【インタビュー】アニメ『ガールズバンドクライ』と連動した前代未聞のバンドプロジェクト・トゲナシトゲアリ。プロ経験ゼロからバンド結成&声優デビューした彼女たちが、前人未到の道のりを明かす

2024年4月から6月にかけ放送されたアニメ『ガールズバンドクライ』。その劇中で主人公たちが組んだバンドと連動する形で、オーディションを勝ち抜いたメンバーにより結成されたのがトゲナシトゲアリだ。メンバー全員がプロ経験なしの状態からのスタートながら、音楽面だけでなく、声優も本人たちが担当しており、楽曲は全て玉井健二(agehasprings)が手がけるなど、その「ガチ」っぷりは他のプロジェクトとは一線を画すもの。そしてアニメ放送こそ終わったものの、この2ndアルバム『棘ナシ』からさらにその先へと、現実世界のトゲナシトゲアリの道は続いていくという。彼女たちはそれぞれどんな音楽に触れ、このプロジェクトに何を賭けたのか。そしてオーディションやデビュー前後の激動の日々の中で何を見出してきたのか。これまでの歩みとこの先へ向け、今期する想いを理名(Vo)、夕莉(G)、朱李(B)の3人に語ってもらった。

インタビュー=風間大洋


壁にぶち当たったけど、全員初挑戦だったからこそみんな同じ悩みを持って一緒に頑張れた(夕莉)


──音楽や楽器との出合いから聞かせてください。

夕莉 小さい頃に楽器を習った経験は特になくて、高校を選ぶときにたまたま行った文化祭で軽音楽部を観たのが初めての生演奏だったんですけど、ギターがすごくかっこよくて。初めてギターを買ってからは8年くらいで、ずっと独学でやってきています。

理名 私は姉の影響で5歳の頃から上京するまで10年くらいピアノを習っていたり、小さい頃からずっと音楽には触れてきていて、小学校3年生くらいで初音ミクに出会ってからはずっとボカロを聴いて育ってきました。初音ミクという存在と歌い手さんにものすごく憧れを抱いて、中学生からはボイトレにも通っていたんですけど、当時は歌一本でプロを目指そうというよりは趣味の範囲で歌い手をやってけたらいいなぁって。

朱李 私はピアノやバイオリン、金管バンドでユーフォニアムを吹いたりとか、結構クラシック寄りだったんですけど。中学1年生の頃に吹奏楽部でユーフォニアムをやろうとしたら、当時ちょうど『響け!ユーフォニアム』の影響ですごく人気になっていて。そこでコントラバスとベースを担当することになったのが、最初にベースに触れたきっかけでした。小さい頃から父親がPOLYSICSとかサカナクションTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTニルヴァーナとかを聴かせてくれた影響もかなり大きいかもしれないです。


──オーディションを受けた理由やきっかけはなんだったんですか。

夕莉 「弾いてみた」の投稿を観てお声掛けいただいて。すごく嬉しかったし、受かったら声優にも挑戦できるというチャンスが私の人生に訪れるなんて思っていなかったから、一生に一度の機会だし!と軽い気持ちで受けました。

理名 私は歌い手の活動を始めて2、3ヶ月くらいのときに声を掛けていただきました。でも当時は中学3年生で広島に住んでいて、活動するには関東圏に住まないといけないし、受かったとしてもうまくいくとも限らないとか、いろんなリスクも考えて一回はお断りしたんですけど。その後も何度も連絡をくださることに熱量を感じたし、家族からのあと押しもあって受けることにしました。

朱李 私は一般募集で落ちちゃって。今回はごめんなさいというメールが来たすぐあとに、弾いてみた動画のアカウントに「オーディションどうですか」みたいなメッセージがきて、「あれ?」みたいな(笑)。話を聞いてみたら、一般で受けた私とは違う人だと思っていたみたいで。そこでもう一度受けさせてもらいました。

──声優もやるというのがこのプロジェクトの大きな特徴ですけど、実際にやってみてどうでしたか。

夕莉 本当に難しくて壁にぶち当たりました。でも全員初挑戦だったからこそみんな同じ悩みを持って一緒に頑張れたし、バンドだけじゃなく声優もやったことで、私の演じる河原木桃香のパフォーマンスやプレイングを自分にも取り入れられたりという影響もありました。

──テーマがバンドだから、作品中の出来事や経験は自分たちとも重なりますよね。

夕莉 はい。アー写を撮るシーンで緊張しているメンバーたちの様子を見て「私たちもこうだったよね」みたいにリンクしたりもしました。

理名 泣いたりする演技に比べれば、そういうシーンは感情移入もしやすかったです。

顔合わせをした帰りに「オーディションの曲、全部ヤバくなかった?」って話をしたり、アフレコで悩みを言い合ったり。同じ壁にぶつかっているからこそ仲間意識ができて仲良くなれた(朱李)


──演じたキャラクターについての印象は?

夕莉 河原木桃香は結構サバサバした頼れる先輩的な感じなので、設定を読んだりデザインを見たときには「あんまり私と似てないかなぁ」と思ってたんですけど、13話を通して桃香を演じていく中で、頼れる先輩というだけじゃない可愛らしい一面とか、意外とポンコツなのかな?という一面も出てきて。私も一応トゲナシトゲアリでは最年長でしっかりしているように見えてる……かはわからないですけど(笑)、実際はあんまりしてないので。そこは似ているかなって徐々に気づいてきました。

理名 私の演じる井芹仁菜は設定資料に「やや引っ込み思案の女の子」って書いてあったので「大人しそうな子なんだな」と思ってたら、お芝居をするにつれて「引っ込み思案じゃないよな?」と。

夕莉 うん、大人しくもないよね(笑)。

理名 自分の思ったことは結構口に出して相手に伝える性格の子だったのでびっくりしました。私は人と対面して話すこともあまり得意ではなかったり、自分の意見も公にするのが苦手なので真逆なんですけど、仁菜は熊本、私は広島から都会に出てきた高校生なので、不安やわからないことだらけというのは似ていると思います。


朱李 ルパはミステリアスだし、どんな人にも敬語を使ったりして若干壁があるところとか、よくわからないキャラクターという印象が最初は強かったです。私は結構感情を表に出しちゃうんですけど、でも喧嘩上等なところや暴れるのが好きなところとかは近いかもしれないと思ってきて。人からも「似てるよ」って言われます。

夕莉 朱李ちゃんも初めて会ったときは静かでおしとやかな子かなと思ったけど、意外とそうでもないという。そこはルパさんっぽいなと思ってます。

──今回の2ndアルバム『棘ナシ』はどのタイミングで制作したんですか。

夕莉 1stと連続でした。新曲が来るたびにどんどん録って。

理名 新曲の2曲はわりと最近、アニメの終わり際になってからレコーディングした曲ですけど。

──基本的にはアニメの収録も曲の練習と並行して?

夕莉 並行してましたね。初めてみんなと顔合わせをしてすぐバンド練が始まって。オーディションで演奏した曲を合わせながら、新曲が来たらそれを練習しつつアニメのアフレコもしていました。アニメが始まるまでの1年くらいは両方をひたすら頑張っていた期間で。

理名 しんどかったよねぇ(笑)。

朱李 怒涛だった(笑)。

夕莉 最初はみんなと仲良くなるのにも緊張があったし。

──でもその経験は後々大きいですね、きっと。

夕莉 まずこの上手いメンバーたちと一緒にできることがとにかく嬉しかったし、オーディション中は誰にも相談できずひとりで弾いていたものを、初めてメンバーと合わせたときの楽しさとか、初ワンマンでステージに立ってお客さんに披露する喜びもめちゃくちゃ感じて。


理名 私はもう社会経験ができたことが大きかったですね。中学3年生で何も働いたことのないところからなので、本当に挨拶の仕方から……初めて大人の人に「お疲れ様です」とか言ったし。

夕莉 「おはようございます」って言うのも知らなかったもんね。

理名 そう! 昼に来ても夕方に来ても「おはようございます」って言うのが本当に信じられなくて(笑)。

朱李 あと、顔合わせをした帰りに「オーディションの曲、全部ヤバくなかった?」みたいな話をしたり、アフレコでも同じような悩みを言い合ったり。同じ壁にぶつかっているからこそ仲間意識ができて仲良くなれたことが印象に残ってます。


《誰かにとっては/ゴミになるようなモノだとしても/私の世界の全てで》っていう歌詞がすごく刺さって。この曲を歌うときは特に感情移入できますね。(理名)


──楽曲の音楽性についてはどう感じてますか。手数や速さなど、ボカロを通ってる人からするとホームな感じもしますが。

理名 めっちゃ好きな曲調です。早口なものが多いのはハードルでしたけど。

夕莉 もともと速弾きのフレーズよりはカッティングとかのほうを多くやっていたので、新しい曲が来るたび毎回壁はありました。

朱李 オーディションからずっと難しくて、“黎明を穿つ”の間奏は半年くらいやっていたので(笑)。でもそれを乗り越えたからこそ、できなかった奏法もできるようになったし、バンドを1年やったことでみんなの音を聴けるようにもなったり、成長できたと思います。


──特に印象的な楽曲はありますか。

夕莉 “黎明を穿つ”です。

理名 同じく!

夕莉 オーディションのときもなかなかOKが出なくて、毎週動画に録っては送るというのを半年くらいやっていた、トラウマ曲なので(笑)。でもライブで演奏するときは独特な雰囲気を作れて、難しいけど楽しい曲です。


理名 《誰かにとっては/ゴミになるようなモノだとしても/私の世界の全てで》っていう歌詞がすごく刺さって。自分の好きなことに対して周りの理解があまりなかった経験は私もあるので、この曲を歌うときは特に感情移入できますね。

朱李 私は“気鬱、白濁す”のAメロと間奏が今まで弾いたことのない指の形だったので、オーディション中に腕を痛めてしまって(笑)。でもそのおかげでフォームがきれいになったので痛めることもなくなって、今ではやってよかったなと。


──『棘ナシ』に収録された新曲2曲の印象はどうでしたか。

夕莉 “闇に溶けてく”は理名ちゃんの歌声も、Aメロやギターソロでのキーボードとの絡みもすごくきれいなので、ライブでも注目して聴いてもらえたら嬉しいです。

朱李 上物がきれいで爽やかな印象だし疾走感もあって。そこを崩さないようにリズム隊は頑張らねばという気持ちです。

理名 曲調もすごく私好みで、早くライブでもやりたいお気に入りの曲です。

夕莉 “蝶に結いた赤い糸”はアコギが主役で使われていて、他の曲と違った雰囲気が出せるんじゃないかと。

朱李 音数も少なくてテンポも遅めなので、なるべく走らずにドラムと息を合わせてノリを作っていきたいと思います。

理名 少ない言葉でゆっくり歌うのが逆に難しかったですけど、桃香が仁菜に歌ってもらいたくてこの歌詞を書いたと考えると、ホロリときそうな曲です。

声優がやってるリアルバンドという印象も強いと思うんですけど、リアルの私たちの魅力もたくさんの人に届けたくて。アニメから入った人にもバンドを好きになってほしい(夕莉)


──これまでの楽曲や演じたキャラクターを通して、リスナーにどんなことを伝えられていると感じますか。
夕莉 音楽に限らず好きなことを全力で頑張っている人に刺さる言葉がたくさん出てくるので、そういう人にぜひ観てもらいたいですし、リアルのトゲトゲをバンドとして聴いてもらってもかっこいい曲がたくさんあって、幅広い人に楽しんでもらえるんじゃないかと思います。 

理名 訴えかけるような、若い世代からの叫び……大人にはあまり直接言えないようなことが込められた曲や、辛いときに寄り添ってくれる曲、側にいてくれる曲もたくさんあるので、いろんなシーンで聴いてほしいです。


──特にみなさんや作中のキャラに近い世代には、とてもリアルな心象だと思います。そしてアニメの放送自体は終わりましたけど、これ以降もみなさんの活動は続きます。今どんな展望を抱いてますか。

夕莉 アニメから知ってくださった方が多いので、声優がやってるリアルバンドという印象も強いと思うんですけど、リアルの私たちの魅力もたくさんの人に届けたくて。アニメから入った人にもバンドを好きになってほしいです。 

朱李 アニメのライブシーンがすごくかっこいいので、実際のライブで「アニメのほうがよかった」と思われたくなくて。絶対にアニメ以上にかっこいい演奏を届けたいですし、リアルの私たちをまだ知らない人もいらっしゃると思うので、もっと知ってもらえるように頑張りたいです。

夕莉 これからはリアルの私たちとして活動していきますけど、そこにもキャラクターを演じたからこその影響もあるので。アニメが終わったからといってさよならというわけではなく、一緒に進んでいってる感覚はあります。

理名 ツアーとか、いろんなところでライブもしてみたいし。

朱李 野球が好きなので、ドームとかスタジアムでもライブをしたいですね。

夕莉 アニメを観て海外からメッセージをくれたり応援してくれる人もいるし、日本だけじゃなく世界でもライブをできるようになれたらいいなと思ってます。

理名 アニメだけで終わりたくない気持ちはもちろんあって、私たちはアニメに先行してバンド活動をやってきて、メンバーはずっと音楽に触れてきているので、私たちの音楽の魅力やライブの楽しさをより多くの人に知ってもらいたいですし、そこに憧れて楽器を始めたり軽音楽部に入ったりとか、そういう目標の存在になれたらなと思います。

●リリース情報

2nd Album『棘ナシ』

発売中

●ツアー情報

2nd ONE-MAN LVE『凛音の理』

日時:2024年9月13日(金)
時間:OPEN/17:00 START/18:00
会場:川崎・CLUB CITTA' 

提供:ユニバーサルシグマ
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部