イエローカード @ SHIBUYA-AX

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イエローカード @ SHIBUYA-AX
イエローカードの復活と、その喜びを彼らと日本のファンが分かち合う再会の場――昨年2月のリキッドルーム公演以来となるイエローカードの来日公演は、なによりもそんな「共鳴」を強く感じるステージだった。

前回の来日ツアーは2年半に及ぶ活動休止をブレイクスルーしてついに動き出したイエローカードのツアーのキックオフの地に選ばれた日本で、「パンク・バンド=イエローカード」の再生をアグレッシヴにアピールする内容になっていたわけだが、今回のツアーは1年前のあのツアーと比べるとかなりモードが異なっていたように思う。活動休止を経ての「俺達は今なおパンクだ!」という宣言の季節は終わり、新作『サザン・エアー』もパンク以外のサウンド・ヴァラエティを獲得していく色鮮やかな作品になった。それ故に今回のツアーは、彼らのアイデンティティや新機軸を強く打ち出すと言うよりも総括的で祝祭的な、ファンと共に「イエローカード」を作り上げていく内容になっていたと言っていいだろう。

そんなイエローカードの最新日本ツアーの東京公演、渋谷AX。オープニング・アクトを務めたのは、大阪出身の5人組ポップ・パンク・バンド、POP DISASTER。迷いなくストレートエッジな剛速球をばんばん投げ込んでくるタイプの痛快パンク・サウンドで、イエローカードの登場を待つAXをしっかり温めていく。彼らの演奏中にショーンがちょこちょこ顔を出したり、また、イエローカードのライヴの終盤にもPOP DISASTERのメンバーがステージに招き入れられたりと、両バンドがアットホームかつフランクな関係性を築いているのも観ていて気持ちよかったし、何よりこの日のモードに合っていたと思う。

そして20時少し前、大歓声の中ついにイエローカードが登場、いきなりのヘッドスタートでドリフトするショーンのヴァイオリンに、一気に場内にホッピングの波が広がっていく。今でこそ見慣れた風景として定着しているけれど、ヴォーカルのライアンに勝るとも劣らないショーマンシップでヴァイオリンを弾き倒していくショーンの存在は、イエローカードの根幹をなすエンジンだ。“Hang You Up”では早くもOiコールとシンガロングが巻き起こる。「アリガトゴザイマストキオ! ゲンキ? コンバンワ!」と畳みかけるように挨拶するライアン、冒頭の数曲、彼らは見事にノンストップかつシームレスに、ハーメルンの笛吹きよろしくオーディエンスを扇動し引率していく。

「日本に戻ってこれて本当に嬉しいんだよ。前回のツアーも僕らは日本でキックオフしただろ? なぜかって? 日本はいつだって僕らにとって特別な国だからだよ」。そう語ったライアンの言葉はまさに本心だろう。『オーシャン・アヴェニュー』以来変わらずイエローカードを愛し続けている日本のファンと彼らの絆は固く、ある意味日本特有で、そして誠実なものだ。この日のモードがそんな日本のファンに対する感謝の念をにじませた集大成、ベストヒット的なセットリストになったのも当然かもしれない。そう、今回のツアーは『サザン・エアー』を引っ提げての新作ツアーと言うよりも、歴代アルバムの歴代アンセムを満遍なく散りばめたショウアップされた内容で、“Way Away”、“Belive”、“Only One”といった鉄板中の鉄板チューンがこれでもかと波上攻撃のようにフロアに押し寄せてくる。

“Five Become Four”では巨大なサークルモッシュがステージの左右にひとつずつ出現する。ガン闘病も伝えられたショーンだが、この日のステージ上の彼のプレイを観る限りもう大丈夫みたいだ。ショーンのヴァイオリンのコミカルかつヒプノティックな煽り、ライアンのヴォーカルのとことんメロディアスでエモーショナルな情感、そして超絶凄腕ドラマー、ロンギニューの正確かつ実はどんな楽器よりも饒舌なタム連打と、イエローカードのパンクは凄まじく情報量が多いけれど、その過剰さが大渦の中心に向かって常に収束していくカタルシスを感じるのが彼らのライヴでもあって、その渦を具現化するかのようにこの日は幾度もサークルモッシュが出来あがっていた。

「新作から新曲をやるよ。みんな『サザン・エアー』は聴いてくれたか?」とライアンが言って始まったのは“Always Summer”。これらの『サザン・エアー』の曲は“Here I Am Alive”もそうだったけれど、強固な渦を描き出す旧ナンバーと比較するとむしろ渦を「ほどいていく」ような解放感とリラックスを感じさせるナンバー揃いで、それも今回のショウに絶妙な起伏を与えていたように感じる。

起伏と言えば、「次の曲はステファニーに捧げます」とライアンが言い、彼がアコギを抱えて弾き語った“Sing For Me”の静謐な美しさも素晴らしかった(ちなみにステファニーとは昨年亡くなったライアンの叔母様の名前)。この“Sing For Me”から“Empty Apartment”へ、ライアンがアコギで弾き繋いだところにバンドがなだれ込んでくる展開はこの日の個人的クライマックスだったと言っていい。アンコールまで含めて約1時間45分、様々な角度からまさにイエローカードの「全て」を全力でファンと分かち合おうとする、贅沢でサービス精神旺盛な、そしてなによりも温かく優しいショウだったのだ。(粉川しの)
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