ゆらゆら帝国 @ 横浜BLITZ

ぴったり1ヵ月前にリリースされたニュー・アルバム『空洞です』のツアー。

『空洞です』は、音もそこにこめられた発想や思想も込みで、ひたすら斬新で革新的で耳からウロコの作品だったけど、同時に「どうやってライヴでやるんだこんなの」という作品でもあった。こんなエッジのない、平坦な、抑揚やドラマ性や上がり下がりのない曲達(なのに退屈とは正反対なのが画期的なんだけど)、ライヴでどうお客にプレゼンすればいいんだ、という音の塊でもあった。

でも、基本的にはギターとベースとドラムと歌でできてる音なんであって、ならそれをそのままやれば、それがどういう音楽だろうとゆらゆら帝国みたいな異常な実力のバンドなら成立してしまうのだった。ってことがよくわかりました、この日のライヴで。

踊れない、暴れられない、一緒に歌えるわけでもない、ただ固まってぼーっと観て聴いているしかない。それが『空洞です』の、いやこのアルバムに限らずここ最近のゆらゆら帝国の音楽であり、だからライヴで生で音を浴びるよりもヘッドホンでぴっちり耳をふさいでアルバムを聴いてハマるのがふさわしいかも。と思っていたけど、大間違いでした。ゆらゆらと踊れるし浸れるし、酔えるし、いっそうハマれます、ライヴだと。

ロックンロールとブルースとハウスとレゲエとヒップホップと音響系の、いいところだけが全部ある感じ。それも、音楽的な手法として、レゲエの裏打ちリズムがあるとかハウスの四つ打ちがあるとか、そういうことじゃなくて、手法的には特にそういうのは取り入れられてないんだけど、「ニュアンス」や「ムード」や「空気」として、それらの音楽の要素が入っている感じなのだ。そのニュアンスを、ゆらゆら帝国がギターとベースとドラムと歌を使って表そうとするとこうなる、ということなのかもしれません。違うかもしれません。どっちでもいいです、とにかく強烈に気持ちいいので。

全17曲中アルバムからの曲が約2/3、それ以外が約1/3。その両者では全然色が違うんじゃないかと思っていたけど、意外にすんなりなじんでいたのにも驚いた。

にしても、いつも思うけど、ゆらゆら帝国ぐらいライヴ・バンドとして、楽器を操る人として優れている存在、めったにいない。以前は「一見古そうで実は新しい」感じだったのが、今は「もうあからさまに新しい」感じ。中盤、“EVIL CAR”での坂本慎太郎のギター・ソロ。音色といいフレージングといいアクションといい、あんなにも「これまでに聴いたことも観たこともなかったギター・ソロ」を味わったの、僕は初めてだった。

というようなことを、このバンドのライヴを観る度に思う。(兵庫慎司)