BUCK-TICKの「TOUR 2011 “うたかたのRAZZLE DAZZLE”」。昨年10月にリリースされた最新アルバム『RAZZLE DAZZLE』を引っ提げたホールツアー後のライブハウスツアーとして、今年1月から4月にかけて行う予定の本ツアーだったが、東日本大震災の影響で3月12日以降の公演がすべて見合わせ。当初は公演中止も危惧されていた全7公演(FC限定ライブ2公演を含む)のリベンジ戦である。今夜は、そのファイナルとなるZepp Tokyo公演。実質的には翌9日にFC限定によるファイナルが控えているが、『RAZZLE DAZZLE』をめぐる1年越し旅は今夜をもって終着点を迎える。
予定時刻から15分が過ぎた頃、長い長いSEに続いてメンバー登場。そのまま「1・2・3・4!」というヤガミトール(Dr)のカウントから“独壇場 Beauty –R.I.P.-”へ流れると、ステージ背後のネオンがパッと輝きギラギラときらびやかな世界が現れる。さらに“Baby, I want you.”を畳みかけ、四つ打ちビートで押しまくるレイヴ空間を初っ端から築いていく5人。巨大なミラーボールがぐるぐると回る中、八角形のミニステージ(お立ち台)にそれぞれ立ってパフォームする彼らはさながらショービズ界のスターのような眩さだ。昨年のホールツアーでもアルバムのディスコティックな世界観を打ち出したオープニングに度肝を抜かれたが、その流れはライブハウスを舞台とした今回のツアーでも変わっていない。
とは言え、映像や華やかな装飾を駆使してヴィジュアル的にも大きく訴えかけていたホールツアーと違って、今回のツアーはあくまで控えめ。基本的にはステージ背後のネオンが時折インパクトを放つだけのシンプルな演出のため、耳からの情報のみに集中することができた。それにより露になったのは、5人が紡ぐバンドサウンドのとてつもない強靭さ。随所でダイナミックなドラミングを魅せながら安定感あるビートを刻むヤガミ、それに淡々と寄り添う樋口豊(B)のビート、歪んだリフと美しいアルペジオが交錯する今井と星野英彦(G)のギター、一切のブレなく高らかに伸びていく櫻井のヴォーカル、もうすべてにスキがない。“Madman Blues –ミナシ児ノ憂鬱-”の退廃的な浮遊感にしろ、“狂気のデッドヒート”のハイパーな疾走感にしろ、“夢幻”の多幸感に満ちた祝祭感にしろ、神々しいまでの威厳と重厚感を放っているのだ。櫻井がシルクハットを目深にかぶって舞い踊った“Django!!! –魅惑のジャンゴ” では、不敵に突き進むビートと官能的なムードに身も心も溶けてしまいそうになるほど。どの曲もディープな世界観が堂々と立ち上げられていて、胸をすくような爽快感に襲われる。BUCK-TICKは以前から、「しっかりとしたメロディ」「しっかりとしたリズム」で濃密なアンサンブルを紡いできたバンドではある。しかし、その聴く者の衝動を底から突き上げるような圧倒的なサウンドの強度に、デビューから25年近くもわたって変わらぬメンバーでアンサンブルを鍛え上げてきたバンドの重みを改めて痛感せずにはいられなかった。
「さあ、もうひと盛り上がりしましょう」という櫻井の言葉で幕を開けた終盤は、“Memento mori”からスタート。独特の湿り気を帯びたオリエンタルなサウンドが、Zeppを辺境の地へと連れ去る。イスラム教のコーランを想起させるような櫻井の呪術的なヴォーカルとうねるグルーヴが徐々に熱を帯び、神の国へと上り詰めて行くような荘厳な展開は圧巻。個人的に今夜のハイライトのひとつだった。続く“Jonathan Jet-Coaster”では一転して、バキバキと掻き鳴らされるリフがスペイシーな覚醒感を演出。さらにシトシト雨が降りしきる悪天候に見舞われた今夜の空を愛でるような“RAIN”をしっとりと奏でた後は、「あと1曲、大丈夫かい? さあ行こう!」と本編ラスト“真っ赤な夜”へ。アグレッシヴに放たれる弾丸ビートとせめぎ合うギターリフが場内を文字通り真っ赤に燃やし尽くして、戦慄のラストを迎えた。
アンコールでステージに舞い戻るなり5人が投下したのは、“くちづけ –SERIAL THRILL KISSER-”。ホールツアーで聴いたときにも思ったが、切迫した打ち込みのリズムとメランコリックな旋律の絡み合いが、とてつもなくカッコいい。さらに間髪入れずに“月下麗人”へ流れ、退廃とセンチメンタリズムで彩られた極彩色のグルーヴを押し広げて退場。それでも帰る素振りを見せないオーディエンスに促されて再登場したダブルアンコールでは、「今レコーディングをしてまして。新しい曲もできてます。来年はデビュー25周年なので、また盛り上がっていきましょう」という嬉しい報告の後、“天使は誰だ”“Alice in Wonder Underground”をリズミカルに鳴らして、フロアを再び大きく揺らす。さらに「皆さんの健康とお幸せに乾杯しましょう」という最後の挨拶から、《あなたのその暗闇に乾杯しましょう》と歌う“DIABOLO”でフィニッシュ。ステッキをついて威風堂々と立ち回る桜井の下、今にも道化師たちが飛び出してきそうな幻惑的なムードでZeppを覆い尽くして2時間弱のアクトを締めくくった。
徹頭徹尾ダンスビートで攻めまくるアゲアゲのステージ。今夜のアクトを総括するならば、そんな言葉がもっともふさわしい。とは言え、単に快楽に訴えかけたピカピカなステージではなく、「死」や「闇」を連想させるゴス的な匂いが漫然と漂っているところがなんともBUCK-TICKらしかった。今のBUCK-TICKのおもしろさは、そんな彼らのデビュー当初からの表現欲求となっているネガティブな要素が、アルバムを重ねるごとにポップで突き抜けた表現につながっているところだ。「ダンス」や「リズム」というコンセプトを前面に打ち出して、徹底的に開かれたライブを観た今夜、その思いはさらに強まった。そして、今後彼らがどんな方向に振り切れようとも、BUCK-TICKをBUCK-TICKたらしめる絶対的な核の部分は決して揺らがないことを感じさせる、力強い夜でもあった。今後はどんな展開を見せてくれるのか。デビュー25周年を目前にした今もなお、そんな期待感を煽ってくれるバンドはそうそういないと思う。(齋藤美穂)
セットリスト
1.独壇場 Beauty –R.I.P.-
2.Baby, I want you.
3.Madman Blues –ミナシ児ノ憂鬱-
4.RAZZLE DAZZLE
5.狂気のデッドヒート
6.夢幻
7.Django!!! –眩惑のジャンゴ-
8.絶界
9.Lullaby-Ⅲ
10.TANGO Swanka
11.羽虫のように
12.Memento mori
13.Jonathan Jet-Coaster
14.RAIN
15.真っ赤な夜
アンコール1
16.くちづけ –SERIAL THRILL KISSER-
17.月下麗人
アンコール2
18.天使は誰だ
19.Alice in Wonder Underground
20.DIABOLO
BUCK-TICK @ Zepp Tokyo
2011.12.08