これまでフライング・ロータスやデイダラスらを輩出してきたLAのウィークリー・クラブ・イベント「Low End Theory」を中心に活動しているデヴォンフー(Devonwho)のDJセットが終わると、ネオン・インディアンがステージへ。ドラマー、シンセサイザー2人、曲によって持ち替えるベーシスト兼ギタリストという構成のバンドに囲まれ、サンプラーを駆使してSEを盛り上げるアラン。明滅するストロボに会場の緊張感がこれ以上ないくらいまで高まると、2009年のデビュー作『Psychic Chasms』の“Local Joke”に入る。
往年のポップ・スターというのかロック・アイコンというのか、マイク・スタンドを握りしめ、1つ1つのフレーズごとに全身を使って情熱的に歌うアランのステージングがまず意外だったが、彼のメキシコ人の父親は1980年頃に母国の音楽シーンでスターダムにあったというから、血筋ということもあるのかもしれない。「今日は日本でまったくもって初めてのショウなんだ。楽しい時間にしよう」と話し、同じく1stアルバムから“Terminally Chill”を始める。
『Psychic Chasms』収録曲のファニーで愛らしいシンセ・メロディとチープに歪んだギター・リフには、自分の駄目さのせいで窮地に陥ってちょっと困っているような、でも肩をすくめてなんとなくふわりとやり過ごしてしまうような、テキサスという温暖な地方のイージーゴーイングな精神がよく表れている。映画の勉強をしていたというアランは頭の中に浮かんだイメージにサウンドトラックを付けるようにして曲を作っていくそうだが、そこから我々聴き手が再構成する情景はいつも夏だ。
新作の方向性はシリアスで重たい。彼ら自身もライヴ向きではないと判断したのか『Psychic Chasms』の歌詞付きの楽曲が8曲全て演奏されたのに対し、『Era Extraña』からはわずかに4曲のみだった。
彼らは変化しつつあるのだと思う。でもそれはどんな変化なのだろうか?
アランによれば、『Era Extraña(奇妙な時代)』というタイトルのスペイン語「extraña」には、直訳である「strange(奇妙な、見知らぬ)」の意味とともに「missing(不在を寂しく思うこと)」のニュアンスも含まれているという。つまりそこには異郷の地にあってかつて親しんだものを懐かしむ気持ち、ポルトガル語で言う「サウダージ」、日本語で言えば「郷愁」に近い情緒があるのだろう。インタヴューでは比較的饒舌に語る彼はこの言葉に関連して、「物事は僕らの内面にあるものが自分たちの人生にとってどんな意味合いを持っているのかについて十分に慣れ親しむ(精通する)ことのできないほどの速度で変化している」という現代には、「(変化の速さに追いつけずに)不快であるという事実自体をとても快適に感じるという変な矛盾」があると話している。
この感覚は今日演奏されなかった曲の1つである“Future Sick”で特にはっきりと表明されているが、インターネットの発達によって史上初めて特定の土地に根差さない音楽ジャンルとして成立したチルウェイヴの中心人物とされるアーティストからこうした言葉が出てくるのは、興味深いことだと思う。我々が多くの場合に自らの内面にある物事に慣れ親しむことをやめ、快‐不快をめぐる新しいゲームが行われる異郷の地――ほとんど世界中に広がり、しかもどこにも存在しない土地――に足を踏み入れたこと、それはチルウェイヴが成立し、その音楽に共鳴するリスナーが大量に現れたことの前提でもある。その土地で「extraña」の感慨を抱くアラン・パロモは、ある意味ではチルウェイヴ・ムーヴメントから最も疎外されている人物なのだ。そしておそらく彼はまだその状況に対する答えを見出してはいない。
セットリスト
1. Local Joke
2. Hex Girlfriend
3. Terminally Chill
4. Polish Girl
5. Mind Drips
6. 6669
7. Fallout
8. Psychic Chasms
9. Deadbeat Summer
10. Ephemeral Artery
アンコール
11. Should Have Taken Acid with You
12. The Blindside Kiss