清 竜人 @ 恵比寿リキッドルーム

清 竜人 @ 恵比寿リキッドルーム
清 竜人 @ 恵比寿リキッドルーム
今年2月にリリースした2ndアルバム『WORLD』を携え、4月に渋谷クラブクアトロ、心斎橋クラブクアトロの東阪2公演からなる『清 竜人“WORLD”TOUR』を行った清 竜人。今夜はその追加公演。チケットは早々にソールド・アウト、自身初のワンマンツアーにして、超満員の恵比寿リキッドルームである。

今回のツアーは、清 竜人にギターの山本タカシ、ベースのTokie、ドラムのASA-CHANGを迎えた昨年の『COUNTDOWN JAPAN』出演時と同じ4人編成。清 竜人は黒とグレーのストライプパンツにドット柄のシャツ&ベスト、山本とASA-CHANGはシャツにハット、Tokieはモノトーン調のひらひらドレスというモードな佇まい。少しずつSEの音量が膨らんでいき、ライブはアルバムのオープニングを飾る“ワールド”で幕を開けた。グルーヴィというよりは力強くスウィングしてゆく盤石のバンド・アンサンブルで場内を満たすと、続く2曲目は“ヘルプミーヘルプミーヘルプミー”。彼の甘さをたっぷり含んだスモーキーな歌声で、内向きのエモーションが立ち上がるようにゆっくりと解放されていく。

清 竜人の音楽を、一聴しただけのアコースティック、ジャジー、オーガニック、ヒーリングといった見方で判断するとその本質を見誤る。語りのような詩世界は、むきだしのエゴと悪意、鋭い観察眼と批評性、そこから浮き上がる痛みが内包され、日本人離れした拍の取り方とストレートすぎるリリックに乗って、洪水のように流れ込んでくる。彼の音楽を真正面から受け止めるにはすごく集中力が必要なのだ。“あくま”、“痛いよ”、“ウェンディ”、“悲システム”などを聴くと、夢とも現実とも違う独特の時の流れと想像力が喚起され、歌詞がオーディエンスそれぞれに潜む物語にすっと入り込み、自己経験との照らし合わせが始まる。曲間ではそれに浸ったり、想像したりすることで頭がいっぱいになってしまう。たとえ望んでそうなったわけではないにせよ、彼のライブにMCを必要としない理由がなんとなくわかる。

今宵のライブは、2ndアルバム『WORLD』を軸に1st『PHILOSOPHY』の曲を所々に差し込んでゆくというセットリスト。清 竜人は前半にギター、後半にピアノと操る楽器をチェンジしたが、それに従う山本貴志、Tokie、ASA-CHANGのバックバンドの演奏もとてもよかった。ツインギターのシャッフルにアレンジされた“Morning Sun”、ミッドセクションで自由闊達に弾けるピアノとグラインドするベースが印象的だった“がんばろう”、パーカッションを交えた激しいドラムソロからハンドクラップが巻き起こった“偉い偉いさんのボタン”。どの曲も、シャイな普段の清 竜人からは想像できないほどに演奏を楽しんでいたし、ファンキーにメロが跳ね回るものから、フォーキーなアルペジオからいきなりジャジーに展開したりと、とにかくバラエティに富んだアンサンブルでオーディエンスを沸かせていた。上記に書いた彼のナイーブな詩世界とはまた別の側面である。彼の楽曲は、語りのような言葉だけで自身の世界感を描ききってしまうため、情景や物語の描写は意外と少なかったりする。それを補完するというわけじゃないけど、バックのメリハリの効いた小気味いい演奏によってよりリアリティのあるサウンドスケープを引き出していたように思う。

やはり、圧倒的だったのは11曲目に披露された“痛いよ”だった。しどろもどろなMCでほとんど言葉を発しない彼の姿を見た時、何も言わないのではなく、何も言えないようにすら感じられた。だからこそ彼は歌うのかもしれない、“痛いよ”を聴いてそう思った。《ねえ きみが思っている程 ぼくは馬鹿じゃないよ》、《でもぼくは きみが好きで/これだけは信じて欲しいんだよ》、そのまま恋人に話す方がはるかに手っ取り早い言葉で歌うのである。自身のコンプレックスとエゴと真正面から向き合い、それを受け入れる為に心血を注いで紡いだ言葉で彼は歌うのである。それは間違いなくソングライターにおける天性の資質と呼べるものだと思う。

アンコールのラストは“違う”。バンドメンバーが去り、ステージに残った清 竜人はピアノのみで切々と弾き語った。オーディエンスは彼の声と鍵盤に意識を集中させ、吸い込まれるように耳を傾けていた。曲が終わってステージの中央に立った彼は、初のワンマンツアーでこれだけの人たちが集まってくれたことに感謝した後、こう言った。「まだその感情を噛み砕けてないのですが、(集まってくれた人たちと)大好きな人とのセックスのようなドキドキでハッピーな関係になれたんじゃないかなと思いました」。直後に凄まじい照れと後悔が襲ってきたのか、すぐさま小走りで逃げるように去っていった清 竜人。なんともキュートな姿だったが、ライブ中の彼からは、オーディエンス一人一人にそっと寄り添うような親密さに満ちた温かみを感じた。(古川純基)
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