今回は『GRAPEVINE 2 SUMMER SHOWS』と銘打ってある通り、7月18日:日比谷野音/7月20日:大阪城音楽堂の2ヵ所で行われるライブ・シリーズ。20日のネタバレ回避のためセットリストや曲目に関しては触れないが、最新アルバム『TWANGS』のトーンがバインのアーカイブに至るまでそっくり支配したような、隅から隅まで濃厚で清冽なブルース/サイケデリック・ロック・アクトだったし、田中/西川/亀井の3人にサポートのベースとキーボードを加えた5人編成から繰り出すサウンドは、「70年代ジャム・バンド/サイケデリック・ロック・バンドのような獰猛さ」と「今を生きるバンドの躍動感」がじっくり静かにデッドヒートを繰り広げるような、奇妙な緊迫感に満ちていた。
もちろん、「ブルース・バンドとしてのバイン」の要素は『TWANGS』からいきなり始まったものではないし、それは『another sky』(02年)以降のアルバムから幅広く選曲されたこの日の内容からもわかる。しかし、その部分をこうして1つのライブの形で提示されると、それこそ視界の色が変わるくらいの衝撃を覚える。そんな感覚が、この日のバインのステージにはあった。派手なギミックや万人を踊らせるキャッチーさではなく、磨き上げた音の一つ一つ、歌の一つ一つがそこにあるだけ。しかし、それこそが真に聴く者の脳裏に作用する、ということを実証するかのような、意欲的なアクトだ。
満員のオーディエンスが曲のポップ感や高揚感に任せて腕を掲げたり跳ねたりするような場面は序盤に少しあったぐらいで、「じゃあ、新しいアルバムからいきますか!」という田中の宣誓に導かれて、『TWANGS』の楽曲をメインに織り込んだバイン最深部に突入すると、客席の躍動感は一人一人の「揺らぎ」「うごめき」としか言いようのない状態へと変わっていく。「えー、世界のアルバム『TWANGS』!(笑)。まだ(発売後)3日しか経ってないんで、理解されてないかもしれないですけど……」と田中本人も冗談めかして言っていたが、会場はすっかり「10年ぶりの野音!」という晴れがましい響きとは対照的なディープな空気に包まれている。しかし、溶けた鉛のような鈍色の輝きを放つ彼らの音は同時に、それこそ鼓膜のみならずじっとり汗だくの身体の至るところから、この日の熱気と一体になって流れ込んでくるような抗い難い浸透力を持っているし、「音に侵食される!」という背徳的な快感と戦慄すら覚えずにはいられない。
「ありがとサンキュー! 9月から全国ツアーやります。でも東京は11月です。忘れられてしまうかもしれないので、また言います(笑)」と会場を和ませてみたり、アンコールで懐かしの曲を披露する前には「ちゅうわけで、なつかシングルを」と30代男子ならではの昭和なダジャレを飛ばしてみたり、そのサウンドとは一転、田中は実に軽やかだったのが印象的だった。果たして9月からのツアーで、このバインの世界はどんな進化を遂げるのか? 今から楽しみだ。(高橋智樹)
1.疾走
2.シスター
3.FLY
4.Afterwords
5.Turd and swine
6.GRAVEYARD
7.Pity on the boulevard
8.Wants
9.Vex
10.小宇宙
11.hiatus
12.CORE
13.超える
14.ボリゴンのクライスト
15.アンチハレルヤ
16.NOS
17.エレウテリア
18.アナザーワールド
アンコール
19.風待ち
20.スイマー
21.ナツノヒカリ