【インタビュー】極彩色ポップナンバー“アイライ”完成! 卓越したギターと歌の先に森 大翔が抱く「ハイパーミュージックマン」の理想像とは?

シンガーソングライター・森 大翔の新曲“アイライ”が実に素晴らしい。ポップソングのツボと作法を充分に押さえたうえで、さらにその先の高揚感を目指して弾み回る歌とメロディ。《今より気軽に今より身軽に/いつものあなたでいて欲しいよ》と聴く者すべての「今」を抱擁するポジティビティ。そして、伸びやかに、タイトでダンサブルなビートとともに鳴り渡る、ダイナミックかつ鮮烈なギターリフのフレージング──。昨年5月リリースの1stアルバム『69 Jewel Beetle』以降も、“ラララさよなら永遠に”(昨年11月)、“雪の銀河”(同12月)と配信シングルを立て続けに発表してきた森だが、“アイライ”では「丹念に磨き抜いた良質な楽曲を響かせる」ことはもちろん、「その楽曲を時代の表舞台で響かせること」「それによって自分自身も異次元の音楽の表現者へと成長していくこと」に照準を合わせている──ということを、この曲のハイパーで自然体な多幸感は雄弁に物語っている。

かつては16歳以下のエレキギター世界大会「Young Guitarist of the Year 2019」で優勝した経歴も持つくらい、聴く者すべてを虜にする卓越したギターテクニックを有する森 大翔。ロック的なギタースタイルの素養も滲ませつつ、彼の夢想しているのはむしろ、ロックだのポップだのという枠組みすら置き去りにした、ギターと歌と音楽で未知の魔法を生み出すエンターテイナーの在り方なのだろう。以下のインタビューからは、現在20歳の森 大翔の進化への希求がリアルに伝わってくることと思う。

インタビュー=高橋智樹


今の若い世代でいちばんいっぱいギターが弾けて歌も書けるぞ、っていうのを前面に押し出していかないといけないな、っていう気持ちが芽生え始めてきたんです

──今回の“アイライ”についての話を聞く前に、アルバム『69 Jewel Beetle』以降のことを振り返っておきたいんですけども。アルバムのリリース直後、昨年6月にShibuya eggmanで行われた初ワンマンライブは、森さんにとってどんな体験でした?

もう……忘れましたね(笑)。それくらい、その後の自分の中の変化が目まぐるしすぎて。あれから半年くらいしか経ってないんですけど、3年──は盛りすぎかもしれないけど、それくらい経った気がするほど、「アーティストとしてどうなっていこうか」をいろいろ考えていたので。その後に1stツアー(「Mountain & Forest」)もやりましたし、今振り返っても……その頃のことを忘れてるんです。でも、いちばん最初にステージに出た時のお客さんの温度と光は鮮明に覚えていて。ステージに立って、光と熱を感じたっていう感動的な体験は、たぶん一生忘れないだろうなと思います。

──それぐらいの加速感の真っただ中にあったっていうことですね。近いところで言うと、11月の渋谷WWW公演はどうでした?

今、次のツアーに向けて脱皮をしている最中で、前のライブがどうだったかはあまり思い出せなくて。「いや、もっとできる」「まだやらないといけないな」っていう気持ちがいちばん強くて。もちろん、お客さんの反応はとても嬉しいものではあったんですけど、当時を振り返るというよりは、「もっとこうしないといけない」っていう気持ちになっています。

──“ラララさよなら永遠に”“雪の銀河”は一見対照的な楽曲ですけど、どちらも「ポップミュージックの中にギターという楽器をどう活かしていくか」という視点がより定まった楽曲だと感じました。

“ラララさよなら永遠に”をリリースしたあたりから、「俺はギターヒーローになりたい」と思うようになっていって。自分が、今の若い世代でいちばんいっぱい弾けて歌も書けるぞ、っていうのを前面に押し出していかないといけないな、と。「歌も歌って、ギターもめちゃめちゃ弾き倒すギタリストになりたいな」っていう気持ちが、このあたりから芽生え始めてきて。ギターは自分のアイデンティティでもありますし、それこそギターを始める前からギターに対して抱いていた「ああ、かっこいいな」っていう最初の感動をどんどん広めていきたい。ギターを知らない人も「いいな」って思えるギターを弾きたいなと思っています。だからこそ、キャッチーかつメロディアスな、ギターの美味しいところをちゃんと出す曲を作ろうという意識が自然に出てきたような気がしますね。

photo by 関口佳代

無敵になりたいですね。ハイパー男、ハイパーミュージックマンになりたいんですよ。むしろ「ならないといけない」って、日々思ってます

──さらに、今回の“アイライ”という楽曲は、「森 大翔の楽曲をどういうふうに時代の中で響かせていくか」という、ある種のプロデューサー目線のようなものが光っている曲だと思うんですよね。街を歩くスピード感にも寄り添ってくれつつ、ポップミュージックとしての眩しさも見せてくれつつ──ギターソロは16小節あるし、間奏が終わって歌が始まっても弾き終わらないという。

確かに。(パンニングで)右に行って左に行ってっていう(笑)。でも、アルバムを出してから、「さらにいろんな人に開いた音楽を作りたい」っていう思いは一貫しています。その開いた音楽に対する自分の言葉選びは、まだ模索している途中なんですけど。“アイライ”は自分にも語りかけている曲で、自分がかけてほしい言葉みたいなものを書いていて──それはいろんな人に語りかけているということでもある、そういう普遍性を言葉において意識していました。

──「表現者として何を歌っていくか」という面でも、とてもハイパーに開かれた曲で。森さんがどれだけの加速度の中で生きてきたのか、“アイライ”はそれが一発で伝わる楽曲だと思いますね。

最初の頃は自分の内側の話が多かったんですけど。自分が何を歌っていかなきゃいけないんだろうか、さっき目標として挙げた「ギターヒーロー」としてどんなメッセージをこめていかないといけないのかというのは日々考えていて。それはアルバムを経て、だんだん鮮明になってきて。だから「自分にも、他の人にもかけていい言葉」っていうところに行き着いた。“アイライ”は、そのスタート地点となる曲です。今までトンネルの中にいたのが、“アイライ”あたりから「来るぞ!」って開いてくる予感がしています。

──ビートとの相性がどんどんよくなってる感覚もありますよね。

“アイライ”のあともいろいろ曲を作ってるんですけど、ビートがかっちりある曲で。そういう変化はありますね。とにかく、自分を見せていく曲を作りたいんですけど、その「見せる」っていう動きのある姿勢とビートの相性がとてもいいんだと思います。

──ギターが弾けて、メロディが作れて、ビートとの親和性も高まったら、もう無敵の境地ですよ。

無敵になりたいですね。ハイパー男、ハイパーミュージックマンになりたいんですよ。むしろ「ならないといけない」って、日々思ってます。

──いいですね、ハイパーミュージックマン。そうなることによって、何か実現したいことがある?

やっぱり、ハイパーミュージックマンの音楽は、人々に何か特別で豊かなものを与えられると思っていて──僕が実際、それを与えられたひとりだったように。もちろんメッセージもですけど、まず音楽自体がもたらす、プレミアムで特別で豊かな魔法を──“アイライ”の歌詞にある《連鎖》じゃないですけど、その先にある笑顔、ハッピーにつなげていけたらと思っています。

photo by 関口佳代

“アイライ”は……いろいろ考えながら、何も考えずに作ってます(笑)。違和感なく上質なものを作ろうと考えつつ、自分のいちばんピュアな音楽の感性を信じてる

──歌を歌ってギターを弾く人ってたくさんいますけど、卓越したギターと、素晴らしい楽曲と歌を、リアルタイムで目の前で体現してくれて、それが極上の音楽になっていく体験って──地道な熟練の結果であったとしても、やっぱり僕らにとっては魔法そのものなんですよね。

はい。

──DTMとかも含めて、音楽の作り方や演奏の仕方はいろいろありますけど、どれだけ緻密に音を積み上げても到達できない領域に、森さんの演奏はあるんだなあ……っていうのを実際にライブで感じたし、そんな森さんが自分から「ハイパーミュージックマンになりたい」とおっしゃっているのが、すごく腑に落ちたんです。そういう形でリスナーから求められていくのは、森さん的にも嬉しいこと?

そうですね。どんどん求められたいです。みんな、求めてくれ!っていう。もっとハイパーミュージックマンになるんで。僕ももっと頑張るし、メッセージももっとちゃんと届けたい……っていう気持ちがあります。

──その気持ちをフルオープンにしたのが“アイライ”でもあると思うし。手を差し伸べに行ったっていうレベルじゃなくて、両手を広げに行った曲っていう感じですよね。

広がってますね。足も広がってて、大の字で空飛んでるくらいの(笑)。僕が思い浮かべたのは──小学生の頃、学校にひとつラジカセがあって。そこから流れる曲に、特に音楽に興味ない小学生が「なんかいいかも」って惹かれるのって、素敵じゃないですか。その1曲になり得るかもしれないな、っていう近さ、人懐っこさ……肩を組んできてくれるような感覚を、自分でもこの曲に感じました。

──人懐っこさもあるし、TBS系『よるのブランチ』2月・3月エンディングテーマというタイアップにぴったりな、ポップでハイパーな曲でもありますよね。

この曲はすぐできたんですよね。何も考えないで……いや、いろいろ考えながら、何も考えずに作った、って感じですかね(笑)。音楽の中で違和感がないように、っていう自分のジャッジがあるんです。フックの部分も言葉もそうで、自分がちょっとでも「?」って思ったら「違う」っていうのは確定していて。違和感なく、なるべく自分の中で上質なものを作りたいっていう──プライドじゃないですけど、そういう気持ちがずっとあって。なるべく気持ちよく、自然に入ってくるものを作ろうとして、いろいろ考えつつ、自分のいちばんピュアな音楽の感性を信じて選んでいるっていう感じです。……朝に作った結果なのかもしれないですね。僕の中では、感覚がいちばん研ぎ澄まされているのは朝なんです。「これがいい」とか、「あれがしたい」「あれはしたくない」みたいな、ジャッジがいちばんできて。

──ミュージシャンって、夜に曲を作っている人が多い印象がありますけどね。

夜は……あまり好きじゃないです。朝、早起きして、散歩して、ヨーグルト食べて、“アイライ”ができました(笑)。

photo by 関口佳代

新しい曲ができても「こんなもんかい?」っていう自分がずっといて。常に何かを生み出して、前の自分を超えたい、っていうワクワクがずっと渦巻いてます

──森さんが誰も見たことのないギターヒーローになってくれそうな期待感を、“アイライ”は強烈にかき立ててくれるんですよね。

見たことない人になりたいですね。好きなギタリストはいますけど、その人になろうとは絶対に思わないですし。なれないのはもちろんですし、なったとて……っていうのもありますし。自分がなれる森 大翔にならないといけない、っていうのがずっとあって。その森 大翔を探し続けている途中です。その過程にギターがあり、歌があり、何を歌っていくのかを考えた果てに“アイライ”に辿り着いたという……。だから、これからなんです!

──(笑)。現時点で無限の可能性が見えているけど、ご本人的にはまだ満足してない?

してないですね。今は……走りたいですね。日頃、そういう気分になるんですよ。「うわあっ!」っていうパッションを、新鮮なうちに音楽に向けて、成長していけたらいいですね。今、新しい曲もどんどん作りつつあるんですけど、曲が揃っても、また作りたくなるんですよ。「こんなんじゃないよね?」「こんなもんかい?」っていう自分がずっといて。まあ、そうじゃないと音楽はやってないと思うんですけど。常に何かを生み出して、ちょっと前の自分を超えたいっていうことに対してのワクワクと楽しみがあって……そういうものがずっと渦巻いています。

──「自分はこんなんじゃない」を、新しい曲を作ることで試そうとしている?

そうです。“アイライ”も、これからリリースですけど……こんなんじゃないですもん(笑)。「僕はまだまだできる!」って、自分がいちばん思ってるんですよ。まだいけます!

──それだけの加速感で生きていれば、1stワンマンの細かいディテールは忘れちゃいますよね(笑)。

忘れますねえ(笑)。あの日の森 大翔とは、全然別人だと思ってます。そのくらいの気持ちで、日々生活しているので。北海道から上京して、音楽をやりたい、続けていきたい、もっといろんな人に聴いてほしいっていう気持ちがあって。満足したら……試合終了っていうことで(笑)。

──(笑)。JAPAN JAM 2024への出演も決定しましたが、フェスへの意気込みはどうですか?

フェスは、森 大翔を知らない人に聴いてもらえるチャンスじゃないですか。そのチャンスを、絶対に掴み取らないといけないなっていう、狩人の気持ちです。「やーっ!」ってたくさん狩れるように、これからの一分一秒を大切に、成長していきたいと思います。

photo by 関口佳代

●MV

“アイライ” MV


●リリース情報

配信楽曲『アイライ』

配信中

●ツアー情報

2nd Tour「Mountain & Forest “愛来(アイ ライ)”」


提供:A-Sketch
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部