all pics by NoboruMiyamoto「埋まってみると結構いっぱいね。Zeppちっちゃいなと思ってたんだけど。人がいないと、どこのハコも小さく見えるんで……え、2000人? 2000人いんの? なんか、市でも作ろうか(笑)。村ぐらい作れそうですよね?」。熱気あふれるソールドアウト満場のZepp DiverCityに、序盤からマイペースに語りかけるコムアイ(主演・歌唱)の言葉が、ステージとフロアの境界線をあっさり無効化し、ポップ共犯関係とでも呼びたいくらいの一体感を作り上げていく――。
最新アルバム『ジパング』リリースとそのツアーで鮮やかに2015年を締め括ってみせた水曜日のカンパネラが、大阪:BIGCATワンマン「NANIWA!」(2月24日)に続けて東京:Zepp DiverCityで開催したワンマンライヴ、その名も「OEDO!」。昨年11月の赤坂BLITZワンマン(
http://ro69.jp/live/detail/135621)と同じく『ジパング』収録曲全10曲を盛り込みながら、まったく異なる空気感を演出してみせたステージの中に、さらなる成長への意欲を覗かせていた、充実のステージだった。
正面に円形ヴィジョン&一段高くなった足場に側面のLED装飾が施され、両袖には金色のオブジェが設えられた舞台に現れたコムアイ、開演の瞬間を待ち侘びたZepp DiverCityのフロアを冒頭からアゲ倒す――かと思いきや、アンビエントな“西玉夫”の音像を泳ぐように艶やかな歌を聞かせ、“ウランちゃん”の激烈ダブステップをアグレッシヴなシャウトとともに体現し、カラフルな前衛舞踏の如きアート空間を構築してみせる。オーディエンスの驚きや当惑までも謳歌するかのように、“ユタ”まで一気に駆け抜けた後、「うわー、すっごい人! マラソン走りきったばっかりの、疲れ果てた身体で来てくれて、ありがとうございます!」とライヴ当日に行われていた「東京マラソン2016」をネタにしてコムアイが呼びかけると、魔法が解けたように安堵の笑いと歓声が広がる。
このワンマンの2日前に『ミュージックステーション』に出演、アイデア満載の演出で話題を集めていた水曜日のカンパネラ。「今週はいろいろありすぎて……私的にはちょっと、アンコールみたいな感じで、『Mステ』の(笑)。ご褒美みたいな感じで、今日のライヴは好きにやろうと思いますので」と言いつつ、「ここからはもう、わかりやすい歌で攻めていこうと思いますんで。わかる歌詞があったらどんどん歌ってください!」という言葉通り、“猪八戒”から“小野妹子”、さらに「ちなみに今日、うちの親が来てます!」というMCでフロアを沸かせたところから“ライト兄弟”、「ヤフオク」CMでお馴染みの“ツイッギー”へ――といったアッパーな展開に、会場の熱気は一気にパーティー感を増していく。
ハウス/テクノ/ヒップホップ/エレクトロなどのテクスチャーを駆使したクールで鮮烈なサウンドや、ウィットとユーモア過積載の詞世界も含め、作曲・編曲担当:ケンモチヒデフミ&「それ以外」担当:Dir.Fのクリエイティヴィティが躍動しまくっているのはもちろんのこと、そんな水カンワールドに面白さ/眩しさ/感激を与えることができるのは他でもない、メンバーとして唯一ステージに立つコムアイ自身の弾けまくったセンスと、天真爛漫なキャラクターがそのまま最高のパフォーマンスになっていくような表現力そのものだ。ということが、“ツイッギー”アウトロでセグウェイ乗り回したり、衣装チェンジの後で流れ込んだ“ナポレオン”で御輿に乗って観客の間を練り歩いたりする彼女の姿から、よりいっそうリアルに伝わってくる。
さらに、続く“モスラ”では2階席に現れたかと思うと、“桃太郎”では透明バルーンボールに入った形で登場、2000人の観客の頭上で大玉転がし状態に! 「♪きびだーん きびきびだーん」の歌もダンスもままならないコムアイに代わって、フロア一面に巻き起こる歌声と振り付けが、会場の熱気を刻一刻と高めていく。そのままステージへ戻ると見せかけて、ボールごとフロア後方へダイヴするコムアイの姿からも、そんな狂騒感を全身で楽しんでいることが窺える。“ディアブロ”に入る前にウォーミングアップとばかりにコール&レスポンスを呼びかけると、待ってましたとばかりに「いい湯だね!」の大合唱が巻き起こる。「……何ですかこれは? なんで全員言えるの?」と言いながらも喜びを隠せない様子のコムアイ。“ラー”で飛び交ったキャノン砲の金テープも、“シャクシャイン”でZeppの空間を埋め尽くしたレーザー光線も、そんな会場の高揚感をなおも熱く沸き立たせていく。
自身初の『Mステ』出演を振り返りながら、「水曜日のカンパネラって、女子だからちょっと世の中に甘くされてるなって思うんですよ。ほんとそう思う」とあのアンニュイな口調で、しかし真っ直ぐに語っていたコムアイ。「周りにいっぱい、いいミュージシャンいるけどさ、女の子だからハードルが下がってるところがある気がして。今年と来年は、そこに甘えずに――次に『Mステ』に出る時は、話題性とかだけじゃなくて、自分も訓練して、もうちょっとだけ真面目な感じで、芯があるような感じにしたいなと思って」……お茶の間レベルで浸透した自身の存在感と状況を冷静に捉えつつ「その先」を見据えているコムアイの現在地を、この日のアクトは明確に物語っていた。
“モノポリー”“ミツコ”に続いて、LED内蔵のポイ(スティック)でジャグリングチームとともにマッチの炎を演出してみせた“マッチ売りの少女”、パトライトを手にファンキー&スリリングな空間を描き出した“メデューサ”で本編終了。「最後、もう1曲やってもいいですか?」。アンコールではコムアイが「ヤフオクで5000円で買った」という巨大招き猫バルーンとともに“ドラキュラ”を歌いながらフロア後方に登場。普段は裏方に徹しているケンモチに歌を振ったりしながら、《ちーすーたろか おまえの ちーすうたろか》のシンガロングでライヴを締め括ってみせた。水カンの物語はまだまだこれからが本番!という期待感を抱かせるには十分すぎる、至上のポップアクトだった。(高橋智樹)
●セットリスト
01.西玉夫
02.ウランちゃん
03.ユタ
04.猪八戒
05.小野妹子
06.ライト兄弟
07.ツイッギー
08.ナポレオン
09.モスラ
10.桃太郎
11.ディアブロ
12.ラー
13.シャクシャイン
14.モノポリー
15.ミツコ
16.マッチ売りの少女
17.メデューサ
(encore)
18.ドラキュラ