飯田瑞規(Vo./G.)や三島想平(Ba.)が語っていたところによれば、『into the green』のリリースを機に、これまでのディスコグラフィーを振り返りつつ『望郷』という公演タイトルどおりのコンセプトで形作られるという今回のステージ。序盤からキャリア初期の配信シングル曲“AIMAI VISION”を繰り出してみせたり、まさに過去のリリース作品を総覧するような選曲でスタート・ダッシュを仕掛ける。
激しいアクションを見せながら同時に変幻自在のギター音響を繰り広げる辻友貴(G.)。大きなうねりの中に突き刺さる一発を放り込んだり、高速回転するナンバーの中では機関銃のようなフィルを打ち込む久野洋平(Dr.)のビート。そして音自体が生き物のように活発に這いずり回る三島のベース・フレーズ。容赦無しのバンド・アンサンブルの中から、時に透きとおった、時に熱を帯びた飯田の歌声とメロディが抜け出て来る。彼らの研ぎ澄まされたコンビネーションは、これまでのキャリアにおいても既に幾つかのライヴ音源を残しているからこそ尚更、目に見えるように成長の足取りが明らかになっている。“ニトロ”のイントロでは歓声の輪が広がり、不敵な表情を見せながらギターを掻き毟る辻であった。
“KARAKURI in the skywalkers”の最後にこの日最大級の不協和音を叩き付けると、飯田は「皆さん楽しんでますよね……楽しいなー…」と零れるような言葉を挟み、9/5にリリースされるミニ・アルバム『SALVAGE YOU』からの楽曲を紹介する。今回披露されたのは、突き抜けるような爽快感とともに走り、飯田自らキラッキラのギター・フレーズを添えてゆく“奇跡”と、辻が印象的なリフレインを奏で、夢見心地なのに強靭な意志の形を受け止めさせる“warszawa”の2曲。どちらも素晴らしいナンバーだった。
ところがこの後、昨年のアルバム収録曲を中心としたブロックに向かおうとするとき、“実験室”での飯田のエフェクター周りだろうか、機材トラブルが発生してしまう。復旧作業中に三島が「今回はあまり喋らないようにしようと思ってたんだけど(笑)。こんなトラブル何度も経験してるから、全然テンパってないよ」と笑いを誘ったり、久野も「頑張って、って言われるのが一番つらいよ! 小学校のときに長距離が苦手だったんだけど、最後の方を走ってると、頑張って、って言われるんだ。それを思い出した」と間を繋ぐために奮闘。遂には「久野くんがART-SCHOOLを歌います!」という無茶ぶりにも応え、アコギを奏でながら今にも歌い出す、というところまで行った。つくづく、良いバンドである。
このトラブルがあったために、ベストのライヴ、にはならなかった。アーティストが思い通りの音を出せなかったことが分かる以上、ベストのライヴとは呼べない。ただ、とりわけ三島が「もうすこしで終わります。生きては帰さねえぞ!!」と昂った声を吐き出してからの“白い砂漠のマーチ”、“super throw”、“想像力”と畳み掛ける終盤の追い上げは、壮絶の一語に尽きるものだった。実際に熱が冷めてしまってもおかしくないぐらいの中断だったし、立て直しの意気込みが空回ってしまうような不安も脳裏をよぎったが、この4人の「意気込みに乗っかる力」は半端なものではなかった。嘘だと思うなら、この日のライヴの模様が『SALVAGE YOU』の特典DVDに収められるそうなので、ご自身の目と耳で確かめて頂きたい。
「世界を救おうなどという大言壮語は吐けませんが、自分と、今ここにいる人たち、自分たちの音楽を聴いてくれる人たちが、幸せに近づくよう強く願い、これからも続けて行きます。我々は、岐阜県から来ましたcinema staffです。ありがとうございました」。三島の堂々たる言葉は、『SALVAGE YOU』を掲げて未来へと踏み出す、意思表明だったろうか。本編ラストはもちろん、眩い音像と照明が一緒くたに押し寄せて来る万感の“into the green”だ。
なお、『SALVAGE YOU』のリリースに伴うワンマン・ツアー『“夜は短し歩けよ辻”』(公演タイトルの告知で場内爆笑。相変わらず気が利いている)の開催も発表された。10/5の北海道から11/9の東京までの全10公演が予定されているので、まずはオフィシャルHPのチェックを。また、ROCK IN JAPAN FES. 2012には8/4(土)に出演が予定されているので、こちらもぜひお楽しみに。(小池宏和)
01: 水平線は夜動く
02: AIMAI VISION
03: daybreak syndrome
04: ニトロ
05: AMK HOLLIC
06: 部室にて
07: シンメトリズム
08: 第12感
09: 優しくしないで
10: KARAKURI in the skywalkers
11: 奇跡
12: warszawa
13: 実験室
14: skeleton
15: 棺とカーテン
16: 白い砂漠のマーチ
17: super throw
18: 想像力
19: 君になりたい
20: into the green
encore
01: Talking Machine <9mm Parabellum Bullet cover>
02: poltergeist