sumika/横浜アリーナ

All photo by 後藤壮太郎
2ndフルアルバム『Chime』をリリースしたsumikaが、そのアルバム曲たちをライブという場でどんなふうに鳴らすのか、それがとても楽しみだった。『Chime』がそう思わせるようなアルバムだったのだ。それぞれの楽曲の良さはもちろんのこと、このアルバムにはsumikaというバンド、sumikaというチームだからこそのアンサンブルの成熟、洗練が詰め込まれていた。バンドとして、メンバー同士が強い信頼感に裏打ちされているのを感じるし、けれど、それが却って自由度を増すかのように、『Chime』で響く音は伸びやかだ。かくして、今年3月から始まったツアーの終盤、6月9日の横浜アリーナへと足を運んだのだった。

sumikaという存在、そしてその音楽には、「おかえり」、「ただいま」とリスナーがいつでも思えるような場所でありたいという思いが変わらず貫かれている。そしてその思いをさらに前進させたのも『Chime』というアルバムであったと思う。sumikaのほうからリスナーの家を訪ねてチャイムを押す。そんな能動的な意志を表わすように、ステージには「家」のセットが組まれ、セットリストが進行していくにつれて、sumikaはその家のリビングで演奏を楽しむかのような親密さを醸し出していった。そのリビングには(おそらく)それぞれの公演地の特色が出たグッズ(この日は横浜だったので、横浜DeNAベイスターズや横浜F・マリノスのレプリカユニホーム、崎陽軒のシウマイ弁当を形どったクッションなど)が置かれていて、まさに「地元」の「自分の家」にsumikaが訪ねてきたという、そんな演出を感じ取ることができた。


オープニングを飾ったのはアルバムでもトップを飾る曲、“10時の方角”。まさにチャイムを鳴らして家の玄関に現れた「チームsumika」のメンバーたちを歓迎するかのように、客席はハンドクラップで出迎える。そして同アルバム収録の“フィクション”へ。アコギをかき鳴らしながら歌う片岡健太(Vo・G)の歌声が素晴らしく伸びやかで、アンサンブルの気持ち良さも格別だ。「横アリ気持ちいい!」(片岡)と、初めての横浜アリーナを最高に楽しんでいる。そして、やはり前半は最新アルバムに収録された曲中心で進むのか? と思わせておいて、次に鳴らされたのは“1.2.3..4.5.6”。ライブではおなじみのこの楽曲も、アリーナ仕様のダイナミズムが加わり、アレンジがアップデートされている。これほどグルーヴィーだったかと思うほど、冴えたアンサンブル。さらに“グライダースライダー”での疾走感も、広いアリーナの頭上を音楽が気持ちよく飛び回るような解放感を感じさせ、“ふっかつのじゅもん”へと畳み掛けると、黒田隼之介(G・Cho)のギターソロの熱量にも目を奪われて、序盤早々にそのバンドサウンドの進化に圧倒された。


「初めての横アリは1回だけだから」と、その特別な時間を味わい尽くすように、今日のsumikaのライブはどこをどう切り取っても瞬間のスリルと喜びに満ちていた。“MAGIC”をはさんで、中盤は再び『Chime』曲を続けざまに披露していくのだが、そのサウンドの洗練には痺れた。“Monday”のメロウでゆったりとしたグルーヴの気持ち良さ、そして圧巻は“Strawberry Fields”の少しダークでラフな音像だ。間にメンバー紹介をはさみながら、各パートのソロをまわしていくくだりなど、最高にクールで、今回もサポートメンバーとして参加している井嶋啓介(B)のうねるようなベースと、ブラシでヴィンテージなビートを刻む荒井智之(Dr・Cho)とが生み出すリズムに小川貴之(Key・Cho)の洒脱なピアノサウンドが重なって、ひたすら音の気持ち良さに身を委ねた。これは、演奏してるメンバーたちも相当気持ち良いはずだと思っていたら、演奏が終わるや片岡は「かっこいい~!」と自画自賛。曲のメリハリや押し引き、タイム感──。まさに「かっこいい」と形容する以外にない演奏だった。このソロまわしは、各自が毎回アドリブで挑んでくるものらしく、片岡は「今日で22本目のライブだけど、一度として同じソロはない」と感嘆し、「この曲では自分だけソロがないので、完全にお客さんの気持ちで」このソロパートを堪能しているのだと言っていた。さらに片岡が「初めての横浜アリーナという大舞台で、ベストなソロを決められるメンバーと一緒にやれて最高です」と語ると、大音量の拍手が万感の思いのこもった「同意」をステージに届けた。


「このへんで一度、座ってみましょうか」(片岡)と、全員が椅子に腰掛けた後は、「演奏してるのを見てなくてもいいし、音楽を聴きながら目を閉じてもいい」と告げて、アコギのグリッサンドの音も生々しく響かせながら“リグレット”を弾き語りで歌い始める。ブレスの音さえも広い会場の奥まで響いて、そのままバンドサウンドへと流れていく展開など、実際に目を閉じて聴き入ってしまうほど素晴らしかった。そのまま新作アルバム曲の“ゴーストライター”では小川のピアノのイントロが静かに響き渡り、ピンスポットを浴びた片岡が歌い出す。メランコリックで美しいピアノの調べと、切なく響く歌声。最後までひとつの音も声も聴き漏らすまいと聴き入るリスナー。歌い終わりの余韻の後のしばしの空白。その後の、本当に「滝のような」拍手は驚くほどの音量で、いつまでも鳴り止まないかのように、長く長く続いたのだった。


終盤は再びスタンディングでさらなるクライマックスへと導く。“ペルソナ・プロムナード”のような難易度MAXの楽曲にしても、ライブでの場数を踏むごとに、もともとのスピード感とスリルに加え、さらなるメリハリとグルーヴが加わるような無双感を身につけていて驚く。本編ラストの“Familia”は、『Chime』のラストを飾る曲でもあり、現在のsumikaの思いを集約するようなラブソングだが、アンサンブルの強さと柔らかさとあたたかさと、そして何より風通しの良さを感じるライブ演奏には、sumikaの未来がさらに自由な音で溢れていることを予感した。

アンコール1曲目では、開口一番「新曲歌います!」と言って、公演時にはまだCDリリース前だった(6月12日にリリースされた)のシングル曲“イコール”を初めて生演奏するというサプライズも。「緊張した!」と後から言っていたけれど、とても初めてのライブ演奏とは思えぬほど、sumikaの音として完成されていた。耳にすっと溶けるように入り込んでは、そのメロディが、フレーズが、コーラスが、やさしく耳に刻み込まれていく。その最新曲のモードと、その後に演奏された“Amber”、さらに「この曲ができた時、まだバンド続けんのかよって笑う人がたくさんいました。だけどこの曲があったから、絶対に折れてたまるかって、心の中でお守りみたいにずっと大事に歌ってきた、sumikaが一番最初に作った曲、あなたの前で歌って帰りたいと思います」と語った“雨天決行”。どの楽曲にも揺るぎなくにじむ音楽への誠実を感じ取る。過去から変わらずsumikaにあるもの、そして新たにsumikaに生まれたもの、そのすべてを感じ取ることができたようなライブだった。


この日も片岡は、最後に「愛してます!」と叫んで去っていった。今日の「愛してます」には、心からの「幸せ」が滲んでいた。これだけ広い会場でバンドメンバーたちが心底演奏を楽しんでいるのだ。見ている側としてもこんなに幸せなことはない。作品のリリースとライブを繰り返しながら、バンドは、チームは、様々な変化を見せながら、sumikaという存在をより色濃いものにしていく。だから、皆、sumikaのライブにまた足を運びたくなるのである。(杉浦美恵)


●セットリスト
1.10時の方角
2.フィクション
3.1.2.3..4.5.6
4.グライダースライダー
5.ふっかつのじゅもん
6.MAGIC
7.Monday
8.Strawberry Fields
9.ホワイトマーチ
10.ファンファーレ
11.リグレット
12.ゴーストライター
13.秘密
14.Lovers
15.Flower
16.ペルソナ・プロムナード
17.「伝言歌」
18.Familia
(アンコール)
EN1.イコール
EN2.Amber
EN3.雨天決行