【インタビュー】新曲“五つ目の季節”、そしてまだ見ぬ新たな領域へ──ナカシマ、おいしくるメロンパンの「今」と「核」を語る!

1月19日、LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)にてワンマンライブを開催し、7thミニアルバム『answer』のリリースツアーを締め括ったおいしくるメロンパン。この日のライブで8thミニアルバム『eyes』が5月1日にリリースされることが発表され、さらに、アンコールで披露された新曲“五つ目の季節”も配信リリースされた。まるで求道者のように自分たちのやり方を突き詰めながら、着実に歩を進め、その音楽を、哲学を、前進させていく彼らの姿はまさに孤高と言えるが、そんな彼らがホール規模の会場をソールドアウトさせるほどの支持を得ていることは、大袈裟でもなんでもなく、希望である。
“五つ目の季節”は、ダイナミックなサウンドの中にアンビバレントな感情を捉えている。理想に手を触れたいと足搔く焦燥と、「もう何も取り戻すことはできない」という諦念。それらが混ざり合うことで、美しく、泥臭く、「生きろ」というメッセージを発している。バンドが新たな季節へ足を踏み入れていることを実感させる1曲である。今彼らはどこに向かおうとしているのか。その目に映るものをナカシマ(Vo・ G)に問うた。
なお、2024年2月29日発売のJAPANには、このインタビューの完全版を掲載。おいしくるメロンパンというバンドの表現の核心が語られたインタビューになっているので、そちらもぜひ読んでほしい。

インタビュー=天野史彬 撮影=武井宏員


「頑張っていこうぜ」はないけど、「生きていこうぜ」みたいな気持ちはあります


──先日のLINE CUBE SHIBUYAでの初のホールワンマン、バンドの立ち姿もストイックで美しかったし、セットリストの流れも素晴らしいライブでした。会場には制服姿の若いお客さんもたくさんいましたが、もしナカシマさんが中高生の頃においしくるメロンパンが目の前に現れていたとしたら、どう接していたと思います?

ええ?……まあ、好きになっていたと思いますけど、さすがに。自分がいいと思ってやっている音楽なので。でも……難しいですね。想像できない。

──ミュージシャンによっては、10代の頃の自分に向けて音楽を作っているような人もいますよね。

なるほど。僕は、それはあまりなさそうですね。「学生だから響く」という感じより、その感性を持った人だったら学生でも大人でも響く。そういうものなのかなと思います。

──LINE CUBE SHIBUYAで『answer』のツアーも終わりましたが、『answer』はナカシマさんに何をもたらした作品だったのか、ライブを経て改めて感じたことはありますか?

ずっと自分の内側に向かって音楽をやっていましたけど、それを変えてみようと思って、この数年は「お客さんに音楽を届けるってどういうことなんだろう?」ということにフォーカスを当てて活動してきて。そのひとつの答えになる作品になったんじゃないかと思います、『answer』は。自分がやりたいことと、お客さんに対して自分がやりたいことの着地点、そのバランスの取れたところに『answer』で辿り着けたんじゃないかって。お客さんの反応も、自分が投げたものに対して返してくれている感じがしたし、自分で聴いても心地いい作品なんですよね。

──「お客さんに音楽を届けるってどういうことなのか?」という問いに対してナカシマさんが現時点で出した答えとして、言語化できるものはありますか?

「引っ張ってあげる」みたいな感覚はあります。「こうだよ」と言っている感覚というか。前までは突き放している感覚があったけど、今は自分の世界に手を引いて入れてあげている。そういう感覚がある。

──「引っ張ってあげる」といってもきっと、おいしくるメロンパンの場合は「頑張っていこうぜ」的な扇動とも少し質感は違いそうですよね。

そうですね。でも「頑張っていこうぜ」はないけど、「生きていこうぜ」みたいな気持ちはあります。僕はずっと逃避的な感じで音楽を聴いてきたんですよ。音楽を聴いている時は現実から離れられるし、その間は辛いことも忘れられる。そう感じさせてくれるものの存在があることで、生きていける……ちょっと大袈裟だけど、そういうものはあると思っていて。自分もそんな存在になれたらいいなと思うんです」

──「頑張っていこうぜ」ではなく「生きていこうぜ」って、いいですね。

僕自身「頑張っていこうぜ」と言われるのは好きじゃないです(笑)。でも「生きていこうぜ」に対しては「そうだよな」と思うから。

何かが足りなくて、でも、お腹が減っているのとは違う。喉が渇いている時の感覚に近いものを、ずっと感じている気がするんです


──創作活動をしながら生きていくことは、ナカシマさんに何をもたらしていますか?

作ってみて初めて自分に対して気づくことってあるんです。作業をする段階で、自分と向き合うことが絶対に必要になってくるので。それが何度も何度も繰り返されることで、ちょっとずつ自分のことも知ることができていくなと思います。「自分はこういうことを考えていたのか」と思うし、昔の曲を振り返って『この時こういうことを考えていたのか』と思うこともあるし。

──『answer』という作品で発見した自分自身もありましたか?

……意外と、温かいやつなんだなと思いました。

──なるほど(笑)。

いや違うな(笑)。温かいやつというか……意外とみんなでわいわいするのも好きなんだなっていう感じというか……いや、わいわいもちょっと違うかな(笑)。“波打ち際のマーチ”は、明言しているわけではないけど、今まで自分たちが歩んできた道のりと、お客さんとの関係について書きたいなと思って書いた歌詞なんです。あの曲を書いた時は、お客さんに対して「一緒に歩んでほしい」とか「連れていきたい」という気持ちが僕の中にあるんだなということに気づけました。

──5月に新作ミニアルバム『eyes』がリリースされることも発表されました。まだ内容は聴けていないですが、新作の『eyes』というタイトルを見た時に、質感がいちばん近いのは1stミニアルバムの『thirsty』だなと思ったんです。人間の肉体や実感、主体性を感じさせるタイトルだなと思って。逆に、ここ最近はどちらかというと空間や社会、概念みたいなものを捉えているタイトルが多かったなと思う。そう考えると、循環して、またテーマ性や向き合うものが初期と近くなっているのかな、という気もして。

それはありそうですけど……ハッキリとはわからないです。でも、言われてみれば、そうだなという感じがします。

──今改めて振り返って、『thirsty』というタイトルは何を表していたのだと思いますか?

今でも『thirsty』という言葉はおいしくるメロンパンっぽいなと思うんですよね。『thirsty』の時の初期衝動はずっと続いているのかなと思う。何かが足りなくて、でも、お腹が減っているのとは違う。そういう感覚がずっとある。喉が渇いている時の感覚に近いものを、ずっと感じている気がするんですよね。それがなんなのかはわからないですけど、作品の登場人物も同じような感覚でいて、それを満たすために行動している感じがします。

人間の不完全さ、そのランダム性を描いて、たくさん作品が増えていくと、それを遠くから見た時に秩序のようなものが見えるのかな

──肉体的な3ピースのアンサンブルへのこだわりを見ても、制約を持つことを大切にされている印象もあるんですけど、どうでしょうか。

そうですね、ルールみたいなものがあったほうが、より秩序が生まれるかなと思っています。あるルールのうえで行われているという、そこにある統一性みたいなものがすごく好きです。なんでもできるとなると、逆に難しいなと思っちゃう。制約されているからこその楽しさは感じています。

──何がきっかけで秩序立ったものの楽しさや美しさを見出したんですか?

漠然とですけど、パズルゲームとかが好きなんですよね。ルービックキューブとか知恵の輪も好きだったし。理系脳なんだと思うんですよ。父親もそっち系の仕事をしているし。整っているもの、幾何学的なものが好きなんだろうなと思います。ランダムにその時したいことをするというよりは、1本筋が通っていて、その上で何かをする方が自分の性に合うなと思う。

──ただ、人間ってものすごく歪な存在だったりもしますよね。なかなかパズルゲームや、あるいは自然のようにはいかない。そういう人間の不完全さにもナカシマさんは向き合っている感じがします。それはさっきの「渇き」の話にも通じるのかもしれないですけど。

確かに、確かに。そこにあるコントラストが面白いのかもしれないですよね。人間って、単体にフォーカスするとランダムなものだけど、離れた場所から見てみると、めちゃくちゃ秩序立ってひとつの法則で動いている存在なのかもしれないと思うんです。そのランダムさすらも、秩序のうえでやっているっていう。だからこそ人間の不完全さを描くのかもしれない。そのランダム性をどんどんと描いて、たくさん作品が増えていくと、それを遠くから見た時に秩序のようなものが見えるのかな、という感じがします。

──新曲“五つ目の季節”はどのようなイメージから生まれた曲ですか?

「もうあの頃には戻れない」という感覚ってすごく悲しいと思うんですけど、そういうことを感じながら作った曲ですね。「年取ったなぁ」と思うんですよね、最近。若い子を見ていると「あの頃に戻れないな」と思う。「戻りてぇ」とも思うし「でも、どうやっても戻れないのか」とも思う。これって人類、というか生物共通の感覚だと思うんですけど。そういう感覚を自分が歌にしたらどうなるのか、という感じで曲にしました。なので“五つ目の季節”っていうのは、春夏秋冬があってさらに先にある五つ目の季節というよりは「かつて一度通ったけど、あれって五つ目の季節だったんだ」という感覚ですね。でも、今はもう季節は四つしかなくて、これからも四つしかないんだろうなっていう。

強欲なんだと思う。勝手に自分の人生を俯瞰して、もう終わったところまで見て『これは手に入らないんだろうな』という喪失感まで勝手に味わっちゃっている


──何かを思い出したり、記憶を見つめる感覚って、この曲に限らずナカシマさんが作る曲に出てきますよね。

それは、おいしくるメロンパンのひとつのテーマだと思っています。忘れていくことの悲しみにどう向き合うか。それを「悲しい」と歌う歌があったり、「いいじゃん」と歌う歌があったり、それは登場人物によって表現の仕方が違うけど、大きなテーマとして核にあるものだと思う。

──季節のモチーフも頻出しますよね。

季節って、どんどん過ぎ去っていく感覚があるので。季節は喪失感の象徴だったりするのかなと思います。

──喪失感は重要な感覚ですか?

そうですね。人生って、どうにもならないことがすごく多いなと思うんです。そういうものと、どう向き合うか。季節も「どうにもならないもの」だと思うんです。無条件で降り注いで、勝手に去っていく。そういうものとの向き合い方を表現しているのかもしれない。


──“五つ目の季節”の歌詞の中に《最低な言葉》というフレーズが出てきますけど、《言葉》もナカシマさんが綴る歌詞によく出てきますよね。

《言葉》もどうにもならないもののひとつだと思うんです。“斜陽”という曲に《言葉なんてものは/落としたキャンディさ》という歌詞があるんですけど、自分の口から吐いた時には形が変わっちゃっているというか。人は自分が生きてきた感覚のフィルターを通して言葉を認識するじゃないですか。そのフィルターが違っちゃっていたら、同じ言葉でも違うふうに受け止められてしまうし、そう思うと、自分が思っていることを完全に言葉にして伝えることは絶対にできない。言葉を介してコミュニケーションを取らなければいけない以上、そのズレが人と人との間には絶対にある。そのもどかしさはずっと感じていますね。

──ナカシマさんは何故「どうにもならないもの」を見つめるのだと思いますか?

なんだろう……。理想の世界みたいなものが自分の中にあって、それと現実が乖離しているからかな。きっと理想の世界を持たない人のほうが多いんじゃないかと思うけど、僕の中には「こうであってほしい」とか「こうであるべきだ」という世界があって、だからこそ「じゃあ、なんで現実はこうじゃないんだろう?」と思う……そういうところから来るものなのかな。わからないですけど。

──喪失感も「何かを得たい」と思うからこそ感じるのかもしれないですね。

強欲なんだと思うんです。手に入れたいものがいっぱいあって、でも人生は短いし、その中で得られるものってすごく少ない。勝手に自分の人生を俯瞰して、もう終わったところまで見て「これは手に入らないんだろうな」という喪失感まで勝手に味わっちゃっている。そんな感じなんだと思います。



●リリース情報

Digital Single『五つ目の季節』

配信中

8th Mini Album『 eyes』

2024.05.01 Release
初回生産限定盤A(2CD):XNRJ-10036~37/¥3,000(tax in)
初回生産限定盤B(CD+DVD):XNRJ-10038/B/¥4,000(tax in)
通常盤(CD):XNRJ-10039/¥1,650(tax in)

●ライブ情報

おいしくるメロンパン eyes tour - 春夏秋冬レイトショー -

6月8日(土)神奈川・川崎CLUB CITTA' (open 16:00 / start 17:00)
6月15日(土)岡山 YEBISU YA PRO (open 16:30 / start 17:00)
6月16日(日)愛媛・松山 サロンキティ (open 16:30 / start 17:00)
6月22日(土)長崎 DRUM Be-7 (open 16:30 / start 17:00)
6月23日(日)福岡 DRUM LOGOS (open 16:15 / start 17:00)
7月6日(土)宮城・仙台Rensa (open 16:15 / start 17:00)
7月7日(日)岩手・盛岡 CLUB CHANGE WAVE (open 16:30 / start 17:00)
7月13日(土)石川・金沢 EIGHT HALL (open 16:30 / start 17:00)
7月14日(日)岐阜・club-G (open 16:15 / start 17:00)
7月19日(金)茨城・水戸 ライトハウス (open 18:30 / start 19:00)
7月27日(土)兵庫・神戸VARIT (open 16:30 / start 17:00)
7月28日(日)京都MUSE (open 16:30 / start 17:00)
9月6日(金)埼玉・HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3 (open 18:30 / start 19:00)
9月8日(日)福島・郡山HIPSHOT JAPAN (open 16:30 / start 17:00)
9月14日(土)香川・高松 DIME (open 16:30 / start 17:00)
9月16日(月祝)静岡・LIVE ROXY SHIZUOKA (open 16:15 / start 17:00)
9月21日(土)北海道・旭川 CASINO DRIVE (open 16:30 / start 17:00)
9月23日(月祝)北海道・札幌 PENNY LANE 24 (open 16:15 / start 17:00)
9月29日(日)大阪・なんばHatch (open 16:00 / start 17:00)
10月5日(土)熊本 B.9 V1 (open 16:30 / start 17:00)
10月6日(日)鹿児島 CAPARVO HALL (open 16:30 / start 17:00)
10月12日(土)新潟 LOTS (open 16:30 / start 17:00)
10月14日(月祝)山梨・甲府CONVICTION (open 16:30 / start 17:00)
10月19日(土)愛知・名古屋 DIAMOND HALL (open 16:00 / start 17:00)
10月26日(土)鳥取・米子 AZTiC laughs (open 16:30 / start 17:00)
10月27日(日)広島 VANQUISH (open 16:30 / start 17:00)
11月7日(木)東京・TOKYO DOME CITY HALL (open 17:30 / start 18:30)

メロンサイダー 2024東京編

3月27日( 水) メロンサイダー@LIQUID ROOM w/ サイダーガール