今回のライブツアーは、アルバム『風の果てまで』を提げてのもので、武道館のステージセットも、そのタイトルをイメージさせるものだった。風がたどり着く最果ての場所、例えば乾いた山岳地帯、例えば流れ着いた無人島、あるいは寂しい都会の路地裏。楽曲に合わせて、照明や映し出す映像を変えながら、様々な景色を浮かび上がらせていく。ここまで凝ったステージセットは、斉藤和義の過去のツアーの中でも、あまりなかったように思う。ライブはアルバムの1曲目でもある“あこがれ”でスタート。この日はツアー62公演目を数えるということもあり、バンドのアンサンブルや音のバランスも、もはやパーマネントなバンドかと思うほどに完成されていた。そして憂いを含んだような斉藤のボーカルとギターに、初っぱなから引き込まれてしまう。「今日は最後まで楽しませてもらいます」という言葉がとても斉藤和義らしい。「楽しんでいって」と言う前に、「楽しませてもらう」という自由さこそ彼の魅力だ。そして「懐かしい曲をやります」と“君の顔が好きだ”を披露。1994年のシングル曲にして素晴らしいラブソング。しれっと下ネタも挟んだりして、このいい感じの力の抜け具合がたまらない。堀江博久(Key)の奏でるピアノの音もラフな雰囲気で盛り上げていく。
本当に、見所を書き出せばキリがないほどの濃密なライブだった。ヘビーなポエトリーリーディングのような“青い光”では、エンディングの臨界を思わせるとても綺麗なブルーの照明が脳裏に焼きつく。その余韻をかき消すように、爽やかなマンドリンの音が印象的な青春ソング“Summer Days”。そして新アルバムから“アバリヤーリヤ”のイントロが始まると、オーディエンスの腕がゆらゆらと左右に揺れ、エキゾチックで心地好い浮遊感が会場を支配していく。ラストは打ち込みのシーケンスだけをバックに、メンバーが楽器を置いてステージ中央に集まり縦一列に整列。何が始まるのかと思いきや、全員でまさかの千手観音ダンス! からの、“Choo Choo TRAIN”よろしく腕をぐるぐる回しながらのロールダンス! いやもう、このダンスをこの人たちがみんな揃って一緒に練習したのかと想像すると、ほんとにもうお腹痛いし、なんだか嬉しくなってしまった。
この日のラストは“ドント・ウォーリー・ビー・ハッピー”。肩の力の抜けたロックンロールがショーのエンディングにふさわしい。メンバー紹介をしながら、リラックスした雰囲気で、突然各パートのソロを要求したり、なんとも温かく心地良いムードの中で幕を閉じた。終演後、スクリーンに映し出されたのは「股ねん!」の文字。本当にもう最後まで(笑)。濃密で最高に幸せな3時間。文句なしに素晴らしいバンドサウンドが今も耳に残っている。(杉浦美恵)
1.あこがれ
2.ワンダーランド
3.君の顔が好きだ
4.攻めていこーぜ!
5.ウサギとカメ
6.夢の果てまで
7.Player
8.劇的な瞬間
9.恋
10.シンデレラ
11.青い光
12.Summer Days
13.アバリヤーリヤ
14.さよならキャディラック
15.傷口
16.やさしくなりたい
17.歩いて帰ろう
18.何処へ行こう
19.時が経てば
(encore)
1.Endless
2.マディウォーター
3.ずっと好きだった
4.ドント・ウォーリー・ビー・ハッピー