WOMB ADVENTURE ’09 @ 幕張メッセ

ジョシュ・ウィンク
リッチー・ホウティン&ダブファイア
ちょうど2週間前に、ここ幕張メッセで4年ぶりの復活を遂げた『エレクトラグライド』。そして今度は、今年で第2回目、渋谷のクラブWOMBが開催するダンス・フェスティバル『WOMB ADVENTURE ’09』である。フロアはWOMB WORLD WIDE AreaとKITSUNÉ Areaの2エリアに分かれるというエレグラと同じ構成。終電とともに一挙にオーディエンスが押し寄せるというある意味お約束(?)な光景は今宵も見られたが、その瞬間的な押し寄せ具合はやはりこちらが上かもしれない。フェス好きやロック好きも詰め掛けたエレグラに比べると、生粋のクラブ&ダンス・イベント人種が集結した今宵の『WOMB ADVENTURE ’09』。視覚的にもレーザーだけでなくLEDスクリーンなどの映像テクノロジーもふんだんに盛り込み、まさに今の「クラブ」が開催するダンス・フェスティバルとなった。

出演したのは全7組のアーティストで合計9時間。以下、時系列順に各アクトをレポートしていきます。

■ジョシュ・ウィンク(WOMB WORLD WIDE Area/21:00~02:00)
初っ端からジョシュ・ウィンクとは、なんて客泣かせな、あるいはなんて贅沢なタイム・テーブルなのだろうか。ただ、この次のリッチー×ダブファイアが2:00からだから4時間の超ロング・セットである。序盤は深海のさらに奥底に潜り込んだようなミニマルの流れから、ごく控え目に鳴らされる無機質なビートの連鎖がかすかに憂鬱なメロディーを奏で、同じリズムをループさせながらゆっくりと前進していく。徐々にフェーズが切り替わり、所々にアシッドをカットインしていく中盤~後半の構成も見事。柔らかな単音の重なりからミニマルが生まれ、そこに強く主張しない甘美なアシッドを残しつつ展開していくストーリーは、掛け値なしに美しいパフォーマンスであった。初っ端から言うのもなんだけど、僕が今宵観た中では文句なしのベスト・アクトだった。

■ハーツレボリューション(KITSUNÉ Area/21:30~22:30)
KITSUNÉ Areaのトップバッターは、今年は『SUMMER SONIC 09』へ出演、10月には日本独自企画盤『ハーツ・ニッポン』をリリースし、自身の手がけるアイスクリームが大ヒット(しかもトラック販売で!)するなど、ポピュラリティをグッズやアートへコミカルに表現していくNY在住の3人組ハーツレボリューション。ビートの反復や展開よりも、シンセの「響き」に比重を置いた複数のトラックを何重にも重ね合わせ、大ぶりで甘美なフレーズが次々と繰り出されていく。前触れもなく、無造作に放り投げるようにニルヴァ―ナの“スメルズ・ライク・ティーン・スピリット”がスピンされた瞬間は思わず笑ってしまったが、全アクトの中で最もメランコリックなセットという印象があった。

■ベニ(KITSUNÉ Area/22:30~00:30)
お次は、Riot in Belgiumの片割れであるベニのDJセット。KITSUNÉ関連のコンピでもよく見る人なので(YELLEのリミックスとか)、リズムやシークエンスはバキバキながらも質感は絶えずポップであるというエレクトロの側面をきっちりなぞるかと思っていたが、驚くほどグニュグニュしたアシッドトラックのオンパレードだった。ただ、ジョシュのそれとはまた別で、エレクトロを下地にした攻撃的なアシッドだ。それでもアシッド一辺倒に感じられなかったのは、低音だけじゃなく高音で鳴ったり、時にはリズム抜きされて、アシッドそのものがリズムになっている瞬間もあったり、多彩なトラックを計算して差し込んでいたからだろう。両エリアに共通して言えることなのだけど、驚くほどアシッドトラックがよくかかっていて、それを一番象徴していたのがこのベニのアクトだったと思う。

■ジルダ&マサヤ(KITSUNÉ Area/00:30~02:00)
そして、昨年に続いて2回目の出演となった、ご存知KITSUNÉの総大将ジルダ&マサヤ。序盤でいきなりMGMTの“キッズ”がスピンされるものだから、オーディエンスは一発目から大爆発。その後も、ケミカル・ブラザーズ、ダフト・パンク、デジタリズム、ジャスティスなど、エレクトロニック・ミュージックの1つの進化過程をなぞるように容赦なくマスターピースをブッこんでいく二人。フロアはポゴダンスやらモッシュやら、肩車して踊り狂う人まで現れるほどブチ上がっていたが、ちょうどこの時、隣のフロアでもジョシュ・ウィンクがヨリス・ボーンの“インシデント”をかけて(ジョシュらしくないセレクトではあるが)爆発的に盛り上がっていたのだった。こうして見ると客層から盛り上がり方まで全く逆の両者だが、しかし、改めて思ったのがエレクトロ。音圧はノイジーで図太ければ図太いほどいい、音割れしたって気にもしないぜみたいな潔さすらあって、オーディエンスのノリも含め、そこにあるのはロックのヴァイブスそのもののような気がする。DJセット2時間のストーリーを組み立てるというより、1曲1曲でタイマン勝負を挑んでくるロックのライブを観ているようでもあった。

■デジタリズム(KITSUNÉ Area/02:00~04:00)
鮮やかなグリーンのライティングと幻想的なシンセ・サウンドからスタートしたのは、デジタリズムのジェンス。この日も規格外の盛り上がりを見せた代表曲“ポゴ”や“アイディアリスティック”はプレイされたが、圧巻だったのはむしろ後半。ミニマル&クリックのような繊細なトラックにどんどん近接していく流れで、もちろんエレクトロの図太いビートは残っているのだけど、それすらハンマー・ビートに聴こえてきそうなほどジャーマン風味満載のミックスワーク。やっぱりドイツ出身、手癖は隠せないのだろう。今宵のKITSUNÉの中で、一番KITSUNÉらしくもある彼らが一番KITSUNÉらしくないセットだったことが象徴しているように、彼らの中で“ポゴ”は、もう過ぎ去った「過去」のものなのかもしれない。

■DEXPISTOLS(KITSUNÉ Area/04:00~05:30)
今や各地のイベントやクラブに引っ張りだこ、KITSUNE AREAのトリはDEXPISTOLSだ。時刻は4時を回っている。しかし、相変わらずこの人たちときたら、時間関係なく容赦ないセットをぶちかましていくのだった。ベートーベンの“運命”などのネタものトラックに油断していると、どてっぱらをブチ抜くような強力エレクトロ・ビートにぶっ飛ばされてしまう。その力強いビートでKITSUNÉ Areaをラストまで引っ張っていった。

■リッチー・ホウティン&ダブファイア(WOMB WORLD WIDE Area/02:00~06:00)
以前、リッチーはリカルド・ヴィラロボス、ダブファイアはロコ・ダイスなんかとも組んでやっていたが、今回はセルビア共和国で毎年7月に開催されているダンスミュージック・フェス『EXIT FESTIVAL』で今年初披露されたリッチー×ダブファイアとのユニット「Click 2 Click」。それぞれ4台のラップトップとデッキ(つまり合計8台!)を同期させてプレイ、互いがスピンしている楽曲をもう一方でミキシングできるらしいが、ともかくミニマル・テクノのパイオニアであると二人のDJプレイを同時に楽しめるまたとない機会である。ただ一緒にDJをするというわけではなくて、互いの独立した質感の異なるプレイをどう繋いでいくかというところに面白味があるので、こうしたミニマル1つとっても両者の違いがよくわかる。耳をマッサージしてくれるような心地よいアヴァンギャルド・パーカッション連打のサウンドはやっぱりリッチーだし、そこから違和感なくシンセベース・ミニマルが加わり、ダブファイアのトラックにつながっていくミックスワークは圧巻の一言。こちらも合計4時間に及ぶロング・セットだから、ダレる瞬間もありそうなものだけど、二人の異なるミニマルパートが心地よく出入りを繰り返すので全く飽きることはないのである。気が付けばトイレにもいかずラストまで踊りっぱなしのセットだった。

2010年4月には10周年を迎えるWOMB。渋谷のアナログ専門店はほとんど姿を消し、クラブも閉店が続くなど、ここのところ明るいニュースをあまり聞かないダンスミュージックシーンにおいて、単発で終わらずにWOMBがこのイベントの2回目を開催し、成功させた意義はとても大きい。ぜひとも『WIRE』や『METAMORPHOSE』のような恒例のダンス・フェスティバルになって欲しいと思う。来年もやってください。必ず行きます!(古川純基)