もはやお馴染みの「ドモ! ベンチャンデス!」というベン・フォールズ本人の挨拶を待つまでもなく、場内暗転とともに人見記念講堂に渦巻く歓声の嵐! フジ・ロック来日(08年)、ASIAN KUNG-FU GENERATION主催の『NANO-MUGEN FES.』での来日(09年)を間に挟んではいるものの、単独来日としては実に6年ぶり――この日の人見記念講堂を皮切りに、5月31日&6月1日:渋谷C.C.Lemonホール/3日:広島クラブクアトロ/6日:大阪・なんばHatch/7日:名古屋ダイアモンドホールまで続くベン・フォールズのジャパン・ツアー初日。1曲目“リーヴァイ・ジョンストンズ・ブルース”から椅子に座るのももどかしいといった様子の中腰でグランドピアノを弾きまくるベンの姿に、ファンの飢餓感が外の豪雨をものともしない超高気圧的な熱気となって講堂内を満たしていくのがわかる。そして……今回のセットリストはまさに、そんな熱気をさらに別次元の高揚感へと導いていくものだった。以下、ネタバレを避けたい方はジャパン・ツアー期間中は読み飛ばしていただければ幸いだが、もしこの文末のセットリストを事前に見たとしても、「ああ見ちゃった」よりはむしろ「うわ!」という驚喜が先に立つに違いない、ベン・フォールズ全開放的な内容のアクトだった。
今回はベン・フォールズ(Vo・Piano)に加え、サム(Dr)、ライアン(B・アコギ)、アンドリュー(Key・ホルン)、チャド(Perc・アコギ)の計5人編成でのステージ。英作家ニック・ホーンビィとの共作による最新アルバム『ロンリー・アヴェニュー』のストリングスetcのアレンジを再現することを念頭に置いてのバンド・フォーメーションと言えるのだろうが、それがベン・フォールズの、1人でバンド何組分ものダイナミズムを生み出すピアノ・プレイと絡み合い、時にフル・オーケストラが目の前で鳴っているような迫力を描き出し、時にフレンチ・ポップスのようなクール&キュートな色合いを醸し出し(これはアンドリューのホルンの役割が大きい)……と変幻自在なサウンドを紡ぎ出していく。ピアノ・ロックとして固まりつつあった自分の世界に対して自ら一石を投じようとして作り上げたのが『ロンリー・アヴェニュー』の豊潤かつ実験精神にあふれたサウンドだったはずだが、メロディアスなバラード・ナンバー“ベリンダ”すら渾身のピアノの轟音でもって燃え上がらせてみせるベンの姿から滲んでくるのは、自分の表現のテイスト云々は関係なく、ただこの一瞬を、全身全霊を傾けて輝かせようとする当代随一のピアノ・ロック・アーティストの朗らかな、そして壮絶な闘争心そのものだった。
日本の復興支援アルバム『Tsunami Relief』で披露していたケシャのカバー“スリージー”(「この曲がすごく好きだったわけじゃなくて、たまたまその時1位だった曲がこれ(笑)」とのこと)ではベンのハンドマイクのラップがフロアを揺らし、“ユー・トゥ・サンク”のシンセ・リードのアルペジオがどんなギタリストのソロよりも鮮烈な飛び道具として響き、「今日はライブ・レコーディングしてるんだ。みんなの声を聴かせてくれよ!」と“ヒロシマ”日本語バージョン会場一丸大合唱&“ノット・ザ・セイム”三声コーラスがさらなる歓喜を呼び起こし……と、序盤から全曲クライマックス状態。“ザック・アンド・サラ”“ロッキン・ザ・サバーブス”というソロ時代の必殺ナンバーに“アンダーグラウンド”“ケイト”というベン・フォールズ・ファイヴ時代の必殺ナンバーを織り重ねてぶっ放す終盤の展開も含め、すべてが決定的瞬間と言えるものだった。が、この日の真の決定的瞬間は、中盤の“アニー・ウェイツ”の後、メンバーが一時退場し、ベン1人でピアノで披露した“ピクチャー・ウィンドウ”からの6曲だろう。
もう、圧巻。「1人になって音が薄くなる」どころか、バンド・アンサンブルというチーム・プレイから解放されたことで、格段に機動性と剛軟のダイナミクスを増して響くベンのピアノ。熱狂の彼方から静寂の淵まで瞬時に行き来しながら満場のクラップを巻き起こすBF5曲“ザ・ラスト・ポルカ”のピアノ・ソング・スペクタクル状態。グランドピアノが金属弦のカタマリだということを改めて思い起こさせるカオティックな低音の打撃から、天使の羽音のような高音鍵のアルペジオまで……およそ音楽の表現と呼べるものすべてをその掌中に収めたかのように、ベンのプレイは凄まじく、かつ優しかった。そんな1人パートの最後を飾ったのは、“ソング・フォー・ ザ・ダンプド”の日本語バージョン=“金返せ”! ここぞとばかりの合唱を受けて、演奏の手を止めて指揮者のように会場のコーラスを煽り、ジャジーなアレンジのエンディングで締め括ってみせる。これで盛り上がらないわけがない。
“ロッキン〜”の後、「15年間ありがとう」と日本のファンの熱烈な支持へ感謝を伝え、再び指揮者となって“アーミー”で会場のコーラスを誘ったベン。アンコールでは再び弾き語りで“ザ・ラッキエスト”の、それそのものが一編の映画であるかのようなロマンチックな旋律を聴かせた後、バンド・メンバーとともに鳴らした最終曲は問答無用のBF5の名曲“フィロソフィー”! エンディングに“テーマ・フロム・ドクター・パイサー”を一瞬絡め、「トキオ、サイコー!」という絶叫とともに、歓喜に任せて鍵盤に拳を叩きつけるベン。その心地好い残響音と割れんばかりの拍手の中、いつものようにすたすたとステージを去っていったベン。「ピアノ・マン」という窮屈な形容詞には到底収まり切らない表現力を存分に見せつけた全30曲・137分間だった。次の公演は5月31日・渋谷C.C.Lemonホールにて!(高橋智樹)
[SET LIST]
01.Levi Johnston's Blues
02.Doc Pomus
03.Gone
04.Belinda
05.Sleazy(KE$HA cover)
06.Sentimental Guy
07.You To Thank
08.Effington
09.Hiroshima(in Japanese)
10.Not The Same
11.Still Fighting It
12.Adelaide
13.Bastard
14.Saskia Hamilton
15.You Don't Know Me
16.Rock This Bitch
17.Annie Waits
18.Picture Window
19.The Last Polka
20.Brick
21.Gracie
22.Boxing
23.Song For The Dumped(Japanese version)
24.Underground
25.Zak And Sara
26.Kate
27.Rockin' The Suburbs
28.Army
EC1.The Luckiest
EC2.Philosophy
ベン・フォールズ @ 昭和女子大学 人見記念講堂
2011.05.29