIN'ON JAPAN』3月号のご購入はこちら●リリース情報
め組 Mini Album 「七変化」
XNRJ-10034
価格(税込): ¥2,000-
【収録楽曲】
1.咲きたい
2.お茶の子再々!
3. さたやみ
4.ストレージ
5.(I am)キッチンドリンカーズハイ
6.GT50
7.It’s a 大愛万国博覧会
全7曲収録
●ツアー情報
「ME−GUMI LIVE TOUR 2024 -七変化-」
2024年2月23日(金祝) 愛知・名古屋 ハートランドOPEN/START:16:30/17:00
お問い合わせ:サンデーフォークプロモーション 052-320-9100
2024年3月2日(土) 大阪・ 梅田Zeela
OPEN/START:16:30/17:00
お問い合わせ:キョードーインフォメーション 0570-200-888
2024年3月9日(土) 東京・渋谷Star lounge
OPEN/START:16:30/17:00
お問い合わせ:HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999
チケット情報
前売 ¥3,500(税込・ドリンク代別)
チケット一般発売中