ここで淡いピンスポを一人浴びながら、静謐に歌い出す吉野。直後に嵐のような轟音の中へと突入してゆく“東京west”だ。なんであのMCからいきなりこのテンションに持ち込めるんだという所だが、それが極めて自然なステージになっている。エモーションの扉が開き易い。 イースタンの激しい表現世界が、日常と近くなっている。たっぷりと間を取りながらの緊迫したジャム・セッションから“踵鳴る”に沸いた後には、「相変わらず、回遊魚のように歩き回っています。だけど、なんていうのかなあ、街の一体感みたいなものと、決して交わることがない。交わることが出来ない。たぶん、俺がお務めというものをしていないからだと思う。弁解すると、俺は歩き回ることがお務めだと思うんだよね……ここでも認められない(笑)。そうやってすれ違う人は俺には何の関係もないし、向こうからしても関係ないんだけど、すれ違うことで得るものがあると思うんだよね。家の中でカタカタやるんじゃなくて、こうして出てくることがさ。一人で来てる人もいっぱいいると思うの。そういう日々ってのはクソッタレだけど、すごく嬉しいことだと思う」という吉野の語りを経て“雑踏”だ。分厚いノイズの向こうにメロディが凛と立ち、《立ち止まって後をふと振り返れば/似たような顔の
誰かが俺の方を見ていた》という最後のセンテンスが染みる。
“午前0時”を披露すると、「メソメソ泣いてたんだよ。何もする気にならなくて。酒は呑んでたけどね。皆さんご存知ないようだけど、俺もの凄い役立たずだな、と思ってさ。そしたら今度は、だんだんハラ立ってきたんだよね。チキショー!ってなったらさ、なんか楽しいわけじゃないんだけど、ハイになってきて。だから次の曲でこのミラーボール回ります。チキショー!みたいな。ワーッ!みたいな感じで」と“尻を端折ってひと踊り”へ。なるほど、つまりそういうムードだったのだ。一気に腑に落ちる感じがした。激しい感情がとめどなく溢れ出すイースタンの表現世界が一層日常に近くなり、何かハイになっているこのムード。つまり我々は今、そういう日々を生きているということなのだ。そしてオーディエンスによる4カウントで高らかにプレイされる“男子畢生危機一髪”、タモさんのハチロク・ビートにニノさんのベース・フレーズが絡み付いてスタートする“青すぎる空”の連打である。盛り上がらないわけがない。
「喉元過ぎればってやつでさ、もうみんな雨に降られてもビビらないし、水を飲むにもビビらないでしょ。腹も決まってきたし、なるようにしかならんっていう諦めもあるよね……。いろんな考え方があるから、絶対にこれだけが正しいっていうこともないし。でもちょっと待てよ? 今の時期とかこう、ザーッと夕立ちとかあるじゃん? いきなりザーッと降って雷でキャーッ!てなって、チャリンコでワーッ!って走ったりとかさ。そういう俺のお楽しみはどうしてくれんだよ!って……やっぱり使わない方が良かったんだよ。俺たち間違えてた。あの、黄色い扇風機みたいなマークのさ………俺たちは、それがたとえどんな雨であっても、ダンッゼン、濡れて帰るね!」と“雨曝しなら濡れるがいいさ”へ繋ぐ。酔っ払っているわけではない、日々の生活の中でナチュラルにハイになっている吉野の語りは、いつにも増して饒舌だ。
そして最後に「今日はこんなにたくさんの人が集まってくれて嬉しいです。本当にみんなどうかしてんじゃないの? まあ、あんまり人が集まらないような会場もあるにはあったけど、やっぱり数じゃないなってことがハッキリしたよね。ショービジネスだから数が大事っていう考え方もあるんだろうけど、みんな一人一人なわけじゃん? もしかしたらもう会えない人もいるかも知れない。だから、こうして会えて本当に嬉しいです」と“素晴らしい世界”がプレイされた。多くの語りを交えながら、圧巻のバンド・サンサンブルと吉野の叫ぶような歌声は、終始レッド・ゾーンに振り切れたまま、満場のオーディエンスに分かち合われていた。
アンコールではニノさんの「名古屋でピンクのパンチラが見えたりとか。今日も渋谷駅で、タンクトップの脇からポロリと乳首が覗いた……男の方がいてですね。非日常な光景はつい凝視してしまうんですけど、ウカツな格好は出来ないなと思って。クールビズもお互い不愉快な思いをしないように、気をつけましょう」という見事な締めの一言から、“夜明けの歌”、“一切合切太陽みたいに輝く”と披露してゆく。
止まらない催促の声にダブル・アンコールで応え、単音のギター・フレーズと口笛のメロディからオーディエンスのOIコールを巻いて
プレイされたのは“夏の日の午後”だ。それぞれが激しく揺さぶられる感情を、分かち合う場があるということ。それこそが他でもなく、ショービジネスの、そしてeastern youthの本質だ。余りにも完璧な、2011年夏のeastern youthであった。さて、次は7/23『モテキナイト3』、その後はフジ・ロックだ。暑い夏は続く。
(小池宏和)
セット・リスト
1:ドッコイ生キテル街ノ中
2:靴紐直して走る
3:這いつくばったり空を飛んだり
4:沸点36℃
5:荒野に針路を取れ
6:東京west
7:踵鳴る
8:雑踏
9:午前0時
10:尻を端折ってひと踊り
11:男子畢生危機一髪
12:青すぎる空
13:雨曝しなら濡れるがいいさ
14:素晴らしい世界
EN1-1:夜明けの歌
EN1-2:一切合切太陽みたいに輝く
EN2:夏の日の午後