a flood of circle@日比谷野外大音楽堂

 晴天に恵まれ一層と春めいた野音を乱舞するロックンロール。「Tour I’M FREE “AFOCの47都道府県制覇!形ないものを爆破にしにいくツアー/行けばわかるさ編” TOUR FINAL」と題されたa flood of circle初の日比谷野音ワンマンは、予め映像化を発表していた意気込みを正しく音に宿し、転がり続けるバンドの最新最高の姿が刻まれたメモリアルなライヴとなった。

 “Rock And Roll Music”や“Roll Over Beethoven”といったロックンロール・クラシックが流される開演前時点で、バリバリと低音の効いた出音の良さに期待が膨らむ。そして、定刻を少しまわって登場したバンドが最初に鳴らしたのは、アルバム『I’M FREE』のオープニングにしてタイトルトラック“I’M FREE”。各楽器の音がしっかりと分離し、適切な音量をもって叩きつけられる。つまり、音が良い。新譜で佐々木亮介(Vo,Gt)が新たに手にしたトーキング・ブルーズ・スタイルの歌唱とじわじわ音圧を増していく演奏とがかけ合わさり形成されるささくれ立ったガレージ・サウンド。ライヴ後半に佐々木も「全県ツアーって大変だよ?やる前は先輩のバンドから解散するぞって言われた。失踪でしょ、脱退でしょ、次は死ぬか解散だと思ってた」と冗談めかして語っていたが、47都道府県をまわるこの壮絶なツアーで得た経験値が、一発で伝わってくる演奏だ。続く2曲目は、“ロックンロールバンド”。エンジン全開である。リズムの芯を食った気持ち良いグルーヴを、オーディエンスの振りあげた拳が益々着火していく。しかし、何という曲か。不滅の象徴のようなロックンロールを直接的に歌いながら、《今日が最後かもしれない》と言い放つアンビバレンスな覚悟。ロックンロール・バンドであることに誰より拘ってきた彼らだからこそ出てきた言葉だろう。そして、曲を締めくくる《ベイビー これで終わりだ さよならベイビー それが始まりだ》というリリック。今になって振り返れば、結果的にこの言葉が今日のライヴを最も端的に物語っていたかもしれない。3曲目は、『I’M FREE』中でもメロディック寄りの曲のはずが、渡邊一丘(Dr)の爆発するようなシンバルと、そんなド派手なドラムを容赦なく前へ前へと誘うHIASYO(Ba)のベースに導かれえらく尖った音像で放たれた“Diamond Rocks”。最新作の曲がどんどん進化していくというのは現在進行形のバンドとして頼もしい限りである。佐々木の「イエー!辿り着いたぜ野音!晴れたね。今日は最高の夜にすることを約束します」と簡素にしてこれ以上ない煽り文句に続いたのは、USハードコア調のハイ・スピード・ナンバー“God Speed You Baby”。5曲目は間奏におけるブルーズ・セッションが不敵な歌詞の世界観を引き立てた“KINZOKU Bat”。ここまでほぼノンストップで駆け抜け、気が付けば野音の空もすっかり日が陰っている。しかし、そんな全力疾走をここで止めるどころか、バンドはさらに大きな爆弾を用意していた。曽根が爪弾き始めたのは、一瞬耳を疑うようなリフ。いや、間違いない、ブラック・サバスの“Iron Man”である。あの重力100倍の世界で鳴っているかのような音をかなりの精度で再現する演奏に乗り、自由にアジり倒す佐々木の姿がどえらく格好良い。先達へのリスペクトと、今日の自分の表現とを何の混じり気もなく一体化させられていることが分かるスペシャルなカヴァーだった。

 ライヴ中盤のハイライトは、タイトなリズム・キープが支配するクールなグルーヴが際立つ柔の良曲“オーロラソング”、横ノリのリズムとファンキーなギター・カッティングがダンス・タイムを創出した“僕を問う”、そして4月9日にリリースされたばかりの両A面シングル表題曲“KIDS”だった。ステージ左端で異様な存在感を放ちながら鎮座し続けていたドラをHISAYOが撃ち抜き曲がスタートすると、オーディエンスはここまでで一番の盛り上がりを見せる。それもそのはず。「ナナナ」というキャッチーなコーラス、羽根が生えたような軽やかなリズム、そして《ばかになれ Sundance Kids》という振り切れたリリックと、多様なフックを満載したこの曲は、どう控え目に見てもバンド史上最高に軽快なロックロール・アンセムだ。演奏前にはツアー中に書かれた曲だと述べられていたが、まさにこの曲には『I’M FREE』というアルバムとその後のツアーを経たからこそ生まれたのだ。A flood of circleは、シーンに登場したときからとにかくロックンロールへの愛を滾らせたバンドだった。村八分、ルースターズ、サンハウス、シナロケ、スライダーズ、ミッシェル、ブランキー、キンブラ、モーサム……連綿と続く日本のロックンロール・バンドの系譜に自らが名を連ね、その高峰を越えるトライアルに挑めることを誇り、喜ぶ、その無垢な情熱が嫌味なく魅力となる稀有なバンドだ。しかし、『I’M FREE』において鳴らされていたのは、そうした偉大なる過去の継承と挑戦とを目的としたこれまでから、未開の未来へとさらに一歩踏み出した音だった。だからこそ、これまでに自分を含め誰かがやったことのないヴォーカリゼーションに、メロディに、アレンジに、臆することなく手を出すことができ、バラエティに富みつつも一貫した前傾姿勢によってムードが統一された最高傑作へと仕上がったのである。ロックンロールへの憧れという鎖から解放され、逆に「どんなロックンロールでも新たに始められる」という状態に辿り着いたのだ(そう、前述した“ロックンロールバンド”の歌詞はそのことにバンド自身が誰より自覚的であることを告げている)。それが生んだ象徴こそ、この“KIDS”ということなのだろう。本当に粗暴で軽薄で、だからこそ美しいロックンロールだ。

“KIDS”ですっかりスイッチが入り、ここからはもう手のつけられない狂騒の時間に突入。“Human License”~Dancing Zombiez~“プシケ”とほぼシームレスにキラーチュ-ンの乱れ打ちである。ライヴ終盤にして曲を重ねる度に音圧が目に見えて上がっていくのが凄まじい。各曲中、何度でも煽る佐々木と、それに応え何度でも興奮の絶頂点を更新するオーディエンス。演奏を止めると、客席から野太い声で次々「ロックンロール!」という叫び声が上げられる。万物を肯定し祝福するロックンロールという理想の「場」が確かにここに現出している。

 「言いたいことは全て次の曲に託す」という佐々木のMCが一層重みを加え、《生きていて》という万感の絶唱が聴く者の心を深く揺すった“感光”の後、嬉しいサプライズが。勝手にしやがれのホーン隊の4人がステージに招かれたのだ。そして演奏される“理由なき反抗(The Rebel Age)”。この記念すべき日を自ら祝福するかのようなゴージャスかつルードなサウンドの美味しさといったら。ロックンロールにおけるパーティ・マナーを頭でも体でも理解している両者だからこそ、まるで初めから1つのバンドであったかのように完璧に順応してしまう。そしてそのまま8人で鳴らされる本編最後の曲は、最強の飛び道具“Beer! Beer! Beer!“だ。先の曲ではステージ横に並んでいたホーンズ4人が、前に出てバンドのフロント3人と並び立ったその様からも、あらゆる音が有機的に混ざり合うその出音からも、どうしようもなく多幸感が溢れ出るフィナーレだった。

 アンコール冒頭には、佐々木の口から7月の16~18日にかけて東京キネマ倶楽部を会場に3デイズのライヴが行われることが告げられる。今のようなモードに入った以上、もう止まっている暇はないということなのだろう。そして、ホーン隊に続きキーボーディストとして勝手にしやがれから招かれた斉藤淳一郎と共に歌われる、最新シングルのもう1つの表題曲“アカネ”。“KIDS”を評して「バンド史上最高に軽快なロックンロール・アンセム」と書いたが、この曲もまたバンド史上最大にスケールの大きいバラードとなっている。5人で丁寧に音を紡いでじっくりと想いを吐き出し切った後、はもちろん再びパーティの時間だ。勝手にしやがれホーンズが再びステージ・インし、“Sweet Home Battle Field”が放たれる。ホーンズ4人がソロをまわすそれだけで、音の豊かさに気分が上がる。それはバンドも同様のようで、佐々木は今日初めてギターを置いて片手タンバリンのハンドマイク。普段置かれる年長者としての立場から解放された曽根もまた、フリーキーに暴れ狂うソロを弾き倒す。やはりこの9人、素晴らしいバンドである。アンコールの終わりは、4人に戻っての“シーガル”。「俺達とあんた達の明日に捧げます」と言って曲を始めた佐々木は、最初のサビをオーディエンスに丸々委ねる。そして、ガイドなしにオーディエンスが各々思い思いに歌う声を耳にし、嬉しそうに笑った。ロックンロールという概念は、孤独な個を孤独なまま集め、認め、祝福する。このバンドは、意識的にも、恐らく無意識的にさえ、それを可能な限り完璧な形でやろうとしているのだ。たとえ1発で届かなくても、何回だってやり直しながら。愛すべき、そして誇るべきロックンロール・バンドである。(長瀬昇)

セットリスト
1 I’M FREE
2 ロックンロールバンド
3 Diamond Rocks
4 God Speed You Baby
5 KINZOKU Bat
6 Iron Man
7 Blues Never Die(ブルースは二度死ぬ)
8 俺はお前の噛ませ犬じゃない
9 Blues Drive Monster
10 The Future Is Mine
11 オーロラソング
12 僕を問う
13 KIDS
14 Human License
15 Dancing Zombiez
16 プシケ
17 感光
18 理由なき反抗(The Rebel Age)
19 Beer! Beer! Beer!

EN1 アカネ
EN2 Sweet Home Battle Field
EN3 シーガル