【コラム】山口一郎セレクトMVから読む、[他者]を楽しむというサカナクション的方程式

【コラム】山口一郎セレクトMVから読む、[他者]を楽しむというサカナクション的方程式

サカナクション・山口一郎の「トーク無し、音楽のみの番組で、様々なジャンルのミュージシャンが深夜にDJしてくれたら嬉しい」というつぶやきがきっかけとなり、山口自身がセレクターとしてお気に入りのMVを紹介する番組『MUSICIAN'S SELECT~selected by 山口一郎(サカナクション)~』が8月25日、スペースシャワーTVで放送された。紹介されたMVは全13曲。バラエティに富んだセレクトは、楽曲の良さは言うまでもなく、どれも映像作品として楽しめるものばかりだった。

サカナクションのMV制作にも感じられることだが、ミュージックビデオはミュージシャンの純粋な作品ではなく、そこに他者(映像作家)の視点や表現を加えることによって、視聴者に新たな解釈を示したり、想像力を喚起させたりする作用を持つものだ。洋邦問わず、ストレートに演奏シーンのみで構成されたMVも数多く存在するが、サカナクション、そして山口一郎の場合は別の視点を積極的に取り入れる方を好む。それは緻密に練り上げた作品を他者に委ねることでもあり、それを嫌うミュージシャンも少なくないはずだが、その「他者の表現」を取り込んだときに起こるカオスや戸惑いこそがMVの醍醐味だと、山口はとらえているのではないか。今回のセレクトは、それを感じさせるものばかりだった。

たとえば、1曲目にセレクトされた“今夜はブギー・バック(NICE VOCAL)”(小沢健二featuringスチャダラパー)。この見事な異種掛け合わせ感は、小沢健二、スチャダラパー、それぞれの音楽活動だけでは出てこなかったものだし、2曲目の“Shangri-La”(電気グルーヴ)は、ロマンティックな名曲に過剰で下世話な映像世界を合わせた異色の作品である。この心地好い違和感が楽曲を「名曲」として固定させることを拒絶し、より多くの音楽ファンに受け入れられる結果となった。さらに、“夜行性の生き物3匹”(ゆらゆら帝国)のMVにいたっては、そうしたカオスが一周まわって別の着地点に到着するという実験を見せられているような作品だった。ひょっとこ面をかぶった男たちがひたすら阿波踊りを踊るというだけのこのMV。シャッフルのリズムが祭りのリズムに近いとはいえ、MVを見ると、もうこの曲は祭りだとしか認識できなくなる。映像なしでこの曲を聴いたときと、MV込みで聴いたときとでは、明らかに楽曲の持つイメージが変わるのだ。このように、山口は、映像として作り上げた作品が楽曲のイメージを塗り替えてしまうくらいの力を持つことを良しとし、それを自らの作品制作でも楽しんでいるのだと思う。他者の視点が持ち込まれることを恐れない、それこそが山口一郎のアイデンティティなのではないか。そして、ラストの“ギミチョコ!!”(BABYMETAL)のセレクトに驚いたファンも多かったはずだが、これこそ、別視点のもの同士がお互いを受け入れて予想以上のクリエイティヴを生むという最たる例であろう。

今回の放送を見逃してしまった人は、2015年8月31日(月)25時からリピート放送が決定しているので、今度はお見逃しなく。ぜひとも今回放送された全曲のMVを観て、山口一郎のフェイヴァリットをじっくり感じてみてほしい。(杉浦美恵)
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