【インタビュー】冨岡愛とは何者か? 総再生数2億回超え“グッバイバイ”が国内外でヒットした理由を本人の証言から解く

現役女子大生シンガーソングライター、冨岡愛
昨年SNSに投稿した“グッバイバイ”はアジア6カ国でSpotifyバイラルチャートインを果たし、総再生数2億回を超えるほどのヒットを記録。韓国ではストリートライブをやれば500人ものオーディエンスが集まり、6月にはTREASUREやASH ISLANDなどと並んで大型音楽フェスに出演を果たすほど、人気となっている。
今年のバレンタインにリリースした“恋する惑星「アナタ」”もじわじわとSNS内で広がりを見せている中、7月24日、新曲“ジェラシー”を発表した。

“グッバイバイ”は、冨岡が1年間の曲を書けない時期を経て、それまでの考えを振り払って自由になって作った曲だったという。日本語と英語を面白く混ぜ合わせて、J-POPとUSポップスを縫うようなメロディやアレンジメイクを施す冨岡の感性はいかにして開花したのか。また積極的にSNSへ動画投稿を続ける背景にはどのような強い気持ちがあるのか。「冨岡愛」という存在に迫った。

インタビュー=矢島由佳子


自分の土台にはテイラー・スウィフトの音楽があると思います

──去年の6月くらいにSNSで愛さんの動画と出合ってから、ずっと気になってて。

嬉しいです、ありがとうございます。

──今日は愛さんがどういう方なのかをいろんな角度から聞かせていただければと思います。音楽を始めたのは中2の時ですか?

中2の頃にギターを始めました。学校の音楽室にギターがたくさん並んでいて、授業の一環でギターを習って。それとテイラー・スウィフトの『RED』のアルバムツアーの映像をYouTubeで観てギターをやってみたいなと思った時期が重なって、弾き語りを練習するようになりました。その頃から自分のオリジナル曲も書きたいとは思ってたんですけど、なかなか書けなくて。

──当時、テイラーの他にはどういった音楽をカバーされてたんですか。

テイラーが8割くらいだったんですけど、あとはマイリー・サイラスアヴリル・ラヴィーンONE OK ROCKとかもカバーしてました。自分の土台にはテイラーの音楽があるなというふうには思います。どこかカントリーチックなコード進行が、好きだな、自分の耳の響きに合うな、っていうのはどうしてもありますね。

──テイラーでいちばん好きな曲は?というと……選べますか?

選べますね……いや、選べるかな?(笑) 王道ではあるんですけど、“You Belong With Me”が私はいちばん好きです。この曲を聴いたのは小学生くらいの時で、車で流れてきたテイラーの声とリズム、コード進行、メロディ、すべてがタイプすぎて。音楽を聴いて初めて「何これ?」って衝撃を受けた曲ですね。

──その後、オリジナル曲を書き始めたきっかけは?

4歳から中学卒業までオーストラリアにいて、高校で日本に帰ってきたんですけど、高2の時に学校行事としてプロムイベントがあって。すごく仲良かった男の子の友達が、ずっと好きだった女の子に「僕と一緒にプロムに行ってくれませんか」という告白をほぼ全校生徒の前でやることになって、私は「いけるいける!」とか言って応援してたんですけど、全員の前で振られちゃったんですよ。その時に責任を感じちゃって、なんて声をかけてあげたらいいのかもわからなくて、なかなか慰める方法が見つからない中で書いたのが1曲目のオリジナル曲でした。

──他にはどういった曲を書いてましたか? 愛さんが曲を書き始めた頃、どういうことが詞や音になっていたのだろうと思って。

ひたすら曲を書いていたイメージがあって。今は時間をかけて1曲を作り上げるんですけど、高校生の時は、1曲目ができたことが嬉しかったんですかね。初めて作ったオリジナル曲を披露した時に友達に喜んでもらえて、それが歌うことはもちろん、曲を書いていきたいなと思った瞬間でした。そこからガムシャラにとりあえず曲を書くみたいな感じで、本当にいろんなテーマで書いてましたね。


──いろんなタイプのアーティストがいて、たとえば誰にも言えないことを音楽に託すように曲を書き始めたという人もいたりするけど、愛さんの場合、とにかく曲を作るという行為が楽しい、みたいな感覚でした?

高校生の時はわりとそんな感じでしたね。でも、なんてかけてあげたらいいのかわからない言葉を紡いだ曲が入り口ではあったので、言えない想いとかを歌詞にすることは多いです。実は《言えない》って言葉が歌詞に多いって指摘を受けたことがあって。《言えなかった》《伝えられなかった》《言えばよかった》とかの言葉が無意識のうちに多くなってるって、第三者に言われて気づいたんですよね。やっぱりとどめているものが曲に昇華しやすいのかなとは思います。

──SNSに弾き語りカバーを上げ始めたのはいつ頃ですか?

高校1、2年くらいから弾き語りカバーのショート動画を毎日Instagramに載せていて。それがすごくギターの練習にもなったんじゃないかなって思ってます。大学に上がって東京に来てからはカバー動画をあまり載せないようになって、どうしようかなと思ってた時に、大学の友達から「今はTikTokじゃない?」って言われて。1年生の夏頃に「1回TikTokに載せてみるか」と思って、何回か投稿した中で1つのカバー映像がプチバズりしたというかちょっと数字がついて。そこで「TikTokって動画1本でこんなに広まるんだ」という印象を持って、もしかしたらここにカバーとかオリジナル曲を載せていったら届くかもしれないなと思ったのが大きなきっかけでした。

──音楽を仕事にしようと思い始めたのは、どのタイミングでした?

音楽を仕事にしたいなとは、中学生くらいから思ってました。1曲も書けてないのになんでシンガーソングライターになりたいと思ってたんだろうって、今振り返れば思いますけど……根拠もない自信ですよね(笑)。

1年間曲を書けてなかったので、もうこれ以上は悪くならないという状態だったんですよ。一回縛りを全部忘れて、変な意識をせずに、1曲書いてみようかなと思ったのが“グッバイバイ”でした

──昨年発表した“グッバイバイ”は国内のみならず韓国をはじめ海外でも愛さんの存在が知れ渡るきっかけになった曲だと思いますが、ご自身の実感としてはどうですか。

“グッバイバイ”の前、1年間くらい曲が書けてなくてリリースできてなかった期間があって。1年間、いろんなかけらを組み合わせてできたのが“グッバイバイ”だったので、曲ができた時は本当に嬉しかったですね。

──1年曲が書けなかったのは、スランプみたいな状態に入ってたということですか?

そうですね。数字的な面もあまり伸びてない中で曲を書かないといけないってなった時に、何が正解なのかもわからないし、変に考えすぎて、曲ができなかったというか。

──愛さんのディスコグラフィの中でも“グッバイバイ”は変化の1曲だと思ってて、言ってしまえば王道なJ-POPから外れたようなサウンドメイクだと思うんですけど、どういった試行錯誤を経て辿り着いた曲だったんですか。

でもあまり深く考えてなかったとも言えるかもしれないです。1年間曲を書けてなかったので、言ってしまったら、もうこれ以上は悪くならないなって状態だったんですよ。優里さんに“ラプンツェル”を提供してもらったのがその1年前くらいで、それも周りの期待に応えられなかったり、いろいろとあったりしたので。そんな中でもう失うものはないなっていう状態で作った1曲でした。それまでは英語を一切使わないということを、勝手に自己ルールにしてたんです。日本で音楽やっているわけだし、日本語で歌詞を書いてる曲のほうが万人受けするんじゃないかなと思って、極端なんですけど、英語を一切入れないという縛りを作ってて。でもそれは自分のルーツだし、一回縛りを全部忘れて、変な意識をせずに、1曲書いてみようかなと思ったのが“グッバイバイ”でした。


──縛りを捨てて突破口を見つけたと。J-POP的ではないメロディの動きや、日本語の中に英語をうまく混ぜたり、日本語もちょっと英語っぽく聞かせたり、それが今の愛さんのオリジナリティになってますよね。

そう言ってもらえて嬉しいです。昔から言葉遊びは好きでフックになる言葉とかをメモに取ったりしてたんですけど、その幅が広がったというか。英語と日本語の同じような発音でも韻を踏めるので、“グッバイバイ”はめちゃくちゃ韻を踏んでいる1曲になって、そういった言葉遊びの楽しさに気づきました。自分のやりたいことを詰め込められた1曲ではあったので、曲作りへの自信にもなりましたね。アレンジも過去一詰めた曲で、打ち込みのドラムの音も細かく微調整して。“グッバイバイ”前は、自分の曲なのにちょっと思うところがあっても「これがJ-POPなのかな」と思って言えてなかったんですけど、一回言ってみようと思って。「根拠ないんですけど」とか言いながら。

──それまでは経験も浅く何が正解かもわからず、周りの人の意見に頼ったりもしてたけど、とにかく自分で作りたいように作ってみようと思って完成させたのが“グッバイバイ”だった。それが自己最大のヒットになったと。

それまでは周りの意見を聞いて「これが正しいんだろうな」って流されていた自分がいたので。“グッバイバイ”はちゃんと言えた曲だったので、納得できた1曲でしたね。

──まさに、ドラムの音がいいですよね。日本に限らず世界の人に届いてる理由のひとつは、このドラムの音にあるんじゃないかなと思ってて。

嬉しいです。ドラムはこの曲の大事な要素かもしれないです。一人で考えている誰かの心の内を歌っている曲だと思うので、明るすぎず、夜に合うイメージで、バンド感を出しすぎず、ちょっといい意味で孤独感を感じさせるようなドラムの音にしたくて。「ローファイをもう少し強めに」とか、本当に微調整のやり取りをさせてもらいましたね。

──海外に届いたきっかけや理由を、自分ではどのように捉えてますか?

本当に、これは狙ってなかったんですね。逆に日本しか考えてなかったと言っても過言ではないくらいで。SNSに投稿した中でも青いタンクトップで歌ってる動画がいちばん再生されたんですけど、コメントに韓国語や英語が多くて、その時に日本以外の方にも届いたんだと実感して。韓国語は一言も歌ってないし、英語もちょろっと入れたくらいだったので、びっくりしましたね。でも韓国に行っていろんな方とお話させていただいた際に、声を評価してもらうことが多くて。シティポップやちょっと前のJ-POPが今流行っているということを韓国の方々から教えてもらって、もしかしたらどこか懐かしい雰囲気とかがウケたのかなって、今は自己分析してます。あの青いタンクトップにデニムを着てる感じもどこか懐かしい雰囲気のある映像になっていて、そういった要素がマッチしたのかなって今は思ってます。

“ジェラシー”は恋愛の要素も入れつつ、人と自分を比べてしまう時に生まれる劣等感──私の場合、世代の近いミュージシャンの活躍がSNSやYouTubeですぐにわかっちゃうので、そんな中で生まれる感情を入れました。赤裸々に自分の気持ちを乗せた曲になってますね

──“グッバイバイ”以降、1曲1曲から「届けたい」という愛さんの強い気持ちが伝わってくるなというふうに感じ取ってて。

そうですね。“グッバイバイ”前は「J-POPはこうでないといけない」とか、変なこだわりを自分の中で作っていたと思うんですよ。“グッバイバイ”以降は、アレンジもですけど、ジャケ写やMVについても結構言えるようになって、すごくやりやすく、楽しく制作ができてるので、毎回満足して「本当に届けたい」という気持ちでリリースできてます。

──最新曲“ジェラシー”もSNSにたくさん動画が投稿されていて、リリース前からたくさんの人の耳に届いているような土壌ができていますが、これは愛さんの中でどういうところにこだわった曲だといえますか。

恋愛をテーマにした曲が多いんですけど、“ジェラシー”は恋愛の要素も入れつつ、人と自分を比べてしまう時に生まれる劣等感──私の場合、世代の近いミュージシャンの活躍が、SNSやYouTubeで見えちゃうので。

──それが数字ではっきり見えちゃうし。

すぐにわかっちゃうので、そんな中で生まれる感情を、2番の歌詞とかにはこだわって入れました。赤裸々に自分の気持ちを乗せた1曲になってますね。私の場合は音楽ですけど、他の子たちからしたら、SNSに載ってるキラキラ女子と自分を比べてしまうかもしれないし、恋愛においてのジェラシーももちろんあると思うし、いろんなところで共感してもらえるんじゃないかなと思ってます。


──Bメロの《持ってるもので勝負しなさい/そんな綺麗事で幸せに/なれるなら苦労なんてしないわ》(1番)、《運も全て実力のうちで/ずるい生き方ほど肯定されて/天才かただの馬鹿か決めつけられ》(2番)という部分は、心の奥にあるものを見せられた瞬間のような、ドキッとするものがあって。

嬉しいです。Bメロがいちばん強いポイントになってるかもしれないです。「持ってるもので勝負しなさい」って、よく言いますもんね。それはルックスのことだったり、いろんな場面であると思うんですけど。

──「あなたの個性は美しい」とか言われるけど、そんな正しさを飲み込めない時ってありますしね。

ありますよね。1番はいろんな人が共感してくれるんじゃないかなと思います。2番はどちらかというと自分宛てに書いちゃったところが強いですね。「運もすべて実力のうち」って言われがちだと思うし、天才と馬鹿は紙一重って言うじゃないですか。そういうところも歌詞に入れられたらなと思って入れてみました。

──この曲は、あえてとてもシンプルな英語を混ぜてきてるのかなと思ったりして。

そうですね。英語を入れないという縛りは自分の中でやめようと思ったんですけど、逆にわかりづらい英語を入れがちだったんですよ。聴いてもらって「ちょっとわからないかも」「ちょっと難しいかも」ってなることがあったので、わかりやすさを重視したいなと思って、絶対にわかる《I want you》《I miss you》とかを使いました。“グッバイバイ”も《Be by your side》とか、すごくシンプルな言葉を使ってるんですよね。「ジェラシー」とかメインテーマ以外の英語の言葉は、できる限りわかりやすく書きました。


──日本で老若男女に聴いてもらえるような工夫をしつつ、海外の人が聴いても耳心地がいいものを意識した、ということですよね。

そうですね。“グッバイバイ”が韓国で伸びてくれたことももちろん嬉しいんですけど、国内でもっと届けたいという想いが今は強くて、それが自分の中でいちばんのモチベーションではあります。でも国外の方にももちろん届けたいと思っているので、そういうところを最近は常に意識してますね。

──“ジェラシー”のアレンジに関しては、どういうことを考えてましたか。

今回のメロディラインはJ-POPに近いものになっているので、アレンジ次第では王道J-POPになりやすいなと思って、特に打ち込みと生音のバランスをアレンジャーのMEG(MEGMETAL)さんと話し合いました。「ローファイを効かせてほしい」とか、「明るくしすぎると本当に明るいJ-POPになっちゃう」とか、そういう話もさせていただきましたね。MEGさんとは4曲連続でやらせてもらってるんですけど、今回も頭の3行をラジオボイスにしてみようといったアイデアも提案してくださって、すごくかっこよく仕上がったなって思います。Bメロに関しては、いつもドラムとかリズム隊のリクエストをすることが多いんですけど、今回はそこまで目立たせなくていいかもってお伝えさせていただいて。さっきも言ったみたいに歌詞にこだわりを入れてるので、強く歌いたいからこそ声をちょっと前に出してほしいとかのリクエストをさせていただきました。


私、応援歌を書きたいなとずっと思ってて。ここぞという時に寄り添ってくれる音楽って、その声や歌詞が心にも体にも染みついてる気がして。自分もそういう存在になりたい

──着実に理想に向けて階段を上がれている実感はありますか? それとも、自分の中ではまだまだこれからという感じ?

目の前に出てくるデータとかを見てたら、確かに着実に進めているのかなと思えてますけど、やっぱりもっと頑張りたいですね。音楽を長く続けていきたいので、ずっと音楽と付き合っていくためにもっと頑張りたいなと思ってます。

──今後、どんな曲を作りたいと思ってますか?

私、応援歌を書きたいなとずっと思ってて。それがひとつの目標ではあるんですけど、なかなか難しくて。頑張ってる人に頑張れって言うのも違うし、どういう言葉を並べたらいいんだろうって、すごく考えちゃって。いつかは絶対に応援歌を書きたいし、幅広いジャンルの曲を届けられたらなと思ってます。

──「応援歌を書きたい」って、はっきり言えるアーティストはすごくかっこいいと思う。

私自身、恋愛の曲とかも聴くんですけど、ここぞという時に聴いてる曲が1曲あって。マイリー・サイラスの“The Climb”なんですけど。その曲を大事なライブ前とかに聴くことが多くて。そういう時に寄り添ってくれる音楽って、その声や歌詞が心にも体にも染みついてる気がして。自分もそういう存在になりたいなと思います。

──誰かの心と体と人生にまで染み込む曲を作り続けてください。今、目の前の目標は?

今年の目標はたくさん曲を書くこと。あとは、ライブがすごく好きなのでいろんな場所でライブをやりたいです。大きな会場で歌うことがいちばんの目標ですね。韓国のライブでお客さんと触れ合うたびに、音楽を通したら国境がないというか、何を言ってるか100%わかってなくても音を楽しんでる感覚で会いに来てくれてることが実感できたので、とりあえず国内外でたくさんライブをしたいという気持ちが強いですね。本当に簡単なフレーズではあるんですけど、大きな会場で歌いたいです。


●リリース情報

配信シングル『ジェラシー』

配信中

●ライブ情報

BLUE SPOT -Tokyo-

[日程]2024年11月23日(土・祝)
[会場]Shibuya WWW X
[開場 / 開演]OPEN:17:00 / START:18:00

●冨岡愛オフィシャルSNS

企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部