Cocco/東京国際フォーラム ホールA

Cocco/東京国際フォーラム ホールA - All Photo by Shidu MURAIAll Photo by Shidu MURAI

●セットリスト
01.くちづけ
02.花爛
03.強く儚い者たち
04.Gracy Grapes
05.Being Young
06.スティンガーZ
07.夕月
08.極悪マーチ
09.2.24
10.Come To Me
11.音速パンチ
12.有終の美
13.暗黙情事
14.願い叶えば
15.Raining
16.樹海の糸
17.ドロリーナ・ジルゼ
18.フリンジ
19.海辺に咲くばらのお話



「あっという間ですね……今日はありがとう」
ライブ終盤、満場のオーディエンスに向けて静かに語りかけるCoccoの言葉に、客席から「今日もありがとう!」と感謝の声が飛ぶ。それを受けてさらに「『今日は』と『今日も』って大事だよね……今日もありがとう。いつもありがとう」と続けるCoccoの佇まいは、かつてないほど優しい包容力を漂わせるものだった。

10月にリリースされた10枚目のオリジナルアルバム『スターシャンク』を携えて、仙台/名古屋/東京/大阪/広島/福岡の6都市を巡ってきた「Cocco Live Tour 2019“Star Shank”」。東京・大阪:ホール&他4会場:ライブハウス、という構成で行われた同ツアーの中でも最大規模の約5000人の観客が詰めかけた東京国際フォーラムには、これまでの作品で放ってきた鮮烈で刹那的な輝きの数々をひとつの大きな物語へと編み上げるような、どこまでも雄大な時間が流れていた。

Cocco/東京国際フォーラム ホールA

デビュー初期のサウンドを支えた根岸孝旨(B)&長田進(G)、近年のライブサポートでお馴染みの藤田顕(G)・椎野恭一(Dr)・渡辺シュンスケ(Key)というラインナップでこの日のステージに臨んだCocco。波音の開演前SEとクロスフェードするように流れ込んだ“くちづけ”の、伸びやかな歌声と豊潤なバンドアンサンブルが、広大な空間を抗い難く音楽の深海へと引き込んでいく。さらに『スターシャンク』からもう1曲、ミステリアスなオルタナティブの極致の如き“花爛”のサウンドスケープを、空を貫くようなCoccoの絶唱が高揚の異次元へと導いてみせる――。そんなスリリングな場面を、張り詰めた緊迫感ではなくしなやかな肉体性とともに提示することで、終始スケールの大きな生命力を体現していたのが印象的だった。そこから一転、“強く儚い者たち”で観る者の視界を陽光降り注ぐ楽園へと塗り替えていった。

アコースティック編成で“Gracy Grapes”から“Being Young”へつないで会場のクラップを呼び起こしながら、白いドレスを艶やかに舞わせて鮮やかなターンを決めるCocco。「あっちゃん(Cocco)の『あ』はアイドルの『あ』!」と自らに言い聞かせるように繰り返して、ピアノR&Rナンバー“スティンガーZ”の《エル オー ブイ イー/ラブリー Cocco》で客席を沸き立たせたかと思うと、再び『スターシャンク』から響かせた“夕月”では、ブルージーなロックバラードの音像越しに清冽なセンチメントを会場の隅々にまで繰り広げていく。
初期のプロデューサーでもあった盟友・根岸がアレンジャーを務めた『スターシャンク』の世界が、Coccoの「原点」と「最進化形」を縫い合わせるような磁場を備えていたことも、この日の開放感の重要な要因ではある。が、何より大きかったのは、常に儚さと危うさを孕んでいた自らの「瞬間」をひとつひとつ重ね合わせて「これから」へとつなげようとするCocco自身のモードだった。

“極悪マーチ”が描き上げた紅蓮の風景や、“Come To Me”のグランジサウンド×たおやかな歌のコントラストなど、『スターシャンク』の楽曲の大半をセットリストの軸としつつも、華麗に舞い踊りヘドバンで髪を乱すCoccoの姿が楽曲のポップ感を煽り立てた“音速パンチ”など、20年以上のキャリアを『スターシャンク』という星座の中に配置していくようなマジカルな多幸感に満ちていたこの日のアクト。
ダンサブルなビートと音色が弾ける“願い叶えば”でクラップとハンドウェーブを巻き起こしたところで、長田のアコギとともにCoccoが歌い始めたのは“Raining”だった。1998年の初日本武道館ワンマン以降、幾度も目の当たりにしてきたこの歌が、これまでで最も美しく強く鳴り渡り、客席が感激と感涙に包まれていく。

Cocco/東京国際フォーラム ホールA

さらに“樹海の糸”、“ドロリーナ・ジルゼ”で刻一刻とオーディエンスの感情と魂を高めたところで、「最近、みんなからもらう手紙を読んで気づいたんだけど――あ、コウ(Cocco)もみんなに『おかえり』って言っていいんだ、って」とCoccoがひと言ひと言、噛みしめるように語り始める。

「コウはいっつも、自分勝手にあっち行ったりこっち行ったり、止まったり、隠れたり……そのたんびに、みんなを置いてけぼりにして。でも、いつも受け入れてもらって、何度も何度もね。なんか申し訳ない気持ちがあったんだけど。考えてみたら、みんなも同じなんだろうね。みんなもあっち行ったりこっち行ったり、寄り道したり、遠くに行ったり、立ち止まったり……だけど、こうして生きて、人生のタイミングで『Cocco元気かな』、『Coccoの歌聴きたいな』って思ってここに来てくれた時も、コウはいつもちゃんとCoccoでいたいなと思います」

Coccoの言葉にじっと聞き入っていたオーディエンスが、「だから、みんなも心配しないで。また、行ってらっしゃい。そして、一歩でも前に進んだところで、またここで会いましょう」の呼びかけに一面の拍手で応える。そんな中、ひと呼吸置いて、Coccoは続けてこう言った。

「みんなが望めば、Coccoはいつも、ここでみんなを待ってます。今日は――今日も、いつもありがとう」

Coccoの音楽の唯一無二の激しさと鋭さは彼女の焦燥や切迫感の象徴でもあったし、それは時に彼女を追い詰め、幾度も音楽活動そのものから彼女自身を遠ざけるに至るほどの危うさを持つものでもあった。そんな彼女が今、「CoccoがCoccoであり続けること」を真っ向から引き受けようとしている――この場にいた誰もがおそらく一番心待ちにしていたであろう言葉に、国際フォーラムが一気に感極まったような高揚感で満たされていく。
珠玉のステージを締め括ったのは、『スターシャンク』からの“フリンジ”と“海辺に咲くばらのお話”。ライブが終わった瞬間に、もっと彼女の「今」の歌を聴きたい、「その先」をずっと見続けていたい、と心から思った。(高橋智樹)
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