●セットリスト
1.Dreaming Man
2.Hole
3.FOOL
4.NO MORE MUSIC
5.Higher
6.NEKO
7.ハーフムーン
8.Animals
9.偶然
10.Phantom(By Lipstick)
11.NOTHING
12.マダラ
13.ART(FCO2811)
14.SAVE ME
15.HEADHUNT
16.BROTHER
17.ROCKY
18.Dancing Boy
(アンコール)
EN1.DOOR
EN2.Beek
EN3.90'S TOKYO BOYS
「OKAMOTO'Sって底知れないバンドだと思うんですよ。俺たち結成した頃から世界制覇が夢です。ここから20年、30年、40年、どこまでも夢を追っかけていくんで……OKAMOTO'Sをよろしく! バンド絶対やめねえからな!」晴れやかな表情でそう伝えるオカモトショウ(Vo)の宣言が日本武道館の中心で堂々と響きわたる――。
デビュー10周年を迎えたOKAMOTO'Sが、全国ツアーのファイナル公演にして自身初の日本武道館ワンマン「OKAMOTO'S 10th ANNIVERSARY LIVE "LAST BOY"」を開催した。全国各地から1万人のファンが駆けつけたというこの日。定刻を迎え、暗転のなかメンバーが登場すると、大音量の拍手と歓声が彼らのことを迎え入れた。真っ白な光がふわーっと広がり、かと思えば突如暗転。暗闇の中から力強く歌われる《I’m just a Dreaming Man》(俺はただ夢を見ているだけ)のフレーズに、オカモトコウキ(G)のカッティングが、そしてハマ・オカモト(B)のフレーズが、オカモトレイジ(Dr)のビートが重なっていく。1曲目は“Dreaming Man”。以降2曲含む、最初の3曲は最新アルバム『BOY』と同様の流れだった。
この日最初のMCで「どうも、新宿から来たOKAMOTO'Sです、よろしく!」といつものように挨拶したあと、「今日は武道館にふさわしい曲をたくさん持ってきたので、どうぞ最後まで楽しんでってください!」と続けたショウ。振り返ればこの日のセットリストは、『BOY』収録曲が中核を担っていたほか、そのほとんどが2015年以降――つまり5周年を越えた先でリリースされた曲だった。記念すべき舞台に「ふさわしい」と判断された曲がここ最近リリースした曲であるという事実には、「最新こそ最高」という状態を目指し続けたこのバンドの在り方が表れている。
軽やかな曲調にシリアスなメッセージを孕ませた“NO MORE MUSIC”。タイトなグルーヴで魅せる“Higher”。ヒップホップを汲み入れたラップナンバー“NEKO”。そして“ハーフムーン”、“偶然”のようなコウキがボーカルをとる曲(“偶然”ではキーボードも演奏)も披露される。前半戦は照明のトーンが全体的に暗め。せっかくの武道館なのに派手な特効とか使わなくていいのか?と一瞬思いはしたが、色の付いた光をほとんど使用しない演出は、成熟を感じさせるバンドの演奏にマッチしている。そして何より、ゆらゆらと横に揺れたり、膝を使ってリズムを取ったり……とこのバンドならではの雑食性をそれぞれの解釈で楽しむオーディエンスの様子を見る限り、きっとそんな装置は必要なかったのだ。
ここまで45分間で10曲を演奏するストイックな展開だったが、「武道館だからといって日和って喋る時間短くしませんよ?」(ハマ)と2度目のMCではいつもと変わらぬテンション。ここでハマがツアー中に習得した特殊能力=「念力で炎を出す」を披露。演奏中には一切使用されなかった火炎砲の特効がまさかのタイミングで使用され、場内が笑いに包まれる。
後半戦では、ステージ後方の映写幕を活用。レーザーがリアルタイムでそこに模様を描き、サイケデリックな空間が演出されるなか、ショウ、コウキ、ハマがユニゾンで鳴らすおどろおどろしい旋律から“NOTHING”が始まった。続けて、デビューアルバム『10'S』収録曲であり、ライブの度に進化を重ねてきた“マダラ”が嵐のような激しさで以って演奏される。特にアウトロにおける、コウキとハマが向かい合ってガシガシと連符を弾き、レイジのソロに繋げた場面はこの日のハイライトに数えて差し支えないだろう。
その後、レイジが大きく振りかぶって叩く重々しいビートから“ART(FCO2811)”へ。この曲ではハードロックサウンドをバックに、リズムという概念の外側にいるみたいな、語りに近い歌い方をするショウのボーカルが炸裂していた。そして“SAVE ME”。ショウの弾き語りによる歌い出しで一気に孤独に引き戻されたあと、15曲目にしてシングル曲が初登場。“HEADHUNT”の疾走感で一気に視界を切り拓き、“BROTHER”へ繋げる展開だ。ショウがマイクを客席へ向けると、オーディエンスが歌声で返し、会場全体で曲を歌い鳴らす形になる。続く“ROCKY”を終えると、ショウが「すごい熱気だ、これ……」と、半ば呆然としながら、しかし残り半分で興奮しているようなテンションで呟いた。
ショウの言葉を借りるならばOKAMOTO'Sは「底知れない」。バンドのサウンドは様々なジャンルを呑み込んでおり、リリース作品ごと――いや曲ごとにその姿が大きく違う。また、この日のライブでもストイックな演奏とゆるいMCのギャップが見られたように、音楽面以外においてもバラエティの豊かさが感じられるバンドだ。
10代のうちにデビューし、この10年間で8枚ものオリジナルアルバムをリリースした彼ら。彼らがここまで多作家だったのは、中学時代からの仲である4人が一緒になって生み出すバンドマジックを信じているからであり、その輝きを絶やさないため、OKAMOTO'Sは一定の音楽的ジャンルに安住せず、必死に生まれ変わり続ける道をここまで選んできたからだ。シーンの波に揉まれ、いわば孤独と成熟のバンドとなった彼らが、そのままの姿で1万人ものファンに愛され、アニバーサリーを迎えたことを喜び合っている。記念すべき1日が感動的なものになった理由は、そういうところにあったように思う。
本編ラスト1曲を残してMC。ここでショウが、アルバムタイトルに掲げた「BOY」という単語を「子どもみたいに無邪気に夢見る心」と定義。『BOY』という作品は「BOYから大人へ変わっていく前の儚い瞬間を真空パックした」アルバムであり、確かに10年経ってすり減ってしまったものもあるが、今回のツアーをまわって「それでもこのバンド続けているうちは心のどこかにBOYがいる」と改めて実感したのだ、と話し始めた。「それは俺たちがなるだけ嘘つかず、正直に、ピュアに、素直に、カッコいいものを作ってきたから。そして何より10年間こうしてやってこれたのは、こんな平日にも関わらずやってきてくれるみなさんのような人たちがいたからこそだと思ってます。心からありがとうございます!」。そんな言葉に拍手と喝采が送られる。
『BOY』の最終曲“Dancing Boy”で本編は幕を閉じた。照明の光を反射させながら紙吹雪が舞い落ちる様子が美しい。「夢を見続けるのは簡単じゃないけど、でも俺たちは中学生の頃からずっと同じことやり続けて武道館まで来たぜー!」と叫ぶショウ。ステージを去るのが名残惜しいのか、ジャンッ!ジャンッ!ジャンッ!とラストのキメをバンドが何度も鳴らした。
そしてこの日のライブが最高だったもう一つの理由は、ここが最高到達点ではないのだと感じられたこと。武道館をのびのびと泳ぐバンドの演奏にはまだまだ余裕が感じられたし、アンコールのMCでは、「まだまだデッカいところでできるなと思ったし、今日やってないことがいっぱいあるんだよ」(ショウ)、「またやりましょう」(ハマ)というやりとりも。ここでショウが「OKAMOTO'Sって底知れないバンドだと思うんですよ。俺たち結成した頃から世界制覇が夢です。ここから20年、30年、40年、どこまでも夢を追っかけていくんで……OKAMOTO'Sをよろしく! バンド絶対やめねえからな!」と宣言したのだ。
この日の最後に演奏されたのは“90'S TOKYO BOYS”、メンバー全員90年代生まれの彼らの代名詞的ナンバーである。バンドのサウンドがいきいきと輝くなか、ショウがこれまでのライブと同じようにメンバーの名前と担当楽器を改めて紹介。そして「俺たちがOKAMOTO'Sだ!」と叫んだのだった。(蜂須賀ちなみ)