electrox 2015 @ 幕張メッセ

昨年に引き続き、新春ダンス初めとして幕張メッセで華々しく繰り広げられた、electrox 2015。エントランスからフロアに降り立つと、イヴェント・ロゴのCGグラフィックが踊る、巨大なピラミッド型の多面体オブジェが出迎えてくれる。ステージは昨年と同様、大小4つ(electrox STAGE、SONIC BEATS STAGE、SUNRISE STAGE、IBIZA STAGE)が14時過ぎに順次稼働し、とりわけ位置とサイズが大きく変わった最大キャパのelectrox STAGEは、DJブースの前面と背景、ステージ左右、そしてフロアの宙空にもLEDパネルが仕掛けられ、ダンス・ミュージックとシンクロする強烈な視覚効果を生み出していた。

14:00の開演と同時に音が鳴り出したのはIBIZA STAGEで、こちらには計7組のDJアクトが出演。ステージ・サイズ自体は最も小さいのだが、オフィシャル・バーの立ち並ぶエリアに向かってオープンな構造になっており、セクシーなダンサー達も登場して来場者をガンガン巻き込む。electrox STAGEにはフラッグを振り翳して煽り立てるDAISHI DANCEの質実剛健なテック・ハウスが、SUNRISE STAGEではDJ WILDPARTYによるカーリー・レイ・ジェプセンなどのヒット曲を絡めた歌モノ・ミックスが、そしてSONIC BEATS STAGEではYAMATOのターンテーブリズムが光るプレイが繰り出され、まずは彼ら邦人アクトが来場者の身体を温めてくれるのだった。

海外勢最初のアクトは、ドイツのロビン・シュルツ。昨秋『Prayer』でアルバム・デビューを果たしたハウス・プロデューサーだ。華やかさを備えながらも、抑制が効いて磨き込まれたビートはジャーマン・エレクトロの系譜を感じさせる。クライオマン(KRYOMAN)はマイアミ・ベースのバウンシーなトラックを核に、デッドマウスからミッシー・エリオットとミックスして米国産EDMの成熟を感じさせるサウンド。LEDに煌めくロボット・スーツを登場させるショーマンシップも楽しく、UKドラムンベースの息遣いを今日に伝えるシグマへとバトンを繋いだ。2015年もきっちりとスタイルをアップデートさせた☆TAKU TAKAHASHIは、変わらぬ現場感覚を受け止めさせる信頼感抜群のプレイだ。

来場者が続々と詰めかけてフロアを埋めてゆく時間帯に、electrox STAGEを担うのはイタリアの兄弟デュオ=ヴィナイ。いきなりブースに乗り上がって煽りまくり、豪腕バウンスのプレイから盛大なコール&レスポンスに持ち込む。ここからカナダのフレッシュ・パワー=ダヴズ(DVBBS)へと連なる、ギラギラとしたエネルギーに満ちた現行EDMのリレーは、若い世代の有り余った力を掬い上げる熱い時間帯だった。一方、SONIC BEATS STAGEは、ひんやりと透徹したビートでベース/トラップを繰り出すバウアー(Baauer)。煌めきのエレクトロ・ハウスでヒット・チューン“Starlight (Could You Be Mine)”も投下するダッチDJ=ドン・ディアブロ。続いてもオランダ勢で、ニコ&ヴィンス、ジョン・レジェンド、マジック!らの2014ヒットをダブステップ・ミックスに仕立て上げるクインティーノらが、メインストリーム・ポップに影響を及ぼすダンス・ミュージックの現在を伝えてくれていた。

さて、ロック・ファンとしては、この後のSUNRISE STAGEはやはり見逃せない。個人的にはディスクロージャーの来日公演に帯同して以来となる、アルーナジョージのステージだ。アルーナは決して力強い歌声で迫るタイプのヴォーカリストではないけれども、“Kaleidoscope Love”や“Best Be Believing”といったナンバーでキュートかつ甘い節回しを響かせつつ、サポートの生ドラムに後押しされて躍動するチル感が心地良い。腹出し衣装でステップを踏むパフォーマンスも、前回観たときより堂々としていた。ジョージは、プログラミングも用いてはいるのだけれど、それ打ち込みでも良くないか? というシンセ・フレーズまでがっちりと手弾きしていて、静かにバンド・アクトとしての意地を見せてくれていた。

続いては、昨年サード・アルバム『ラヴ・フリークエンシー』をリリースしたクラクソンズである。2013年のSONICMANIA以来となる日本でのステージだが、彼らは現在行っているワールド・ツアーがバンドにとって最後のツアーとなることを公表している。フロアからもファンの心情が透けて見えるような熱気が感じられた。ファルセットのハーモニーを効かせ、オリジナリティ溢れるメロディ・ラインと歌詞で「踊らせる」という、ニュー・レイヴの旗手たるクラクソンズのアプローチは健在だ。というか、ライヴでのクラクソンズは相変わらず、生まれたてのパンク・バンドのようにヨレヨレとしていて、時折プリミティヴな熱気を孕んでいる。“Show Me a Miracle”のような新作曲でさえそうなのだから驚かされるが、そもそもこの、バンド・アクトとしてのギリギリのダンス性こそが、クラクソンズの約束であり神話だったのだと思わずにはいられない。過去作のナンバーもたっぷりフィーチャーし、集まったオーディエンスの歓喜と歌声を誘うパフォーマンスだった。1月6日には渋谷クラブクアトロで、翌1月7日には梅田クラブクアトロで単独公演も行われるので、ぜひ見届けて欲しい。

electrox STAGEのクライマックスには、まずUKトランスのベテラン、アバヴ・アンド・ビヨンドが登場。美麗なこと極まりないアンビエンスから立ち上がり、胸熱の歌詞メッセージをスクリーンに大写しにしながら、いつしか大音量リフレインでオーディエンスを沸かせているという貫禄のプレイだ。SONIC BEATS STAGEのトリには、ディプロが登場して衰え知らずの鋭利なダンス・ビートを高速ミックスする。個性とスキル、そして現行シーンへの訴求力と三拍子揃ったプレイは流石だった。大トリには、ダッチ・トランスの王たるアーミン・ヴァン・ブーレン。腕に装着したコントローラーで照明演出を自ら制御するわ、『天空の城ラピュタ』の“君をのせて”をジェントルにミックスするわ、スマイルやポーズもいちいちサマになるわでグウの音も出ないパフォーマンスである。何より、一貫して華やかなサウンドとビートに彩られながら、上品な温かさにも満ち抱擁力と跳躍力を兼ね備えた表現は、加熱するEDMシーンの中で彼の人間性をクッキリと伝えるものであった。

本来はここでフィナーレを迎えるはずだったのだが、出演時間の変更があって、SUNRISE STAGEのアンカーを務めることになったクリーン・バンディットを最後に観る。ストリングスやウインド・シンセを用いながらクラシカル/トラッド風の味わい深い旋律が溢れ出し、その旋律がファンキーなバンド・グルーヴとがっちり手を取り合うという、音楽の過去と未来に同時に手を伸ばすようなユニークなダンス・ポップ・アクトだ。観ることが出来て良かった。彼らも、1月6日に恵比寿リキッドルームで単独公演を行う。

昨年、ULTRA JAPANとして日本上陸を果たしたウルトラ・ミュージック・フェスティヴァルが、現行EDMシーン(とりわけUSスタイル)の熱狂をそのままパッケージして伝えるフェスだとすれば、electroxは古今東西の多種多様なダンス・ミュージック/カルチャーを愛する日本人の感性が、鮮やかなモザイク模様を描いてみせる、そんなブッキングになっていてとても興味深い。今後も日本の、日本らしいダンス・カルチャーを育んでくれることを期待したい。(小池宏和)