毛皮のマリーズ @ 渋谷クラブクアトロ

毛皮のマリーズ @ 渋谷クラブクアトロ
毛皮のマリーズ @ 渋谷クラブクアトロ - pic by Eri Shibatapic by Eri Shibata
ライブハウスを狂気の渦に巻き込み、ロックンロールの全てをフロアに撒き散らす衝撃的なステージングを繰り広げる毛皮のマリーズ。本日は、4月にリリースされた待望の3rdアルバム『Gloomy』を携えてのライブ・ツアー『毛皮のマリーズがやってくる!ゲス!ゲス!ゲス!JAPAN TOUR 2009』のツアー・ファイナル! と言いたいところだが、ご存知のとおりアルバム発売直後のライブでボーカルの志磨遼平が背骨骨折、全治2ヶ月2週間安静という怪我を負ってしまったため、4月に予定していた4公演を延期せざるえない状態に。その振替公演がこの後に控えているために残念ながらセットリストなどの詳細はまだ書けないのだが、これまでの毛皮のマリーズを大きく覆し、ロックンロールへの愛憎から確かな希望を見出した「新しい毛皮のマリーズの誕生」とも呼べる素晴らしいアクトだった。

場内が暗転するとおなじみのSE“愛の讃歌”が流れ出す。会場はメンバーの登場を待ちわびる歓喜の声で包まれた。神々しいライティングの中、“愛の讃歌”がフルコーラス流れたところで志磨がたった一人ステージに現れた。深々と頭を下げ、アルバムのオープニングを飾る“チャーチにて”を切々と歌い上げる。そこから一気に怒りと憎しみを込めた暴発的ナンバーを次々と繰り出していった。

王道のリフを豪快にかき鳴らす越川のギタープレイ、栗本のクールながらも図太い低音でバンドを牽引するベース、全てを叩きのめすような破壊力満点の富士山のドラム、そして、オーディエンスの一人一人を目に焼き付けるようにしながら、どこまでもピュアで、どこまでも正直な思いを伝えようと全身全霊で歌い続ける志磨。毛皮のマリーズは、もはやロックへの憧憬で成り立っているバンドではない。本気で鳴らしたかった自らのロックンロールを手に入れて、それを今、本気で伝えようとしている。

アコースティック・ギターをかき鳴らしながら「一人一人にお礼じゃ足りないくらいの愛の告白をしたいです」と語り出し、「あなたを愛してます、あなたを愛してます…」とオーディエンス一人一人に囁きかけていった志磨。しかし、「ロックンロールには時間がない! しゃべるより音楽で一気に片をつけにきました。完膚なきまでに渋谷を叩きのめすこと決定! 徹底的に愛してます!」と煽ると、さらにこう続けた。「こんなに大勢の人が毛皮のマリーズを理解できるなんて。自信はあったけど、まさかと思ってた。こんな日が来るなんて思っていませんでした」と。満杯のクアトロを見て驚きを隠せない様子の志磨は、さらに「(ここに集まった人は)僕のように優しくて、嘘がつけなくて、本当のことばかり言って。本当のことばかり言うと誰からも信じてもらえなくなって。そうやって恋人をなくし、友達をなくし、気付けば一人で…。そうやって真面目に、真面目に、生きてきた人たちがここにいるんだと思います。そして、こういう私とかあなた方のような人間を世界はこう呼びます!」とサンボマスター山口ばりの語りで“ザ・フール”へと突入。曲中も数え切れないくらいに「愛してます! 愛してます!」と連呼し、今日ここへ集まった人たちへの讃歌として最大限の愛を込めてこの歌を捧げた。

志磨は喉の調子を整えるために曲間で水じゃない何かを飲んでいたのだけど、よく見たらボトルに入ったハチミツを直接口に流し込んでいた。ライブでハチミツを直飲みする人、初めて見た。口の中甘くて歌いづらくないのかな?? とかいう心配はよそに、「本当なら今日はツアー・ファイナルの予定でした。だからスペシャルなゲストをお呼びしてます」と紹介すると、アルバム『Gloomy』にもゲスト・プレイヤーとして参加しているソウル・フラワー・ユニオンの奥野真哉がハモンド・オルガンとして登場! ビートルズ・フレーバー満載の“Honey Apple”など、圧倒のオルガン・サウンドで王道のロックンロール・ナンバーに土臭さを醸して、たちまちフロアを沸かせた。

今の毛皮のマリーズは、殺気に満ちていてスリリングで過激なステージを見せていた頃とは違う。それはライブを観れば明らかだ。信じていた音楽に裏切られたその憎悪を全て吐き出し、自分の無力さや汚さも全て曝け出して何もなくなったところから再出発した彼らが、純粋に歌いたかったこと、伝えたかったことが「愛」であり「生きる」ことだったのだと思う。ただただ不器用に愛を叫ぶ“平和”も、《ビューティフルに生きて死ぬ為の僕らの人生》と高らかに拳を突き上げて歌い上げた“ビューティフル”も、音楽さえも憎いと言い切ったどん底の暗闇の中から見出した希望だったのだ。それこそが毛皮のマリーズのロックンロールであり、ロックンロールそのものとなった毛皮のマリーズなのだ。

ダブル・アンコールも含めて全20曲。信じていたロックンロールに裏切られ、自らのロックンロールに救われた毛皮のマリーズ。バンドとして大きく成長した彼らの真摯な想いが胸を射抜いた熱い一夜だった。(阿部英理子)
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