40分の休憩時間を挟み、第2部が始まる。冒頭、杏子が登場し、この第2部について「それぞれのミュージシャンが山崎とやりたいことをやる」時間であると紹介する。その言葉通り、自作曲、カヴァー曲を問わずに、山崎を祝いながらも各々がのびのびとプレイしている様が観ていてとても気持ち良かった。各アクトの特筆すべき点を中心にレポートしていく。
山崎はドラムを担った(あらきゆうことのツインドラム)1曲目の長澤知之作曲“ねぇ、もっと”では長澤の轟音ソロがスタジアムロックの如きスケールの音像を描いていく。長澤に代わり、さかいゆうをバンドに入れ、2曲目“Flamingo Rose”では、さかいがグイグイとリズムを引っ張り、ラテン調のダンスナンバーならではのビートを弾けさせた。曲により最適なメンバーを揃え、最高のプレイを引き出す、杏子のバンドマスターとしての地力の高さが良く出たライヴだったと思う。
「山さんがよくするカヴァーの中でセッションしたら楽しそうな曲を選んできました」といって演奏したのはスティーヴィー・ワンダーの“Superstition”! 曲間の山崎の超絶ギターソロに対し、あっさりと引けを取らないソロを返してしまったさかいゆうの手腕に圧倒させられた。
仲井戸“CHABO”麗市のカヴァー“ホームタウン”では日本語ブルーズの先達へのリスペクト、自身の“バス待ち”ではブルーズのフィーリング、そして、西慎嗣の持ち歌“Sunset Blues”ではブルーズロックのハードさ。岡本定義、西慎嗣、山崎まさよしという3人の達人によって、様々なアングルからブルーズが掘り起こされていく。それぞれがどう楽器を持ち替えても全体像がぶれない演奏力も、見事の一言。
杏子のカヴァー“Sonnet#9”と自身の“Train run”の2曲で、ドラムではなくヴォーカルとして、しっとりと、在るべき場所に音を置いていくような自然さで歌を紡いだあらき。ここまでのブルーズやソウル、ファンクに根差していた流れをガラッと変える、モダンなポップスが第2部中盤の清涼剤として機能していたように思う。ポストロック的な音響が築かれた“Train run”で、タンバリンを自在に活用して曲世界の構築に貢献した山崎のプレイも素晴らしかった。
ピート・シーガーの楽曲に中川五朗が訳詞を付けた“腰まで泥まみれ~Waist Deep in the Big Muddy~”、ビートルズの“We Can Work It Out”とカヴァーを連発。しかしこの人の場合、どんなナンバーであっても、そのあまりに独特なヴォーカリゼーションによって完全に自分の歌にしてしまう。最後に歌った“名前のない鳥”を含め、「元ちとせの3曲、3つの歌唱」をオーディエンスの頭にしっかり刻みつけた。
1曲のみ、しかもそれが自作曲ではなくビートルズ“Lucy In The Sky With Diamonds”のカヴァーだったのだが、これが歪みに歪ませた時空の中を会場丸ごと飲み込んで彷徨うようなサイケデリアを現出させる、とんでもない出来だった。リズムの軸を支える山崎と、空間を切り裂く長澤の、それぞれのギターの対比も完璧な相性を見せた。
「僕、山さんがいなかったら音楽をやってなんかいない」という言葉通り、自分の持ち時間に自分の曲を演奏していてもやはり山崎への愛と敬意がほとばしる浜端。山崎の晴れの舞台を飾ろうという意識も人一倍強かったのであろう、192cmという自身の高身長をネタにしたコミカルな“大男のブルース”でも、音楽への感謝が込められたアンセミックな“MUSIC!!”でも、その熱量は胸を打つものがあった。
2人の弾き語りによる“アイ”では、秦と山崎の極上のハーモニーがめっきり暗くなった会場を包み込む。一転し2人ともエレキに持ち替えた“FaFaFa”では、バンドサウンドが加わったカラフルでアッパーなグルーヴでオーディエンスを揺らしていく。最後は必殺の“ひまわりの約束”。余計な音、アレンジを盛り込まないシンプルな演奏が今の秦の自信を静かに物語っているような、貫禄さえ漂うステージングだった。
曲が始まった瞬間、一斉にハンドクラップが巻き起こった“ガラナ”。疾走感に満ちたポップスが、改めてオーディエンスに火を点けていく。2曲目はスティングの“Englishman In New York”のカヴァー。真っ直ぐに伸び渡る大橋卓弥(Vo・G)と山崎のそれぞれの美声が絡み合う様が何とも美しい洒脱な演奏だ。山崎への憧れからオフィスオーガスタに入りたいと思ったという2人の喜びが、気合の入ったプレイにしっかり表れていた。
第2部の最後に登場した竹原ピストルは、山崎へしたためた手紙を読み上げ始める。語られたのは、かつて野弧禅としてメジャーデビューした時、状況の変化に戸惑い、親交のあった山崎に「メジャーって何なんでしょうか」と悩み相談したところ、おもむろにギターのコードを鳴らし「これがメジャーセブンじゃ!」と返され、良い意味で開き直ることが出来たというエピソード。トム・ウェイツばりのディープなブルーズアレンジで山崎の“未完成”をカヴァーした最後に、山崎への祝福を込め「メジャーセブン」を鳴らし返した様が微笑ましくも感動的だった。
メインステージでの2回目の休憩に合わせて、サブステージ「BBQステージ」で演奏を始めたのは音の旅crew。「オルタナティヴ・レゲエ」を標榜する4ピースだ。ルーツレゲエを起点としつつ、ダンスホールレゲエとは別の方向、つまりロックやパンクに接近する形で情報量を増したサウンドスタイルで、集まったオーディエンスを揺らした。
●セットリスト
《第1部》
01. 僕はここにいる
02. 六月の手紙(with 浜端ヨウヘイ)
03. 妖精といた夏(with 長澤知之)
04. ア・リ・ガ・ト(with 竹原ピストル)
05. 花火(with COIL)
06. ツバメ(with 秦基博)
07. セロリ(with スキマスイッチ)
08. Fat Mama(with さかいゆう)
09. Let’s Form a R&R band(with ALL CAST)
《第2部》
・杏子
01. ねぇ、もっと
02. Flamingo Rose
・さかいゆう
01. Superstition
02. 僕たちの不確かな前途
03. ジャスミン
・COIL
01. ホームタウン
02. バス待ち
03. Sunset Blues
・あらきゆうこ
01. Sonnet#9
02. Train run
・元ちとせ
01. 腰まで泥まみれ~Waist Deep in the Big Muddy~
02. We Can Work It Out
03. 名前のない鳥
・長澤知之
01. Lucy In The Sky With Diamonds
・浜端ヨウヘイ
01. 大男のブルース
02. MUSIC!!
・秦基博
01. アイ
02. FaFaFa
03. ひまわりの約束
・スキマスイッチ
01. ガラナ
02. Englishman In New York
03. マリンスノウ
・竹原ピストル
01. 未完成
《第3部》
山崎まさよし
01. アドレナリン
02. アレルギーの特効薬
03. 晴男
04. ガムシャラバタフライ
05. パンを焼く
06. ドミノ
07. Flowers
08. 振り向かない
09. One more time, One more chance
10. 月明かりに照らされて
(encore with ALL CAST)
11. 21世紀マン
12. 根無し草のラプソディー2015
13. 星のかけらを探しに行こう Again