Mr.Children @ 日産スタジアム

音が鳴り始めた瞬間、これはあまりに巨大なファンタジーじゃないか?と錯覚するほどだった。65000人の大歓声と混じり合いながら、桜井和寿/鈴木英哉/田原健一/中川敬輔の4人+サポートを務める小林武史の音が、そして桜井の歌が、あまりに途方もないスペクタクルとして響き渡っていたからだ。が、開演早々、そのステージ上で鳴らされる楽曲が紛れもない僕らの今と明日と人生を照射した瞬間、その巨大な視界は一気に日産スタジアムを満たした1人1人のものになり、誰もがその音楽を自らの鼓動として感じながら思いのままに躍動する……この日のMr.Childrenが、アンコールまで含め全26曲・約3時間にわたって展開していたステージはそういうものだった。もはやMr.Childrenというバンドが「Mr.Children自身のためのMr.Children」を越え、「Mr.ChildrenのファンのためのMr.Children」を越え、「ロック・ファン/音楽ファンのためのMr.Children」をも越えた大きな存在であることは誰もが知っていることだが、この日の日産スタジアムで鳴り響いたMr.Childrenの音楽は、「誰のため」とか「誰のもの」とかいう次元を遥か遠くに置き去りにして、全身全霊を傾けてロックの/ポップ・ミュージックの極点を体現するものだった。「音楽ができること」を消去法で抜き出していくのではなく、目も眩むほどのスケール感でもって「音楽ができること」を堂々と提示する――およそロック・バンドが描き得る最高の風景がここにはあった。8月20日の広島ビッグアーチ公演から全10公演・トータル約42万人(!)という規模で開催されているスタジアム・ツアー『Mr.Children STADIUM TOUR 2011 SENSE -in the field-』の中でも、実に13万人を動員した今回の日産スタジアム2days公演。この日=9月4日はその2daysの2日目にしてツアー4本目……ということで、ライブ全体のセットリストや構成・演出についてはネタバレ回避のため割愛させていただくが、“I”“擬態”“365日”“ロックンロールは生きている”など昨年12月リリースの最新アルバム『SENSE』の楽曲、そして3月11日の震災後に発表された“かぞえうた”を強靭な軸としつつ、巨大ビジョンを駆使してコンセプチュアルなメッセージを編み上げつつ、超初期曲から前作『SUPERMARKET FANTASY』の曲まで幅広く(もちろんミリオン・シングル曲も随所に交えながら)披露して大輪の花を添えていく、というものだ。たとえば《Hey you 日が暮れる 今日はどんな一日だった? 全部が思い通りにいくはずないって 知ってて聞いてんだ》というマンツーマンの呼びかけからオーディエンス1人1人をロック・アドベンチャーへ直結してみせる“Prelude”。たとえば笑顔と情愛そのもののような音像の中、桜井がアリーナ席に伸びた花道の先からでっかいシンガロングを巻き起こしてみせた“I'm talking about Lovin'”。たとえば激しいアコギのストロークとバンドのグルーヴ感でもってヘヴィ&インダストリアルな音の風景を立ち上らせた“I”……「日本を代表するバンド」としてのプレッシャーも自律も振り切って、1つ1つの想いを最大限に花開かせ突っ走らせた結果、過去最大級のダイナミックさと静謐さを全方位的に内包したのがアルバム『SENSE』だったわけだが、5月までのアリーナ・ツアー『Tour 2011 SENSE』でその音楽世界をも完全に血肉化した今のMr.Childrenの、ロック・バンドとして/アーティストとして放射する全能感は想像を遥かに越えたものだ。そして、そんなエネルギーとメッセージのカタマリのような楽曲の1つ1つを桜井は、「横浜! 65000人のヨコハマー!」と喉も裂けそうな絶叫とともにスタジアムの隅々まで包み込むように高らかに歌い上げ、1人でも多くの観客に届けとばかりにステージ両袖まで全力疾走し、満場のクラップやジャンプを巻き起こしていくのである。中盤、ある曲の冒頭で桜井が「Mr.Childrenが今まで発表した曲、184曲あるんですけど――それにもうすぐ20周年ですって! 来年の話ですけど――その中のほんの1曲でも、みんなの人生を励ますような曲があればいいな、という思いを籠めて、次の曲を届けます」と語っていたのには、感激を通り越して身体が震えた。文字通り日本を代表するモンスター・バンドならではの表現衝動と使命感が、長いキャリアを経てなおも抱き続ける少年のような夢とエモーションと一緒になってスタジアム規模で渦を巻きながら、触れる者すべてを鼓舞するマジックとして炸裂していくのである。戦慄するなというほうが無理だ。なお、本編のMCで「せっかくこのスタジアムで『これから何が起きるんだろう?』って思ってるところに、最終日の話をしてもいい?」と、今回のツアーのフィナーレを飾る宮城公演(9月24・25日@国営みちのく杜の湖畔公演 風の草原)について触れていた桜井。震災後初となるMr.Childrenの宮城ライブ開催にあたって「『おみやげ』を持っていきたいと思うので、みなさんに力を貸してほしい!」と、65000人一丸となってある試みを行っていたのだが、その中身はここでは内緒にしておく。もちろん、3月の大震災を経て”かぞえうた”が生まれ、Mr.Childrenの表現がさらに先の次元へと高まったのは事実だし、会場内にも被災地への義援金箱を設置したり、公演開催にあたって節電にも真っ向から取り組んだり、といったアクションによって今の困難な状況に応えようとしていたのも事実だ。しかし、この日のステージでMr.Childrenが体現していたのは、もっと根源的なものだったように思う。音楽が人間に作用するということ、人間が音楽に祈りや希望を託すということ――それらが持つ切実さ、哀しさ、愛おしさ、そして強さそのものが、26の楽曲として夏の夜空にでっかく弾けていた。《ただただ自分の身の丈を知らされる それでも心は手を伸ばし続ける》と“蒼”を真摯に歌い上げた桜井の姿を、温かなヴァイブにあふれたバンド・サウンドで僕らの「希望のゼロ地点」を「スタートライン」へと塗り替えた“かぞえうた”を、渾身のポジティビティが荘厳な高揚感を描き出した“fanfare”を、そしてこの日のMr.Childrenの壮絶なまでの生命力の輝きを、僕は一生忘れない。いや、この日この場所にいた誰もがそう思ったに違いない。そういう音楽が、今この時代に、僕らとともにある……日産スタジアムからの帰り道、その事実が何よりも誇らしく、熱く胸に迫ってきた。(高橋智樹)
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