代官山UNITのステージに大きな“X”を刻んだバック・ドロップが掲げられ、フロアは文字どおりの超満員である(フロア中程まで辿り着くのにひと苦労だったほど!)。19時10分。場内が暗転し、ステージ左にロミー(Vo&G)、中央にジェレミー(Beat&Sampler)、そして右サイドにオリバー(Vo&B)が喝采のなかスタンバイ。おもむろにロミーが“Intro”のリフを奏で、そこに野太いベース・ラインとキック音が重なると、紫の証明、明滅するフラッシュ・ライトとあいまって場内のムードは瞬く間に一変。メランコリックで魔性的な空気に満たされていく。ものの数分で完コピできそうな簡素極まるサウンドだけれど、そこに付け加えるべきものが他にあるとは思えない、ミニマルに完結した世界だ。演奏にしても特筆してテクニックがあるわけではないのだが、危ういところは全くなく、またこれ以上うまくなる必要があるとも思えないような絶妙なバランスで成立している(その意味では極めて危うい均衡だ)。なかでも耳を奪われたのは、濃密な男女のまぐわいを想起させるロミーとオリバーのデュエット・ヴォーカルで、これが驚くほどセクシーでエロティックなのだ。吐息を漏らし、耳元で囁きあうような歌声の交錯には、二人だけの秘められた世界に間違って足を踏み入れてしまったような背徳的興奮を聴く者に与え、生唾を飲み込まずにはいられなかったほど……アンタたち、本当に20歳そこそこなの!?
デビュー・アルバム『The xx』とほぼ同様の構成で、ステージは淡々と、熱狂と呼ぶべき熱狂もなく――かといって弛緩することは全くなく、親密な緊迫感のなか進行。しかし、メロディアスでアップ・ビートな(The xxにあっては比較的アップ・ビート、ということだけれど)リード・ソング“VCR”ではクラウドを心地よく揺らし、KYLAのカバー・ソング“DO YOU MIND?”では、ジェレミーがステージ左端に移ってドカドカとタムを叩き鳴らすひと幕も。とにかく圧巻だったのは、本編ラストにプレイされた“Infinity”。その楽曲の終盤、おもむろにベースを置いてスティックに持ち替えたオリバーが、ステージ中央にセットされたシンバルを――まるで和太鼓チーム・鼓童のように――ダイナミックに腕を振り上げながら高らかに打ち鳴らすのだ。突発的なエモーションの炸裂にオーディエンスもいきおい沸き立ち、UNITはこの夜最高といえる盛り上がりとなったのだが、そのいささか作為的とも言える過剰な演出にThe xxというバンドの底知れなさを見る思いだった。
アンコール含め1時間たらずのステージだったけれど、The xxの他ならぬ“ヤバさ”は存分に堪能することできた。NPR(米公共ラジオ)がこの春のワシントンDCでのライブをPodcastとして配信しているので、その一端に触れてみてほしい。(奥村明裕)
<Set List>
01 Intro
02 Crystalised
03 Islands
04 Heart Skipped a Beat
06 Fantasy
07 Shelter
08 VCR
09 DO YOU MIND?(KYLAのカバー)
10 Basic Space
11 Night Time
12 Infinity