all pics by Viola Kam (V'z Twinkle Photography)キュウソネコカミのライヴを観て、笑ったり興奮したりしたことは何度もあるが、これほどまでに目頭と胸を熱くさせられたのは初めてだった。楽曲をプレイして盛り上げる技術だけでなく、これからの活動ヴィジョンと意志を高く掲げて一夜を駆け抜ける、美しいライヴだ。ミニアルバム『ハッピーポンコツランド』のリリース翌日、1/15の大阪から全国10公演で繰り広げられたツアーの、追加公演にして11本目「DMCC -REAL ONEMAN TOUR- EXTRA!!!~Don’t Make ChoColate~」。ワンマン史上最大キャパとなる豊洲PITである。公演サブタイトルに掲げられているとおり、来場者からのバレンタイン・チョコの差し入れは遠慮してもらうというアナウンスがあり、代わりに終演後、来場者には逆チョコをプレゼントするというユニークな趣向も凝らされていた。
オープニングMCが登場して注意事項に触れつつ、会場の壁面に貼り出された「楽しくても思いやりとマナーを忘れるな」というヤマサキ セイヤ(Vo・G)直筆のメッセージをオーディエンスと一緒に読み上げると、いよいよ本編の開演だ。某エレ○トリカル・パレードにそっくり(メロディは違う)のSEに乗って、5人が姿を見せる。ヤマサキによる「ハッピーポンコツランドにようこそおーっ!!」というシャウト一閃、のっけからヨコタ シンノスケ(Key・Vo)のシンセ・フレーズが力強く煌めく“GALAXY”が、彼方にまで届けとばかりに繰り出されていった。続いてヤマサキが頭に手拭いを乗せると、ゴリゴリと爆走するアンサンブルがオーディエンスの「huh—!!」「yeah—!!」といった熱いコールを導く“OS”。オカザワ カズマ(G)によるダビーなディレイが効いたギター・プレイも鮮やかだ。3000人超が一斉に「空芯サーイ!」の声を上げて転がり出す“空芯菜”の一体感も、凄まじくて思わず笑ってしまう。キュウソのヴォルテージに全力で食らいつこうとする意志が、透かし見えるようだ。



「豊洲PITで追加公演が決まったってときに、アホかー!と思って。同じ日に、スタジオコーストでゲスの極み乙女。があんねん。あいつらの人気知らんやろ!って。(追加公演チケットが)売り切れって聞いたとき、全員でガッツポーズしたよなあ?」と、身振りを交えて飛ばしまくるヤマサキである。“たば狂”、“貧困ビジネス” 、そして“要するに飽きた”(この曲の途中で唐突にスウィングし始める、カワクボ タクロウのベース・フレーズがかっこいい)といったふうに、生活の中の抜き差しならない悲哀をオーディエンスの身体に直接叩き込むと、「……親孝行しとけよお前ら。やれるときにやっとけよ。大学出て社会人になったら、親に会えるのはあと50日ぐらいやぞ。わかるか? お金じゃないねん。気持ちだけでええねん」「変化球で、手紙出してみるとか。俺は、ツムツムのハートが来るけどな(笑)。ラジオの収録中に来るけどな。今のおもんないぞ、とか」「あともうひとつ、人生がどんなに面白くなくても、金だけは借りるな。消費者金融に借りるぐらいなら、親に頭下げろ。じゃないと、大変なことになるぞ。そういう曲を、今からやる」と告げて、“勇者ロトシック”に向かう。泣き笑いに満ちたキュウソの歌には、いつだってシャレでは済まされない切迫感が込められているのだ。
スウィートで滑らかなディスコ・グルーヴに、ややこしさをすっ飛ばした死生観を乗せる“なんまんだ”を披露すると、今度は稲川淳二よろしく、不穏なSEの中で怪談を始めるヤマサキ。深夜に自宅の呼び鈴が鳴らされ、窓から覗いてみると、ドアの前に立っていた小学生が……というネタを、唐突な大声を交えながら話す(ヨコタに褒められたらしい)。そんな前フリから「『ハッピーポンコツランド』で一番ヤンチャな曲」と“Scary song”を切り出す。途中、パフォーマンスが寸断されてステージの幕が閉じ、不気味な音が鳴り響き……演奏再開と同時に幕が開くと、仮装したオカザワが、中央でギターを搔き鳴らしている。その周囲を跳ね回っているのは、オカザワとはまた違う衣装に身を包んだヤマサキだ。確かに怖いは怖いけれども、シュール方面の笑いが込み上げてしまう。
スタッフの携帯着信音が響き渡ってステージ上で通話を始めてしまい、「あー今日? ごめん、チョコ作ってない(スタッフは男性である)」「えー、それはちょっと……分かった、言うよ。愛してるよ」とラブ・コールを送って喝采を浴び、この日ばかりは全然ファントムじゃないリア充な“ファントムバイブレーション”。「ここにいる3100人、全員連れて次のステップに行きたいんじゃ!」「倒れてる人を無視してまで、踊って欲しくないわ!」と執拗に安全を求めながら盆踊りサークルを生み出す“KMDT25”。そしてヤマサキがオーディエンスに支えられながら歌うのは“DQNなりたい、40代で死にたい”。オーディエンスにはそれぞれが頭上で手を打ち鳴らす「一人ウォール・オブ・デス」を要求し、「本当のことを歌って、売れてやるー!!」と喚き散らすヤマサキの姿があった。メジャー進出して、より多くのファンを獲得するバンドの責任感。そして、ファン全員を安全に楽しませるためには好き勝手に暴れるわけにはいかないという、引き裂かれるような葛藤。それらをひしひしと感じさせながら、手探りで熱狂を摑み取ろうとする姿は、余りに美しかった。

芯の強いソングライティングを存分に引き出す“何も無い休日”の名演など、本編終盤に辿り着く頃には、観る側としても感動のスイッチが入りっ放しになってしまって少々困った。アンコールに応えると、ヤマサキが「今回のツアーは、ポンコツのスタッフに囲まれて幸せでした」と語りながら、ソゴウ タイスケ(Dr)のドラムがピカピカと光を放ち、しょっぱい人生を丸ごと肯定するような新曲“ハッピーポンコツ”を届ける。コメディ・タッチのドラマかアニメの映像を喚起してしまうようなナンバーで、オーディエンスの一斉ジャンプも巻き起こされていた。“お願いシェンロン”でお馴染みの筋斗雲パフォーマンスを(これまた慎重に注意を促しながら)敢行するヤマサキは、ステージに戻りながら「キュウソネコカミのブルースを聴いてくれ!」と、短い新曲を歌う。《私は歩く、人の上を〜♪/思いやりとマナーを考えながら〜♪》(筆者聴き取り)というその歌は、熱狂と安全の狭間で抱える葛藤さえも歌にしてやろうとする、そんな一曲であった。そして“ビビった”を叩き付けると、バンド・メンバーとスタッフが最後までオーディエンスを気遣いながら、大団円の記念撮影を行う。どこまでも熱く、ピースフルなステージは、こうして幕を閉じた。(小池宏和)
■セットリスト
01.GALAXY
02.OS
03.テレキャスばっか
04.空芯菜
05.JP
06.たば狂
07.貧困ビジネス
08.要するに飽きた
09.勇者ロトシック
10.たまにいるタラシくん
11.なんまんだ
12.Scary song
13.ファントムバイブレーション
14.KMDT25
15.DQNなりたい、40代で死にたい
16.カワイイだけ
17.何も無い休日
18.ウィーワーインディーズバンド!!
19.良いDJ
(encore)
20.ハッピーポンコツ
21.お願いシェンロン
22.新曲
23.ビビった